部長と私の秘め事
二人で向き合う時
「……確かに、尊さんがただ一人好きになった素敵な人だから、『敵わないんじゃないか』って不安になっていました。私だったら凜さんみたいな目に遭って、同じような結論を出せたか分かりません。……だから余計に彼女を尊敬したし、魅力的な人だなって思いました。……美人だし」
「俺の今の好みは、朱里みたいな女だけど」
「んふふ、ありがとうございます」
私は笑ったあと、溜め息をついて目を閉じる。
「……不安だったけど、彼女の側には知樹さんがいて、二人の絆はしっかりしている。お子さんもいて、凜さんはここで幸せに暮らしているんだと分かりました。……もしも彼女が尊さんを元彼扱いしたり、私にちょっとでもマウントをとったら、嫌な気持ちになっていたと思います。……でも彼女はそんな様子、おくびにも出さなかった。本当に人に配慮できる、素敵な人です」
そこで私は目を開け、尊さんのほうを向いて笑いかけた。
「だから、好きになっちゃいました。さっぱり爽やかな人で、一緒にいると心地いい。凜さんは、私に対して尊さんの今のパートナーだから……と遠慮を持っているかもしれないけど、少なくとも私は彼女さえOKなら仲良くしたい。そう感じました」
尊さんは少しの間黙っていたけど、静かに息を吐く。
「……そう思ってもらえて良かった。……でも、本来なら与えるべきじゃない負担も感じさせてしまったし、今回は付き合わせて悪かった」
「ううん! 半分ぐらいは本場のお好み焼きが目的でしたし」
そう言うと、尊さんは「ぶふっ」と噴き出して笑い始めた。
「半分かよ」
「へへへ、牡蠣も美味しかったですよ」
「朱里は美味いもんを与えていれば、基本的にご機嫌だからいい女だよな」
「お? いい女の条件はそんな感じですか? だったら私、ミス・インターナショナルで優勝できそう」
「野望がなかなかデカいな」
「信長なので……」
「ゲームかよ」
私たちはいつものようにポンポン言い合い、クスクス笑う。
「……尊さん」
「ん?」
「ぎゅーしていいですか?」
「来いよ」
尊さんは微笑み、トントンと自分のベッドを叩く。
「では……、あっ、ちょっと待って! 汗掻いてますから、メイク落としてシャワー浴びてから!」
「……一旦冷静になっちまうが、確かに言う通りだな。俺も汗掻いてるわ」
「じゃあ、動けなくなる前に行ってきます!」
私はムクッと起きると、テキパキとシャワーに入る準備をし始めた。
「一緒に入るか?」
そう尋ねられたけれど、私はちょっと考えてから「んーん」と首を横に振る。
「ゴージャス風呂、独占してきます」
「分かった」
浴槽にお湯を貯めている間、丁寧にメイクを落とした。
すっぴんになった私は全裸になり、洗面所の鏡に映った自分を見る。
(疲れた顔、してるなぁ……)
美味しい物を食べたあとは、いつも恵に『顔がツヤツヤしてる』と言われていたけど、今日はなんとなく冴えない顔をしている。
「……お風呂入ろ」
溜め息混じりに言った私は、なるべく何も考えないようにして髪と体を洗い、浴槽に浸かった。
浴槽の中で膝を抱えていると、今日の出来事が脳裏に蘇ってくる。
もう、何の遺恨もなく夏目さん夫婦とお付き合いしていけると確信している。
凜さんの事は尊敬しているし、とても素敵な人だ。
でも彼女は尊さんの人生に深い爪痕を遺した女性だ。
尊さんは凜さんを傷つけたと思い、長年悩み続けてきた。
今回の旅行でそれが解消し、すぐにすべて〝なかった事〟にはならないけど、お互い想いを伝えて再出発できるようになった。
――けど、思ってしまう。
尊さんが、凜さんに出会っていなかったら。……と。
(駄目だ。心が狭い。あんな素敵な人なのに)
私は溜め息をつき、両手で顔を覆う。
(……尊さんに甘えたいな。……抱いてほしい)
そう思うものの、こんな気持ちで抱いてほしいなんて思うのは駄目だ。
愛されている自信が揺らいでいるから、慰めるためにエッチしてほしいなんて、自分の都合のいいように尊さんを使っているのと同義だ。
私は目を閉じ、隣室にいる尊さんを想う。
彼は今、何を考えているんだろう。
「俺の今の好みは、朱里みたいな女だけど」
「んふふ、ありがとうございます」
私は笑ったあと、溜め息をついて目を閉じる。
「……不安だったけど、彼女の側には知樹さんがいて、二人の絆はしっかりしている。お子さんもいて、凜さんはここで幸せに暮らしているんだと分かりました。……もしも彼女が尊さんを元彼扱いしたり、私にちょっとでもマウントをとったら、嫌な気持ちになっていたと思います。……でも彼女はそんな様子、おくびにも出さなかった。本当に人に配慮できる、素敵な人です」
そこで私は目を開け、尊さんのほうを向いて笑いかけた。
「だから、好きになっちゃいました。さっぱり爽やかな人で、一緒にいると心地いい。凜さんは、私に対して尊さんの今のパートナーだから……と遠慮を持っているかもしれないけど、少なくとも私は彼女さえOKなら仲良くしたい。そう感じました」
尊さんは少しの間黙っていたけど、静かに息を吐く。
「……そう思ってもらえて良かった。……でも、本来なら与えるべきじゃない負担も感じさせてしまったし、今回は付き合わせて悪かった」
「ううん! 半分ぐらいは本場のお好み焼きが目的でしたし」
そう言うと、尊さんは「ぶふっ」と噴き出して笑い始めた。
「半分かよ」
「へへへ、牡蠣も美味しかったですよ」
「朱里は美味いもんを与えていれば、基本的にご機嫌だからいい女だよな」
「お? いい女の条件はそんな感じですか? だったら私、ミス・インターナショナルで優勝できそう」
「野望がなかなかデカいな」
「信長なので……」
「ゲームかよ」
私たちはいつものようにポンポン言い合い、クスクス笑う。
「……尊さん」
「ん?」
「ぎゅーしていいですか?」
「来いよ」
尊さんは微笑み、トントンと自分のベッドを叩く。
「では……、あっ、ちょっと待って! 汗掻いてますから、メイク落としてシャワー浴びてから!」
「……一旦冷静になっちまうが、確かに言う通りだな。俺も汗掻いてるわ」
「じゃあ、動けなくなる前に行ってきます!」
私はムクッと起きると、テキパキとシャワーに入る準備をし始めた。
「一緒に入るか?」
そう尋ねられたけれど、私はちょっと考えてから「んーん」と首を横に振る。
「ゴージャス風呂、独占してきます」
「分かった」
浴槽にお湯を貯めている間、丁寧にメイクを落とした。
すっぴんになった私は全裸になり、洗面所の鏡に映った自分を見る。
(疲れた顔、してるなぁ……)
美味しい物を食べたあとは、いつも恵に『顔がツヤツヤしてる』と言われていたけど、今日はなんとなく冴えない顔をしている。
「……お風呂入ろ」
溜め息混じりに言った私は、なるべく何も考えないようにして髪と体を洗い、浴槽に浸かった。
浴槽の中で膝を抱えていると、今日の出来事が脳裏に蘇ってくる。
もう、何の遺恨もなく夏目さん夫婦とお付き合いしていけると確信している。
凜さんの事は尊敬しているし、とても素敵な人だ。
でも彼女は尊さんの人生に深い爪痕を遺した女性だ。
尊さんは凜さんを傷つけたと思い、長年悩み続けてきた。
今回の旅行でそれが解消し、すぐにすべて〝なかった事〟にはならないけど、お互い想いを伝えて再出発できるようになった。
――けど、思ってしまう。
尊さんが、凜さんに出会っていなかったら。……と。
(駄目だ。心が狭い。あんな素敵な人なのに)
私は溜め息をつき、両手で顔を覆う。
(……尊さんに甘えたいな。……抱いてほしい)
そう思うものの、こんな気持ちで抱いてほしいなんて思うのは駄目だ。
愛されている自信が揺らいでいるから、慰めるためにエッチしてほしいなんて、自分の都合のいいように尊さんを使っているのと同義だ。
私は目を閉じ、隣室にいる尊さんを想う。
彼は今、何を考えているんだろう。