部長と私の秘め事
 お座敷遊びは色んな種類があり、じゃんけんをして勝った方が太鼓を叩き、負けた人は一回転する『おまわりさん』、屏風で仕切りをして、体を使ったジェスチャーでじゃんけんをする『とらとら』、お膳の上にお椀を伏せ、歌いながら交互に手を載せ、ランダムなタイミングでお椀を手に取ったら、相手はグー、そのままならパーを出す『金比羅船々』が代表的かもしれない。

『とらとら』は近松門左衛門の人形浄瑠璃、『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』の主人公、和藤内(わとうない)の虎退治をモチーフにしたものだそうだ。

 歌詞の内容から、藪の中から出て来たのが虎かお婆さんかで、槍で突くべきか、突いたら駄目かのじゃんけんになっているみたいだ。

 和藤内は虎に勝ち、虎はお婆さんに勝ち、お婆さんは和藤内に勝つルールで、槍で突く、四つん這い、杖をつくポーズをして屏風から出る。

 テレビや映画で見て知っているのがその三つぐらいで、他にも天狗、ひょっとこ、おかめの絵が描いてあるコマを回して、軸が向いた人が絵に描かれている杯でお酒を飲むゲーム『可杯(べくはい)』がある。

 天狗の器は顔が下を向いていて、長い鼻を持つようになっている。

 ひょっとこの杯は口に穴が空いていて、お酒が漏れないように指で押さえながら飲まなければならず、おかめの杯は小さめなので当たったらラッキーらしい。

 他にも、人数分のお猪口を伏せて一つに菊の花を隠し、歌いながらお猪口を開けて、菊の花が出た人が負けて、やっぱりお酒を飲む『菊の花』。

 チームに分かれて何を出すのか伝言ゲームをしてじゃんけんする『うさぎさん、たぬきさん』。これもやっぱり負けたチーム全員でお酒を飲む。

『五重塔』はお猪口を五つ重ねてシャンパンタワーみたいにお酒を注ぎ、口だけでお酒を飲んで空いたお猪口を口で重ねていくゲームだ。

 説明を聞いた私と恵は「やっぱり飲むのか」と何回も突っ込んでは笑ってた。

 これ以上飲んだら明日に響きそうなので、お酒なしでもできる『おまわりさん』『とらとら』『金比羅船々』を体験する事になった。

 ちなみに伴奏を必要とする時に、演奏してくれる芸者さんを地方(じかた)さんと言い、舞いを披露してくれた四人の芸者さんたちは、立方(たちかた)さんと言うみたいだ。

 私たちは慣れないながらも芸者さんに教えてもらい、お座敷遊びを楽しむ。

 どれも単純なルールだけれど、皆さんとても盛り上げ上手なので、やっているうちに楽しくなってケタケタ笑ってしまう。

 余興の時はあっという間に過ぎ、十九時の花火大会の時間が迫った。

 屋上に向かうと、空はまだ薄明るく、夕焼けのオレンジ色が残っている。

 尊さんと涼さんはまだビールを飲むみたいだけど、私と恵は明日に引きずるのが恐いので、ソフトドリンクをお供にした。

 向島の屋上は、まさに隅田川花火大会を見るのに適した場所で、特等席で迫力のある花火が見られる。

 ヒュルルル……と高い音がしたあと、ドォン……、とお腹の底に響くような音が立ち、「あぁ、夏だなぁ……」と感じる。

(贅沢なデートだなぁ……。恵の誕生日なのに、私までいい思いをさせてもらってる。あとでお礼を言わないと)

 ぼんやり考えながら花火を見ていると、尊さんが指を絡めて手を握ってきた。

「ん……、むふふ」

 酔っぱらっているのもあってか、嬉しくなった私はニヤニヤ笑い、尊さんに身を寄せる。

 少ししてから「恵は?」と思ってチラッと横を見ると、彼女は涼さんに肩を抱かれていた。

 その横顔が、照れくさいのを我慢した怒ったような顔なので、私はつい笑いそうになるのを必死に堪える。――――けれど、酔ってるのと幸せとで笑いが漏れてしまった。

「んひひ」

 クシャッと笑った私は、尊さんの肩に頭をグリグリ押しつける。

「どした?」

 すると笑いを含んだ声で尋ねられ、私はまだお酒で火照った顔を上げて笑いかけた。

「しゃーわせ」

「ん、そか。……俺も幸せ」

 笑い返してくれた尊さんは繋いだ手を上げると、私の手の甲にチュッとキスをする。

 そのまま、私たちはフィナーレで凄まじい数の花火が打ち上がり終えるまで屋上で花火を鑑賞し、すべて終わったあとは拍手をして部屋に戻る。

 こういうお店はみんなでドッと帰るものではなく、なるべく鉢合わせないように、女将さんのほうで順番を調整しているそうなので、良さそうな頃合いになった時に皆さんにお礼を言い、人生初の料亭体験を終えた。



**



「んねむぅい……」

 新宿のホテルに戻った私は、目をしばしばさせながら大きな欠伸をし、ソファで寝転ぼうと突撃しかける。

「コラ待て」

 けれど尊さんに肩を引かれ、立ち止まったところ帯留めを取られる。

「あれ、これは『あ~れ~』の奴ですか?」

「いい加減、それから離れろよ」

 尊さんは小さく笑いながら、テキパキと私の帯を解いてくれる。

 すぐに私は肌襦袢姿になり、尊さんが慣れた手つきで浴衣を畳んでいるのを見守る。
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