部長と私の秘め事
「……でも、私も友達少ないし、尊さんと関わっていなかったら、春日さんやエミリさんと友達になれなかったかも」

「巡り会いだよな」

「そう、巡り会い。そしてタイミング」

 そこまで言って、私は肝心な事を思いだした。

「そういえば、厳島神社って潮の満ち引きで観光のしかたが変わるじゃないですか。これから行ったらどうなってるんだろう?」

「ああ、公式サイトに潮見表ってあって、今日の九時で潮位百七十三センチメートルって書いてあったな」

「それ……、どうなんです? よく分からない……」

「歩いて大鳥居まで行けるのは、一メートル以下らしい。十一時から十三時の間は一メートル以下になってたな」

「ふぅん……」

「逆に、潮位二百五十センチメートル以上だと、大鳥居が海の上に浮かんでるように見えるそうだ。今日だと、朝七時ぐらいまでと、夕方五時ぐらいからだな」

「中途半端~!」

「でも、日によっては片方しか叶わない時もあるみたいだから、両方見られる今日は恵まれてるほうだと思うぞ」

「そっかー! なるほど! ……飛行機って何時でしたっけ?」

「十四時十分だけど、変更して一本遅い十六時二十五分、その次の十八時ぐらいまでは、範囲内かな。まぁ、こだわらなければ他の航空会社やLCCも選択肢に入るし」

「……十一時まで待ってもいいですか?」

 両手を胸の前で組んで尊さんを見つめると、彼はフハッと息を吐くように笑った。

「勿論だよ。ゆっくり回って、何かつまむか?」

「はい! すぐお腹整えます」

「……やめろよ。だんだん人間に見えなくなってくる……」

「失礼ですね。こう……、立ってピョンピョンとジャンプしたら……」

「フードファイターか」

 私たちはそんな会話をしながらドライブを楽しみ、宮島口へ向かった。





 車を停めたのは、JR宮島口近くの駐車場で、尊さんは混み合うのを予想して予約していたらしい。抜かりのないミコだ。

「尊さん、あれなんだろ。おじさんいる」

 私は駅前にある銅像を指さす。

 銅像は金色の仮面を被り、チンギスハンみたいな金色の帽子を被って、中華系の緑の服を着ている。

蘭陵王(らんりょうおう)な」

「ん? 王様?」

「中国の北斉(ほくせい)頃の皇子で、わずか五百騎で周の大群に勝った名将で、物凄い美形だったらしい。味方の兵までその美貌に見惚れてしまうから、仮面を被って戦に出ていたと言われている。ちなみに三十三歳で没」

「へええ……! 会ってみたかった」

「ニアミスしたみたいな言い方するなよ」

 尊さんはケラケラ笑う。

「で、中国の皇子様が、どうして宮島に?」

「今の要素だけでも十分に話題の種になるだろ? 当時の人たちも同じ感覚で、舞楽(ぶがく)というジャンルで蘭陵王の話を伝えていったそうだ。それが中国から日本に伝わって、平清盛が楽所(がくしょ)を大阪の四天王から宮島に移してから、ここで他の演目と一緒に演じられるようになったらしい」

「すみません、先生。楽所とは?」

 私は小さく挙手して尋ねる。

「昔から、貴族の中に笛などの音楽を嗜む者がいたり、偉い人のために音楽を奏でる係がいたのはOK?」

「OK」

「お内裏(だいり)様の内裏は、ざっくりと昔の天皇の住まいを指すけど、内裏で楽人(がくにん)が偉い人のために演奏をするが、楽所そいつらの控えの場所みたいなもん。音楽を奏で、舞うのは立派な職業で、育成のための機関が作られて、偉い人に見せるために色んな曲や演目を学んでいったわけ。プロフェッショナルの楽人たちは世襲制で芸を受け継いで楽家(がっけ)と呼ばれる家系も生まれていった」

 私は蘭陵王の像を写真に撮りつつ、尊さんの説明を聞く。

「神様に奉納される色んな演舞があるが、その中に蘭陵王の演目もあって、人気がある……ってトコじゃないか?」

「ありがとう。ミコペディア」

「コンニャロ。家に帰ったらお前のシリに聞いてやるからな」

「やだも~。セクハラ~」

「セクハラとか言うなよ。立場的に毎日ビクビクしてるんだから」

「ひひひ。弱みみーっけ」

 私たちはそんな会話をしつつ、フェリーのターミナルに向かう。
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