部長と私の秘め事
「とりま、どこかに座ったらeSIMを有効化するか」

「SOREDA」

 恵に言われ、私は両手の人差し指で彼女をビシッと指す。

 海外でスマホを使う場合、幾つか方法があり、たとえば日本のキャリアの海外プランに入るなどもあるけれど、割と値段が高い。

 あとはレンタルWi-Fiを借りる方法もあるけれど、本体が結構大きくて重たい上、毎晩充電も必要なんだそうだ。

 ちなみにこの場合、事前にプランを決めてお金を払うと、自宅までレンタルWi-Fiが送られてきて、帰りは日本の空港にある専用のボックスに返却するだけでOKらしい。

 あとはSIMだけれど、物理のSIMカードの場合、プランを決めて空港などで売っている物を購入し、大抵は現地スタッフさんが設定をしてくれる。

 けれどこの場合、SIMロック解除が必要だし、もともと入っていたSIMカードをなくさないように気をつけなければならない。

 今回私たちはeSIMを事前にオンラインで申請していて、QRコードを読み込んだら、あとはちょいちょいと手元で設定をし、現地で回線を有効化して終わり。スマホさえ対応していれば、一番簡単な方法となる。

 今回はデータ量無制限の一週間プランを申し込んでいて、費用は約六千円だ。

 私たちはシドニー空港を物珍しく見て、写真を撮りつつ進み、入国審査をパスする。

 つい先日、八月に入ってから『入国審査』という映画が公開になった。

 グリーンカードが当選したスペイン人の彼女と、事実婚しているベネズエラ出身の男性がアメリカに移住しようとするけれど、別室行きになって執拗な質問をされる……、という内容で、考えただけで気持ちがヒリヒリする映画だ。

 どうやら監督が実際にそういう体験をしたから、映画を作ろうと決心したらしいけれど、日本のパスポートは世界的に信用度が高いみたいなので、そういう話を聞くとありがたいなぁ……と思うのだった。

 ケアンズまでは国内線の利用なので、国際線のターミナル1から、無料シャトルバスに乗って五分ほどの移動し、カンタス空港が発着するターミナル3へ向かう。

 例によって尊さんと涼さんは、航空会社でセレブな待遇を受けられる立場だけど、海外の航空会社でもアライアンス――提携、同盟――によって、似たようなサービスを受けられるらしい。

 主力アライアンスは三つあり、ワンワールド、スターアライアンス、スカイチームがあり、二人はワンワールドのエメラルドクラスの会員らしい。よく分からん。

 なので、用事が終わったあとは、羽田空港のラウンジのような場所で寛げるらしい。

 ターミナル2から3は徒歩で移動できるし、時間もたっぷりあるので、色々見てみる事にした。

 まだ早朝だというのに、免税店はもう開いている。

「尊さん、オーストラリア土産って何がいいでしょうか?」

「んー、無難なのは『T2』の紅茶かな。買おうと思えば日本でも買えるけど、定番土産ではある。『ティムタム』のチョコビスケットも有名だけど、カルディで買えるしな……。あとはマカダミアナッツチョコやクッキー? マヌカハニーやユーカリの蜂蜜、ワイン、コアラの形のショートブレット、ジャーキー、メリノウールの製品、アボリジニ製品とかもあるけど」

「うーん……。紅茶やお菓子は買うとして、やっぱりお母さん、美奈歩あたりが喜ぶのは免税店のリップとかになるのかな?」

「女性の場合、食べ物の他はコスメが無難かもね」

 恵もあちこちお店を見ながら答える。

「俺的にはジャーキーがオススメかな。ビーフの他にもカンガルーとか、クロコダイルとかあるよ」

 涼さんがやけに嬉しそうに言う。

「……そういえば涼さん、ゲテモノ喰いの人でしたね」

 恵が冷ややかに言うと、彼はハッとしてキュルンとした目で〝涼子〟になる。

「ゲテモノは嫌いになっても、涼子の事は嫌いにならないで……っ」

「はいはい。あ、動物の道路標識のキーホルダー可愛いな」

 恵が黄色い菱形をベースに、コアラやカンガルーのシルエットがついているキーホルダーを指さし、私は「ホントだー!」とつられる。

「これ、お揃いで買おうか」

「いいねー。柄違いもいいかも」

 私たちがキャッキャしている後ろで、尊さんは涼さんの肩を無言でポンと叩いていた。





 荷物になるので空港でお土産を買うのは帰りにし、私たちは一通り空港の雰囲気を味わったあと、ラウンジへ向かった。

 ラウンジは保安検査場を通ったあと、出発ロビーからエスカレーターでワンフロア上がった所にある。

「すご、広ぉ……」

 ラウンジの立派さ、広さは羽田空港でのものと遜色なく、ビュッフェで色んな物が食べられるようになっている。

 グレーの絨毯が敷かれた空間には、黒い一人掛けのソファや木製のテーブルセットがあり、天井からは円形のランプが下がっている。
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