部長と私の秘め事

ケアンズ一日目

 そんなこんなで、日本語対応の映画を一本見て、まだまだ! と粘ってもう一本見ている途中でケアンズに着いてしまった。

 ターミナル2に着いた私たちは、タクシーに乗る。

 空港を歩いていると、アボリジニのアートが沢山あって「オーストラリアに来たなぁ~」という気持ちになる。

 オーストラリアは検疫関係でとても厳しく、何か引っ掛かったらとても時間が掛かるらしいので、ここまでスムーズにこられたのは僥倖だ。

 なお、空港で働く麻薬検査犬にときめいてしまったのは秘密だ。

 働く犬って格好いいよね……。

「海が綺麗~!」

 私たちは左手にエメラルドグリーンの海を望みつつ、エアポート・アベニューを通り、レイク・ストリートを進む。

 ビーチ沿いには公園みたいなグリーン地帯があるけれど、そこから内側はすぐケアンズの街並みになっている。

 景色に見とれていると、あっという間に十五分もせず、海に続いている大きな川、チャイナマン川に面した、大手外資系ホテルに着いた。

 なんと、観光地で名高いグリーン島へのフェリーターミナルの隣にあるホテルで、何かと行動するのに便利そうだ。

 ちなみにオーストラリアではチップの文化がなく、キャッシュレス化が進んでいるので、クレジットカードがあれば事足りるらしい。

 それでも少し不安があったので、少しオーストラリアドルに替えたけれど。

 ロビーは広々としていて、茶色い床にブルーグレーのソファがあちこちにある。

 天井からは白くて球体に近い照明が下がっているけれど、提灯を中途半端に閉じたような、段々のついている変わったデザインだ。

 涼さんがチェックインの手続きをしている間、私と恵は尊さんと一緒にソファに座り、周囲をキョロキョロしていた。

「日本でも馴染みのあるホテルだから、安心だろ?」

「……いや、聞き馴染みはありますけど、こんな高級ホテル泊まったことありませんって」

 恵は顔の前でパタパタと手を振る。

「我々庶民を、尊さん基準で考えないでもらいましょうか」

 私がドヤ顔で言うと、彼は「なんで威張るんだよ……」と突っ込んでいた。

「そういえば、尊さんが涼さんと世界各地を放浪していた時、毎回いいホテルに泊まっていたんですか?」

 今思った事を尋ねると、彼は「うーん……」と少し考えてから答える。

「セキュリティはしっかりしていたほうがいいから、ある程度ランクの高いホテルにはする。でも毎回スイートには泊まらねぇな。涼と二人でツインに泊まって、食事は街中のバルとかで現地の人と話しつつ、色々話を聞く。大体外にいるから、寝る所さえあればいいんだ」

「……ほう。なら今回は?」

 恵が聞くと、尊さんは「みなまで言わすなよ」と笑う。

「女子が一緒だと、野郎二人以上にセキュリティに気をつけないとならないし、……あとは見栄だな」

「見栄。正直でよろしい」

 うむ、と頷くと、尊さんに「何様だよ」と笑われる。

 その時、涼さんが「お待たせ」とスタッフさんと一緒に戻ってきた。

「涼さん、英語でチェックインできるんですね。凄い」

 私がパチパチと拍手すると、彼は舞台役者みたいなお辞儀をしてから、ウインクして言った。

「英語もできるけど、ここは日本人スタッフもいるよ」

「あはは! それなら私も安心です」

 エレベーターに乗って、廊下で涼さんと恵と別れる。

「わぁ……! 凄い!」

 部屋のドアを開けると、ウォーターフロントビューのプレミアスイートが目に飛び込んだ。

 広い空間には、窓の外の川を見るようにソファが配され、ガラスのテーブルも置かれてある。

 ソファは茶色の革張りで、クッションはオレンジと水色だ。

 窓際にある一人掛けのソファ二脚の間には、南国の花が美しく活けられている。

 奥には大きな正方形の黒いダイニングテーブルがあり、一辺につき二脚のブルーの椅子が置かれ、合計八人座れる

 その上には天使の輪みたいな円形のライトが下がっていた。

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