部長と私の秘め事
「笹島さんを迎えられて良かったです。履歴書には、前職では上司と反りが合わなくて辞められたとありましたが、具体的にはどんなトラブルが? あなたのような人を失いたくないので、参考までにお聞きしたいです」
尊さんの問いに、笹島さんは表情を変えずに答えた。
「横暴な社長だったのです。秘書を人間と思わないこき使い方で、冷静さをモットーとしている私も、さすがに腹に据えかねました」
「それは……」
私も尊さんも絶句する。
こんなに人ができていて、恐らく仕事もできるだろう笹島さんに、そんな対応をするなんてアホの極みだ。
「それなら、どうか安心してください。弊社はホワイト……、と言いたくても、私の継母の一件が世間をお騒がせしたので、何の心配もないとは言い切れませんが、新体制になった今は大丈夫と言えます」
怜香さんが巻き起こした一連の事件は、世間に相応なマイナスイメージを与えた。
新卒を採用するに当たっても、今年度は例年よりやや倍率が低かったそうだ。
けれど全国に名を轟かせる篠宮ホールディングスのブランドは、そう簡単に地に落ちないと思っているので、忘れた頃には回復していると私も尊さんも見込んでいる。
特に今の若い子たちは〝世間の目〟より、希望を出す際にきちんと業績などをチェックしているだろうから。
起こってしまった事は変えられない。
でも絶えず努力し続ける事で結果を出し、世間の人たちに「頑張っていますよ」とアピールする事はできる。
多分、笹島さんもワイドショーで話題になった事よりも、会社の将来的な業績や売り上げ、福利厚生などを見て申し込んでくれたと思っている。
「ああ、ありましたね。世間の人々は新鮮なニュースに目を向けていますが、一部のマスコミやネットユーザーは、いまだしつこく事件を掘り返している印象があります。ですがすべてが公になったあとなら、これ以上新事実が出る事もないでしょうし、私は特に悲観的には見ておりません。副社長のご家族に関する事ですので、こう言うのは失礼かと思いますが、我々社員が直接関与しておりませんので。一時的な業績悪化、風評被害に遭う事はあっても、長期的に見れば話題は風化し、回復していくものと思っています」
うーん、やっぱり笹島さんは物事を冷静に見られている人だなぁ。
「……私も篠宮ホールディングスの株を所持しておりますので、上がってくれなければ困りますので」
サラッと付け加えられ、私は笑う。
尊さんも小さく笑い、答えた。
「それであれば、持株会制度については総務部か人事部にでも問い合わせてみてください。ご存知の通り、奨励金も出ますので。株主優待を期待していらっしゃるなら、個人で保持のほうが良いと思いますが」
持株会制度というのは、一般社員用にある自社株購入権みたいなもので、お給料から天引きされる形で買えるんだそうだ。
でも普通に個人の証券口座で買うのとは違うので、好きに売却する事はできないけれど、尊さんが言ったように社員ならではの奨励金がもらえる。
けれどあれこれ内情を知った上で買い増しすると、インサイダー取引に該当するので、注意しなければならないけれど。
「検討しておきます」
そのあとも笹島さんとは、会社の設備や基本情報などについて話したり、ざっくりと決まっている今年の予定などについても話した。
今日は八月一日の金曜日なので、土日を挟んで四日の月曜日からが本番だ。
「それでは、今後とも宜しくお願いします」
居酒屋を出たあと、笹島さんは会釈をしたあと、三越前駅へスタスタと向かっていった。
私は横手にそびえるイギリス系外資の高級ホテルをチラッと見てから、ポンポンになったお腹をさする。
「気持ちのいい人だったな」
「そうですね。いい雰囲気で仕事ができそうです」
「朱里がパクパク食ってるのを見ても、何も言わなかったのは紳士だと思う」
「……だって全部美味しそうだったし……」
「第一秘書は気持ちいい食いっぷりだから、頼りにしてるよ」
「仕事も頑張ります!」
そんな会話をしながら、私たちはハイヤーを呼んで三田にあるマンションへ帰った。
(明日は軽井沢か……)
先日の恵の誕生日デートでは、最後までできなかったので、仕切り直しのデートをする事になったけれど、軽井沢まで一泊二日のドライブデートをする事になった。
彼と付き合って八か月目に入ろうとしているけれど、いまだに面と向かって話すと、顔が良くて照れてしまう。
声だっていいし、いい匂いがするし、手が卑猥だし、ピアノだって弾けるし、存在そのものがセクシーミコなのだ。
尊さんの問いに、笹島さんは表情を変えずに答えた。
「横暴な社長だったのです。秘書を人間と思わないこき使い方で、冷静さをモットーとしている私も、さすがに腹に据えかねました」
「それは……」
私も尊さんも絶句する。
こんなに人ができていて、恐らく仕事もできるだろう笹島さんに、そんな対応をするなんてアホの極みだ。
「それなら、どうか安心してください。弊社はホワイト……、と言いたくても、私の継母の一件が世間をお騒がせしたので、何の心配もないとは言い切れませんが、新体制になった今は大丈夫と言えます」
怜香さんが巻き起こした一連の事件は、世間に相応なマイナスイメージを与えた。
新卒を採用するに当たっても、今年度は例年よりやや倍率が低かったそうだ。
けれど全国に名を轟かせる篠宮ホールディングスのブランドは、そう簡単に地に落ちないと思っているので、忘れた頃には回復していると私も尊さんも見込んでいる。
特に今の若い子たちは〝世間の目〟より、希望を出す際にきちんと業績などをチェックしているだろうから。
起こってしまった事は変えられない。
でも絶えず努力し続ける事で結果を出し、世間の人たちに「頑張っていますよ」とアピールする事はできる。
多分、笹島さんもワイドショーで話題になった事よりも、会社の将来的な業績や売り上げ、福利厚生などを見て申し込んでくれたと思っている。
「ああ、ありましたね。世間の人々は新鮮なニュースに目を向けていますが、一部のマスコミやネットユーザーは、いまだしつこく事件を掘り返している印象があります。ですがすべてが公になったあとなら、これ以上新事実が出る事もないでしょうし、私は特に悲観的には見ておりません。副社長のご家族に関する事ですので、こう言うのは失礼かと思いますが、我々社員が直接関与しておりませんので。一時的な業績悪化、風評被害に遭う事はあっても、長期的に見れば話題は風化し、回復していくものと思っています」
うーん、やっぱり笹島さんは物事を冷静に見られている人だなぁ。
「……私も篠宮ホールディングスの株を所持しておりますので、上がってくれなければ困りますので」
サラッと付け加えられ、私は笑う。
尊さんも小さく笑い、答えた。
「それであれば、持株会制度については総務部か人事部にでも問い合わせてみてください。ご存知の通り、奨励金も出ますので。株主優待を期待していらっしゃるなら、個人で保持のほうが良いと思いますが」
持株会制度というのは、一般社員用にある自社株購入権みたいなもので、お給料から天引きされる形で買えるんだそうだ。
でも普通に個人の証券口座で買うのとは違うので、好きに売却する事はできないけれど、尊さんが言ったように社員ならではの奨励金がもらえる。
けれどあれこれ内情を知った上で買い増しすると、インサイダー取引に該当するので、注意しなければならないけれど。
「検討しておきます」
そのあとも笹島さんとは、会社の設備や基本情報などについて話したり、ざっくりと決まっている今年の予定などについても話した。
今日は八月一日の金曜日なので、土日を挟んで四日の月曜日からが本番だ。
「それでは、今後とも宜しくお願いします」
居酒屋を出たあと、笹島さんは会釈をしたあと、三越前駅へスタスタと向かっていった。
私は横手にそびえるイギリス系外資の高級ホテルをチラッと見てから、ポンポンになったお腹をさする。
「気持ちのいい人だったな」
「そうですね。いい雰囲気で仕事ができそうです」
「朱里がパクパク食ってるのを見ても、何も言わなかったのは紳士だと思う」
「……だって全部美味しそうだったし……」
「第一秘書は気持ちいい食いっぷりだから、頼りにしてるよ」
「仕事も頑張ります!」
そんな会話をしながら、私たちはハイヤーを呼んで三田にあるマンションへ帰った。
(明日は軽井沢か……)
先日の恵の誕生日デートでは、最後までできなかったので、仕切り直しのデートをする事になったけれど、軽井沢まで一泊二日のドライブデートをする事になった。
彼と付き合って八か月目に入ろうとしているけれど、いまだに面と向かって話すと、顔が良くて照れてしまう。
声だっていいし、いい匂いがするし、手が卑猥だし、ピアノだって弾けるし、存在そのものがセクシーミコなのだ。