部長と私の秘め事
「尊さん、見てきていい?」
「食ってもいいぞ」
「行ってきます! 恵付き合って」
「まったく……」
恵はブツブツ言いながらもついてきてくれる。
「女の子だけだと心配だから、俺らも行くよ」
「だな」
そんな訳で、全員でビュッフェの列に並ぶ事になった。
ラインナップはホテルの朝食ビュッフェと言っても良く、パンの他にもサラダ、ビーフシチューに似た物など、心惹かれる物が沢山ある。
私は味見程度に少量ずつとり、最後にスイーツをセレクト。
冷蔵庫にはコーラなどのジュース類が入っていたけれど、それは特にいいので、コーヒーを飲む事にした。
他の三人は機内で食べたばかりなので、私ほどではないけど、形だけサラダを少量とり、あとはコーヒーを飲むみたいだ。
席に着いたあと、私はご機嫌で写真を撮る。
「やっぱり、ただ飯があるのに食べなかったら、死んだお父さんも悲しむと思うから」
「おい朱里、乗り越えたのはいいとして、お義父さんの扱いが大分ライトになったな?」
「お父さんも喜んでると思うので……。心は一つ」
尊さんに言われ、私は拳でトンと胸を打つ。
「いい話みたいに片づけるな」
恵は呆れて言うも、パクパク食べる私を優しげな目で見て、写真を撮ってきた。
「朱里ちゃんなら、カンガルー肉とか、ワニ肉もいけるんじゃない?」
「ちょ……っ、涼さん、朱里をゲテモノワールドに引き込まないでくださいよ……!」
「興味あります!」
恵が反発するも、私が元気よく言ったものだから、ガクッと項垂れていた。
「どんな感じなんですか?」
「カンガルー肉はヘルシーな赤身だね。オーストラリア国内では普通にレストランで出してるし、スーパーにも売ってる。意外とドイツやフランスでも食べられてるんだよ」
「へー!」
「結構臭みがあるけど、濃いめのソースと一緒に出されるから、それと一緒に食べたらまったく問題ないよ」
「食べたいです!」
私は力強く返事をし、コクッと頷く。
「……丸め込まれてる……」
恵がボソッと言う。
「ワニ肉は意外と臭みがなくて、本当に鶏肉みたいだよ。脂ものっててジューシー」
「ジューシー!」
私は涼さんの言葉を繰り返し、グッと拳を握る。
「俺が今まで食べた中で、『結構匂いがあるな』と思ったのは、カエルとかウズラかな」
「へー! カエルは何か分かりますけど、ウズラって鳥なのにね?」
「そうそう。そこが不思議なんだけど、ニワトリになれなかった鳥……みたいな感じがあるよ」
「せっかくだから、オーストラリアじゃないと体験できない事をしないと……!」
「んっ」と頷くと、尊さんがボソッと横槍を入れてきた。
「まぁ、日本でも通販で手に入るけどな」
「も~!」
ブスッとふてくされると全員が笑い、そのあとも飲み物を飲みつつお喋りをして過ごした。
ケアンズまでもビジネスクラスでのフライトとなり、尊さんにも涼さんにも頭が上がらない。
またボックス席風の広々とした席に座り、現地に着く前なので、ようこそドリンクはオレンジジュースにしておいた。
日本人らしき人もチラホラ見るけれど、やはり外国人が多い印象だ。
時間まで飲み物を飲んでゆっくり待ったあと、サインが鳴って飛行機が動き出す。
滑走路を走って離陸したあと、私は窓に張り付いて眼下に広がる美しい海を眺めた。
ケアンズまでは三時間のフライトで、羽田からシドニーまでの九時間四十分を思うと、短く感じる。
でも東京から札幌、または福岡に行く時の倍の時間がかかるので、さすが大陸……と思ってしまう。
ランチ時間にかかるので、高度が安定してしばらく経ったあと、まずスナックの提供があり、そのあとワンプレートランチが出された。
コーンスープにローストトマト、またはチキンサラダ、ミートボールのサンドイッチとある。
サンドイッチをオーダーしたけれど、小さめのスモークサーモンサラダもついていて、デザートにはアイスクリームもあり、お得な気持ちになった。
ちなみに文字ではカンタス空港と書いているけれど、英語で書くと『QANTAS』になり、発音は「クウォンタス」に近い。
日本人の発音で「カンタス」と言ってしまうと、女性器を意味する下品な言葉――カントに聞こえてしまうらしいので注意と、事前に尊さんに教えてもらった。