部長と私の秘め事
「中村さんが怯えるの、分かるわ……」
「今、お腹の中ではスーパーアカリン液が出て、食べ物をスムーズに消化しています。今からお昼楽しみ! 何食べよっかなぁ……」
ランチの話をすると、尊さんはげんなりとして言う。
「俺、食ったばかりだから、昼の話はパス」
「食いしん坊なアカリンは嫌いですか?」
エレベーターの中でわざとキュルン顔で尋ねると、彼はクツクツ笑いながら私の頭を撫でる。
「大好きだよ。思う存分食え」
「やったね! 言質取った!」
よく分からない会話をしつつ、私たちは部屋に戻って歯磨きをする。
レンタカーの窓口は朝八時からなので、少しテレビを見てのんびりしたあと、チェックアウトした。
そのあと広島駅にあるレンタカーの窓口に行き、SUV車を借りて出発する。
「朱里、カーナビ頼むな」
「アイアイサー!」
車のカーナビでも厳島神社への道のりはセットしたけれど、私も念のためスマホのマップアプリで確認する。
「不思議な気持ちですね。知らない土地で知らない車に乗って、尊さんの運転で出かけるって」
「俺もちょっと楽しい」
そう言った彼の言葉を聞き、「そうか、こういう時、尊さんは『楽しい』なのか」と変な感動を抱いてしまった。
「今まで一人で国内海外問わず行ったし、涼ともあちこち行った。色んなものを見て『珍しい』と感動する事は多くあったし、危険な目にも相応に遭った。でも、一度痛い目を見たからって怯んでいるようじゃ、タフに生きれない。危険を承知の上で旅行を楽しめば、生きる事そのものを楽しめると思ったんだ」
ハンドルを握った尊さんの言葉を聞き、私は「なるほど……」と頷く。
「確かに、悪く言うつもりはありませんが、日本と比べると海外はもっと危険度が高いですよね。ツアー旅行でもスリや置き引きに遭うだろうし、自由時間に怖い想いをした人もいるかもしれない。……でもその一回だけで『危険だから国内に留まっていよう』とか、『生まれた土地から出たくない』って思っていたら、世界は広がらないかもしれない」
「俺は根暗タイプだけど、行動力はあるほうだと思ってる。……だからかな。怜香相手に盤をひっくり返せたのも」
私は一月六日の事を思いだし、うんうんと頷く。
「……あの時、ちょっと『どうなっても構わない』って思ってませんでした?」
「思ってた」
尊さんは小さく噴き出す。
「怜香の悪事を暴いても、何も変わらない覚悟はしていた。……でも、会社から追い出されたら万々歳とは思っていたかな」
「私を篠宮ホールディングスに置いて?」
「違う会社で働いてても、付き合えただろ。……それに、あの場に朱里がいて社内での立場が悪くなったなら、俺が責任を持って斡旋してた」
「なるほど。……一応、保険は何重にもかけてたんですね」
車は国道二号線を走り、宮島口を目指している。
三十分ぐらいかけてそこに着くと、フェリーに乗って宮島に行けるらしく、一時間に四便出ているので、それほど待つ事なく行けそうだ。
「篠宮ホールディングスから追い出されたら、何の仕事したかったんですか?」
「……そうだな。怜香に縛り付けられる前は、アメリカに行って働きたいと思ってた。一月の革命が失敗して追い出されたなら、投資一本でもやっていけるし、ワーホリでオーストラリアとかも考えたかな」
「……お金持ってて、言葉も話せるなら世界中どこでも行けますね」
「……でも、あちこち行ったからこそ、日本が好きだという想いはある。何かと『海外はこういう制度がある。それに比べて日本は……』と言われるけど、この国ほど治安が良くて水も安心して飲める国はないからな。病院にかかっても保険が利いて、丁寧な対応をしてもらえるし、何だかんだで飯が美味い」
「それ大事!」
私が食いつくと、尊さんはクスクス笑う。
「私、知ってますよ。世界で一番、ミシュランの星付きのお店が一番多い都市は東京なんでしょ?」
「ん、そうそう。ちなみに三位が京都で、四位が大阪。覚えてる限りな」
「ちょっと誇らしい……」
「でも、アジア系の国の屋台も好きだけどな。安いし美味い」
「憧れる~!」
私は屋台飯を想像してうっとりしたあと、チラッと尊さんを見て笑う。
「あと、友達がいるから日本に留まりたいんでしょ? 尊さん、友達少ないから」
「コンニャロ」
彼がブスッとして言ったので、私はケタケタ笑う。
「今、お腹の中ではスーパーアカリン液が出て、食べ物をスムーズに消化しています。今からお昼楽しみ! 何食べよっかなぁ……」
ランチの話をすると、尊さんはげんなりとして言う。
「俺、食ったばかりだから、昼の話はパス」
「食いしん坊なアカリンは嫌いですか?」
エレベーターの中でわざとキュルン顔で尋ねると、彼はクツクツ笑いながら私の頭を撫でる。
「大好きだよ。思う存分食え」
「やったね! 言質取った!」
よく分からない会話をしつつ、私たちは部屋に戻って歯磨きをする。
レンタカーの窓口は朝八時からなので、少しテレビを見てのんびりしたあと、チェックアウトした。
そのあと広島駅にあるレンタカーの窓口に行き、SUV車を借りて出発する。
「朱里、カーナビ頼むな」
「アイアイサー!」
車のカーナビでも厳島神社への道のりはセットしたけれど、私も念のためスマホのマップアプリで確認する。
「不思議な気持ちですね。知らない土地で知らない車に乗って、尊さんの運転で出かけるって」
「俺もちょっと楽しい」
そう言った彼の言葉を聞き、「そうか、こういう時、尊さんは『楽しい』なのか」と変な感動を抱いてしまった。
「今まで一人で国内海外問わず行ったし、涼ともあちこち行った。色んなものを見て『珍しい』と感動する事は多くあったし、危険な目にも相応に遭った。でも、一度痛い目を見たからって怯んでいるようじゃ、タフに生きれない。危険を承知の上で旅行を楽しめば、生きる事そのものを楽しめると思ったんだ」
ハンドルを握った尊さんの言葉を聞き、私は「なるほど……」と頷く。
「確かに、悪く言うつもりはありませんが、日本と比べると海外はもっと危険度が高いですよね。ツアー旅行でもスリや置き引きに遭うだろうし、自由時間に怖い想いをした人もいるかもしれない。……でもその一回だけで『危険だから国内に留まっていよう』とか、『生まれた土地から出たくない』って思っていたら、世界は広がらないかもしれない」
「俺は根暗タイプだけど、行動力はあるほうだと思ってる。……だからかな。怜香相手に盤をひっくり返せたのも」
私は一月六日の事を思いだし、うんうんと頷く。
「……あの時、ちょっと『どうなっても構わない』って思ってませんでした?」
「思ってた」
尊さんは小さく噴き出す。
「怜香の悪事を暴いても、何も変わらない覚悟はしていた。……でも、会社から追い出されたら万々歳とは思っていたかな」
「私を篠宮ホールディングスに置いて?」
「違う会社で働いてても、付き合えただろ。……それに、あの場に朱里がいて社内での立場が悪くなったなら、俺が責任を持って斡旋してた」
「なるほど。……一応、保険は何重にもかけてたんですね」
車は国道二号線を走り、宮島口を目指している。
三十分ぐらいかけてそこに着くと、フェリーに乗って宮島に行けるらしく、一時間に四便出ているので、それほど待つ事なく行けそうだ。
「篠宮ホールディングスから追い出されたら、何の仕事したかったんですか?」
「……そうだな。怜香に縛り付けられる前は、アメリカに行って働きたいと思ってた。一月の革命が失敗して追い出されたなら、投資一本でもやっていけるし、ワーホリでオーストラリアとかも考えたかな」
「……お金持ってて、言葉も話せるなら世界中どこでも行けますね」
「……でも、あちこち行ったからこそ、日本が好きだという想いはある。何かと『海外はこういう制度がある。それに比べて日本は……』と言われるけど、この国ほど治安が良くて水も安心して飲める国はないからな。病院にかかっても保険が利いて、丁寧な対応をしてもらえるし、何だかんだで飯が美味い」
「それ大事!」
私が食いつくと、尊さんはクスクス笑う。
「私、知ってますよ。世界で一番、ミシュランの星付きのお店が一番多い都市は東京なんでしょ?」
「ん、そうそう。ちなみに三位が京都で、四位が大阪。覚えてる限りな」
「ちょっと誇らしい……」
「でも、アジア系の国の屋台も好きだけどな。安いし美味い」
「憧れる~!」
私は屋台飯を想像してうっとりしたあと、チラッと尊さんを見て笑う。
「あと、友達がいるから日本に留まりたいんでしょ? 尊さん、友達少ないから」
「コンニャロ」
彼がブスッとして言ったので、私はケタケタ笑う。