部長と私の秘め事

作戦会議

「イベントの時ってさ、必ずみんながやってる事をしなきゃいけない訳じゃないんだよ。クリスマスなら全員恋人とディナーして、セックスしなきゃなんない? 暴動が起こるだろ」

 暴動と言われ、私は「ぶふっ」と噴き出す。

「俺たちがこうしてる間も働いてくれてる人はいる。それぞれだ。足並み揃えて〝同じ〟になろうとしなくていい。正月らしい事を……って言うんなら、俺たちなりのやり方で新年を祝ってるんだから、それでいいだろ」

「……そうですね」

 私たちは、私たちのやり方でいいんだ。

 私は今までずっと、周りの〝普通〟の人と違う事に悩んでいた。

 昭人とデートしても、彼と自分の価値観の違いに、何とも言えないもどかしさを覚えていたし、彼が家族の文句を言っているのを聞いて、再婚同士の家庭でギクシャクしている私は『そうなんだ』としか言えなかった。

 けれど尊さんとなら、何もかもがぴったり合う。

 ――もう背伸びして〝普通〟のふりをしなくていいんだ。

 そう思うと、物凄い安心感がこみ上げる。

「来年もこうやって、のんびり過ごすぞ」

「そうですね」

 私はやっと、身も心も安らげる場所を見つけられたのかもしれない。



 そんな感じで、私たちは仕事始めになるまでゆっくり過ごした。

 が、日常に戻る前に、一月六日に決着をつけなければならなかった。



**



 一月六日、私たちは午前中に外出して、件のホテル――パークウェルティーズ東京に向かった。

 十四時にラウンジカフェで集合……だったけれど、それは〝時限爆弾〟の時刻だ。

 その前に関係者で顔合わせをして、段取りをしておく必要があった。





 センシティブな話だから個室で……という事で、同ホテルの和食レストランの個室に入ると、すでに風磨さんとエミリさんがいた。

「あけましておめでとうございます」

 全員で挨拶をしたあと、年末年始に何をしたかなど簡単な報告をする。

 風磨さんは篠宮家の新年の挨拶には出席したらしいけれど、それ以外はエミリさんと過ごしていたようだ。

 確かに皆が皆、実家に戻って家族と年末年始を過ごすわけじゃないみたいだ。

 そして約束の時間の十分前に、三ノ宮春日さんが現れた。

「あけましておめでとうございます。そして初めまして。三ノ宮春日と申します。このたびは素敵な企みにご招待くださり、光栄です」

 そう言って微笑んだ春日さんは、エミリさんとはまた別の系統の美人だった。

 清潔感と透明感があり、美人アナウンサーみたいな雰囲気だ。

 彼女は品のいいネイビーのワンピースを着ているけれど、シンプルなデザインながらとてもシルエットが綺麗で、どこかのブランドの物だろう。

 艶のあるロングヘアはハーフアップにして、アレクサンドル・ドゥ・パリのヘアアクセサリーで留めている。

 所作の一つ一つが丁寧かつ綺麗で、「お嬢様ってこういう人の事を言うんだな」と見とれてしまった。

(……でも怜香さんは風磨さんに、この人と結婚しろとごり押ししているんだ……)

 チラッとエミリさんを見ると、秘書らしく感情をセーブしているけれど、ほんの少し緊張しているのが分かった。

 私たちは春日さんを上座に座ってもらい、あとは向かい合って座る。

 料理が出される前に、私たちは肝心な話をする事にした。

「ひとまず、簡単に自己紹介を」

 風磨さんが言ったあと、彼はまずエミリさんを秘書で恋人だと紹介した。

 春日さんはまったく動じず、微笑んで会釈する。

 そのあとに継弟の尊さんと、婚約者として私が紹介された。

「まず、謝罪いたします。僕は春日さんとは結婚できません」

 風磨さんが立ち上がり、深く頭を下げる。

 緊迫した空気になると思いきや、春日さんはクスクス笑って彼を制した。

「やめてください。私だってそんなつもりはなかったんですから」

 軽く笑い飛ばされ、風磨さんは安心したような表情で顔を上げる。

「失礼ながら今回の縁談を聞き、少し〝調べ〟させてもらいました。風磨さんは秘書のエミリさんと、周囲から『結婚秒読み』と言われている状態。お父様の亘さんは経営者としては一流だけれど、一人の男性としては少し問題あり。お母様の怜香さんは、夫の過去の女性に激しく嫉妬し、継子の尊さんにきつく当たっている……」

 リアルな篠宮家の事情をズバリと言われたが、事実なので誰も否定しない。
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