部長と私の秘め事
 途中で立派なあなごめしのお店を見つけ、ピーンとセンサーが立った。

「はいはい、分かった。あなごめしな」

 何も言わずとも、尊さんは私が見ているもので理解してくれる。

 フェリーに乗る前にお土産屋さんを覗いていたら、チームカラーが赤の野球チームのグッズが所狭しとあり、もみじ饅頭も普通の餡子だけじゃなく、チョコやクリームなどもあるし、チョコでコーティングされた物もあった。

 お土産は帰りに買うとして、時間が迫ったのでフェリーに乗る事にする。

 十分の道のりの間、私は好奇心のまま階段を上がっていく。

 七月で暑いけれど、海を見ているとなんだか涼しく思えるから不思議だ。

「尊さん、なんか浮いてる」

 海の上には木のような物があり、私はそれを指さす。

「多分、牡蠣の養殖か何かに使ってるんじゃないか?」

「なるほど。牡蠣は美味しい」

「……なんか、お前と話してると、胃袋と会話しているように思える」

「アカリン・ストマック・ウエムラ」

「……いかん。アメリカに移住したら、バケツみたいなアイス食ってそうだ」

「私は日本食が大好きなので、日本から離れませんよ~」

「俺も和食好きだけどな」

 そんな会話をしていると、フェリーはあっという間に宮島に着いた。

「へー! 水族館もあるんですね」

 船から下りて歩いていると、宮島にはこんなのがありますよ~! という宣伝看板があり、私はそれを見て呟く。

 島全体の案内板もあり、「ふんふん」とそれを見てから進むと広場に着き、両側には巨大な灯籠が建っていて『歓迎』と彫られてあった。

「昼頃に大鳥居を見るなら時間があるから、瀬戸内海を見渡す展望台に行かないか?」

「行きます! 愚民共を見下ろします!」

「バスローブ着て、でけぇワイングラスで酒回さねぇとな」

「ひひひ」

 笑いながら歩いていると、可愛いものを発見してしまった。

「尊さん! 鹿!」

「おー、鹿だな」

 歩いているとあちこちに鹿がいて、のんびりと過ごしている。

「鹿せんべいないのかな?」

「あー、ここは餌やり禁止。昔は食べ物をやってたらしいが、人からもらうのに慣れて町までうろついたり、変なもんを食って死んだりした事があって禁止になったそうだ」

「なるほど。何でもあげるの良くない」

 頷くと、尊さんはチラッと私を見る。

「俺は朱里に色々与えちまってるけどな……。一応、美味いもんを食わせて毛並みを良くしてる自負はあるけど、変なもんは食うなよ?」

「失礼な、人を野良猫のように。三食昼寝つきの家猫ですよ」

「それならいいんだけどな。たまに知らん所で食って、変な男に奢られてそうで怖い」

「そんな節操のない事してませんよ。もらったらいけないご飯ぐらい、分かってます」

「……まぁ、その辺りは中村さんに一任してるけど」

「おっ、私を信頼してないんですね?」

「胃が服着て歩いてるようなもんだからなぁ……」

「ストマックゥ……」

 そんな会話をしながら、私たちはまた自撮り棒を使って記念写真を撮る。

 どうやらロープウェイに乗れる駅があるらしく、そちらに向かってあるく途中、目につく看板に牡蠣やらあなごやら書かれていて、目が喜んでしまう。

 途中で人力車も見つけたし、商店街は思っていた以上に賑やかで、私は左右をキョロキョロ見ながら進む。

「ロープウェイまで、バスもあるんだが、歩きでいいか? せっかくだから島の中見たいと思って」

「歩きます! お昼までにお腹空かせないと!」

「お前は行動原理が食いもんで分かりやすいよ……。俺が崖で落ちそうになって助けを求めた横で、でけぇチャーシューの塊がぶら下がってたら迷うだろ」

「迷いませんよ。人を何だと思ってるんですか」

「アカリン・ストマック・ウエムラ」

「ぐぅ……」

 自分のおふざけが、自分に跳ね返ってしまった。

 やがて前方に石の鳥居が見えたところで左折し、トンネルを通って右に向かっていく。

 その先にある街並みが古き良き日本という感じで、京都や金沢を彷彿とさせる。

 おまけに立派な五重塔まであるし、見るものが沢山あって興奮してしまう。

 道をズンズン進んでいくと途中でロープウェイの案内板があり、『ゆっくり歩いて十分、ときどき走って七分』とあって面白い。

 やがて、駅の名前にも因んでいる紅葉谷公園(もみじだにこうえん)に差し掛かる。
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