部長と私の秘め事
「オカルトチックなのもあるし、本当に自然の神秘みたいなのもありますね」

「俺は干満岩が好き」

「私は拍子木系がアガりますね」

「でも俺はお前の胃のほうが不思議だよ」

「バミューダストマック」

 そんな話をしつつ、途中にあったミシュランガイドにも掲載された老舗旅館を横目に見ていく。

 一八五四年創業で、皇族や夏目漱石なども利用したとか。

「ちょっと待って!」

 私は途中にあった物を見逃せず、足を止める。

 なんと、冷たいもみじ饅頭の自動販売機があるのだ。

 中には和風の小箱が沢山入っていて、味に応じて箱の色が違う。自販機そのものもパステル調で可愛い。

「尊さん、買い食いしていい?」

「お母さんじゃないんだから……。昼飯に影響しないなら食えば?」

「食います!」

 私は二百八十円を投入し、チョコレート味を選ぶ。

「んん~! 冷えてる! 尊さん、写真撮って!」

 私は自販機を後ろに、もみじ饅頭の箱を手にしてポーズを取る。

「はい、三、二、一……」

 彼に写真を撮ってもらったあと、変な顔をしてないか確認してから、その場で素早く食べてしまう事にした。

「すげぇな……。今、なんか……、ヒュッと消えたように思える」

「ひほふひへひっははらへふはへ(一口でいったからですかね)?」

「こういうゲームのキャラクターいたよな……」

「やめてくださいよ。ゲーム会社に怒られます」

 私は両手で口元を覆い、思う存分モグモグしてから、何事もなかったかのようにパッと顔を出す。

「今のは、腹の足し的に、点数つけるならどれぐらい?」

「んー……、一……?」

 真顔で答えると、尊さんは信じられないものを見る目をした。

「それが婚約者を見る目ですか」

「こういう目も含めて俺の事が全部好きなんだろ」

「わぁ……っ、ずるい……! こういうの、ずるい男って言うんだ!」

「ちょっと違うと思う」

 尊さんはスンッと真顔で言ったあと、「商店街行くぞ」と歩き出した。

 宮島は平家ゆかりの地である事もあり、商店街は〝清盛通り〟とも言われているそうだ。

 歩いていると色んなもみじがいて、パイもみじとか、アイスサンドもみじもいる。

 全員食べてあげたい……。

 そんな事を思いつつ向かったのは、揚げもみじ発祥の店だ。

 彼は列に並んでノーマルのこしあんを頼み、私は変化球で瀬戸内レモンを頼んだ。

「んン!? んー!」

 棒に刺さった揚げもみじを一口囓った私は、目を見開いて尊さんを見ると、右手でサムズアップして、ぐっぐっぐっとする。

「ん」

 私の「んー!」に対し、尊さんは口をモグモグさせつつ短く返事をし、ぐっとサムズアップした。

 多分これ、意志疎通できていると思うんだけど、サクサクの衣の中にあるフワッとしたもみじ饅頭と、クリームが絶妙に美味しい。

 二口で終わってしまった私は、「別の味も食べたいな……」と思い、お店を見る。

「一箇所で三、四を消費するか、別の店で消費するか」

「別のお店行きます!」

「……の、前に、そろそろ神社行ってみるか」

「アイアイサー!」

 小腹を満たした私たちは、途中でどでかいしゃもじの前で記念撮影をしてから、神社に向かった。

 しゃもじは、本当は杓子(しゃくし)と言うのが正しいようで、日清・日露戦争の時に厳島神社に参拝した兵士たちが『敵を召し捕る』として杓子を奉納し、故郷へのお土産としたところからきているみたいだ。

 今では弁財天様の御利益で、『幸せを召し捕る』として、縁起物になっている。

 御笠浜(みかさのはま)を通って厳島神社に向かう途中、ミコペディアが色々教えてくれる。

「厳島って呼ばれるようになったのも、神様が『居着く』島とされたからだって。本州側から島を見ると、観音様が横たわってるように見えるんだとか。島全体が神域だから、墓もないんだ。あと、出産も禁止、神域を傷つける行為になるから、畑を作って耕すのも禁止」

「おお……。思っていた以上の縛りですね。ちなみに、この島の住人が亡くなった時は?」
< 536 / 693 >

この作品をシェア

pagetop