部長と私の秘め事
 その時、「失礼いたします」と声がして、女将さんと芸者さんが三人、そして京都の舞妓さんみたいに白粉を塗った若い女性が入ってきた。

 女将さんが改めて挨拶をしたあと、芸者さんたちがススス……と来て、私たちにお代わりのビールを注いでくれる。

「あ、ど、どうも……」

 華やかな柄の入った黒っぽい着物を着た彼女たちは、みんなとても品のいい大人の女性でドキドキする。

 そして彼女たちの分も新しいビールが注がれ、みんなで乾杯する事になった。

 どうやら、白粉を塗って髪飾りも華やかな物を着けている彼女は、半玉(はんぎょく)さんと言って、京都で言えば舞妓さん――芸者さんになる前の半人前の人なんだそうだ。

 半玉さんは二十歳未満なので、涼さんの計らいで彼女にはソフトドリンクを飲んでもらった。

 ちなみに関西のほうでは芸者さんを芸妓さんと呼ぶとか、ちょっとした違いもある。

 一緒にお酒を飲むからびっくりしたけれど、どうやら彼女たちは食事は一緒にしないみたいだ。

 皆さん、さすが接客のプロなだけあって、今日の花火大会の事とか、毎年このお店ではどうやって過ごしているかをにこやかに話してくれる。

 私たちは食事があるから、みんなで食べていると無言になりがちだけれど、芸者さんたちが何かしら喋ってくれるので、楽しく食事ができる。

 彼女たちからは、名刺代わりのシールをもらった。

「可愛い~!」

 千社札(せんじゃふだ)のデザインをしたシールには、それぞれ芸者さんの名前が書かれてあって、もらうと特別感がある。

 千社札はもともと神社仏閣にお参りした記念に、自分の名前や住所が書かれたお札を収める事から、納札(のうさつ)とも言われている。

 今はゲームセンターでプリクラみたいな感じで、ササッと自分の千社札シールを作る事もできるんだそうだ。

「それにしても、素敵な掛け軸ですね」

 私はトロリとした、雲丹とフカヒレのあんが載った茶碗蒸しを食べつつ言う。

 掛け軸は色んな色の鯉が川を遡っている様子を描いた物で、なんだか運気が上がりそうだ。

「これね、事前に客層とかどういう目的で集まるかを聞いて、お店側が選んで用意してくれるんだ」

 涼さんが教えてくれ、私と恵は「へぇーっ!」と驚く。

「じゃあ、沢山掛け軸を持ってるって事ですか?」

 恵が尋ねると、女将さんが頷いた。

「〝物凄く〟沢山持っておりますよ。お部屋を整える事もおもてなしの一つですから、季節や用途に合わせて色々と……。私たちが沢山の着物を持っているのと似たようなものと思ってくだされば」

「はぁ~……」

 私と恵は感心しつつ、何度もうんうんと頷く。

 そのあとも楽しくお喋りをしつつ、美味しいお造り、茄子のオランダ煮と合鴨の治部煮、焼物として太刀魚のバター醤油焼き、ローストビーフ、最後に土鍋で炊かれた、布海苔ご飯の上にウニが載った贅沢な炊き込みご飯を、お味噌汁とお漬物と一緒にいただいた。

 その間、演奏と共に芸者さんが舞いを見せてくれて、はんなりとした美しさに思わず見とれてしまった。

 そうしている間にもデザートにはみずみずしくて甘い桃が出て、十七時から始まった食事は終わろうとしている。

 本当は芸者さんのいるお店へ行くのに、半分以上はワクワクしていたけれど、残りは綺麗なお姉さんが同席する場で、尊さんがどんな反応をするか、ちょっと心配でもあった。

 でも前もって私と恵が行く事を伝えていたからか、芸者さんは隣に座ってお酒を注ぐ以外、特にタッチするなどの行為はなくて安心した。

(鼻の下伸ばしてデレデレすると思いきや、……意外とちゃんとしてるじゃん。尊さんのくせに)

 私はちょっとツンデレ気味な事を考えながら、静かに日本酒を飲んでいる尊さんを見る。

 今夜の彼は浴衣を着ているからか、いつも以上に色気があるように見える。

 夏場、出勤時のスーツ姿以外は、大体Tシャツなので、浴衣の合わせから鎖骨のくぼみが覗いているのがとてもセクシーに感じられた。

(エッチなミコだなぁ……!)

 私はニヤニヤしながら日本酒を飲み、パチッと目が合った尊さんに笑われる。

「飲み過ぎんなよ?」

「大丈夫ですって」

 花火大会が始まる十九時までは少し時間の余裕があり、社会勉強という事でお座敷遊びを経験する事になった。
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