部長と私の秘め事
「ここはメインの洗面とバスルーム。右手は物入れ。その奥がトイレ」

 またトイレがあった。

「突き当たりは俺の寝室で、その手前が朱里の部屋」

 そう言われて覗き込むと広いバルコニーに面した十畳近くの部屋になっていた。

 セミダブルの高級ベッドには新品の羽毛布団が掛かっていて、一人掛けのソファが二つに丸い木製のテーブルセット、壁際にはサイドボードがあってジョー・マローンのディフューザーやアロマキャンドルが置かれてあった。お洒落!

 その部屋に小さめのスーツケースを置かせてもらうと、尊さんがまた手招きして手前の部屋を案内してくれた。

「ここは俺の書斎」

「ほう……」

 部屋にはデスクやパソコンがあり、本棚に本がびっしり詰められてあった。

 奥にある十五畳ほどの寝室には、どでかいベッドとゆったり座れる長ソファセット、こちらにも液晶テレビがある。ウォークインクローゼットは二箇所あり、スーツや私服、小物などが整頓されて並んでいた。主寝室には専用のトイレ、洗面所、シャワーボックスまでついている。

「あと、リビングから通じる防音部屋にはピアノがある。質問は?」

「……ピアノ弾くんですね」

「まぁな」

「……一人で寂しくないです?」

 心から疑問に思った事を言ったけれど、嫌そうな顔をされて終わってしまった。

 そのあと、ポンと頭に手を乗せられる。

「これからお前と住むんだろ」

「…………はい!」

 そう言われると、顔のにやつきが止まらなくなってしまった。





 リビングに戻ると町田さんが料理をダイニングテーブルに並べていて、尊さんがワインセラーからワインとシャンパンを出した。

 尊さんいわく「仕事を頑張った褒美に、肉を用意しておいた」らしい。

 綺麗な薔薇色のローストビーフが、大きく厚めに切られ、お皿の上に並べられている。

 他にも前菜三種盛り、様々な種類の温野菜を山葵ベースのドレッシングで和えたサラダ、ゴボウのポタージュもある。

「それでは、どうぞ召し上がれ」

 町田さんはすべての仕事を終えたあと、明るく言って帰っていった。

「彼女、今日で仕事納めなんだ。正月料理とか、張り切って作ってくれて、冷蔵庫や鍋の中にある。ま、年末年始、食っちゃ寝しようぜ」

 尊さんはシャンパンの栓を開け、グラスを斜めにして注いでいく。

「楽しみです」

「お前が好きそうな酒、とりあえず全部揃えておいた」

「嬉しいですけど、大酒飲みみたいな言い方やめてください」

 減らず口をたたくと、彼はクスクス笑った。





 その日は美味しいご飯とお酒を食べて飲んで、お風呂に入ってイチャイチャして寝た。

 翌日、三十日は早めに起きて、尊さんと一緒に築地まで行ってでかいカニや海老、大トロに中トロ、ウニ、いくらを買ってくる。

 尊さんに「なんでそんなに目を見開いて食い物を凝視してるんだよ」と笑われた。

 だって美味しそうならガン見しちゃうでしょ……。

 買い物を終えて車で帰ったあとは、海鮮をでかい冷蔵庫にしまい、近くのラーメン屋さんへ行く。

 午後はテレビで映画を二本見て、夜になってから銀座にある高級寿司店に向かった。

 メニューが〝お任せ〟しかない恐ろしいお店で、最初は緊張していたけれど、最初の平目を食べてから美味しくて感動し、集中して味わっていった。

 お寿司に合う日本酒も飲んで満足した私が、帰ったあとに〝寿司代〟として尊さんにペロリといただかれたのは言うまでもなく……。

 三十一日は遅めに起きて、お昼前に尊さんが作ってくれた海鮮丼を食べた。

 昨日築地で買った海鮮を使った高級食材丼で、私は「おいしい、おいしい」と涙ぐみながら食べた。その姿を見た尊さんが、震えるほど笑っていたのは言うまでもない。

 そのあとはまたゆっくり過ごし、夕方にお風呂に入って落ち着いたあと、A5ランクの但馬牛リブロースで最高のすき焼きを食べた。

 お肉が溶けるという現象を初めて味わった私は、満足いくまですき焼きを食べ、少し脂っぽくなった口の中を、尊さんが前もって自由が丘で買ってくれたソルベで洗い流す。

 二人で片付けをしたあと、私たちはテレビをみながらソファでぐうたらしていた。

「……死んでしまうかもしれないです」

 尊さんに膝枕をしてもらっていた私は、ボソッと呟く。

「は?」

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