部長と私の秘め事
 壁際には額に入った鏡と、その手前には花瓶が載ったチェストがある。

 バルコニーに出ると、海みたいに広い川と、空が独り占めできる。

 勿論、バルコニーにもソファやテーブルなどがある。

 テレビはダイニング側の壁にもあるし、リビング側の壁にもある。

 ベッドルームはリビングダイニングとは別の空間にあり、キングサイズのベッドは窓側を向いて置かれてあった。

 とても広い部屋なので、壁際にはソファもあるし、勿論テレビもついている。

 洗面所とお風呂は、シックなグレーの大理石で統一されていて、余裕で二人で入れる大きなバスタブに、二つの洗面台と大きな鏡がある。

 その奥にはシャワーボックスと、スライドドアを閉めて独立するお手洗い空間があった。

 これにはちょっと安心したりもする。

 海外ドラマや映画などを見ていると、お風呂や洗面所とおトイレが同じ空間にあるのが普通らしいので……。

 どうやらこのプレミアスイートは建物のコーナーを使っているらしく、涼さんと恵はもう一つのコーナーを使った部屋なんだろう。

「こんな凄い部屋、ありがとうございます!」

「どういたしまして。喜んでくれて何よりだよ」

 あとから尊さんに〝種明かし〟され、ホテルの会員になっているから、多少割引されていると知った。

 それでも、一番いい部屋だったら絶対お高いので、割引されても物凄い金額なんだろう。

 付き合いたての頃だったら、スイートルームを前にしておっかなびっくり……になっていたと思うけれど、最近はあちこち探検するのが楽しみになっている。

「こんなにお金を使わせて申し訳ないな」という想いはいまだあるけれど、尊さんが私を相手に手抜きをするはずはないと分かってきた。

 なら、与えてくれるものを全力で喜ぶほうが、彼のためになると割り切った。

 スタッフさんが説明をして出て行ったあと、私はタタタタ……と助走をつけて、尊さんにジャンプして飛びついた。

「おっと!」

 彼はしっかり受け止めてくれ、抱っこする。

「んー」

 私は尊さんの頬にチュッチュとキスをし、ストンと降りる。

「お礼です」

 ドヤ顔で言ってサムズアップすると、彼は「ぶふっ」と噴き出した。

「無事にホテルに着きましたけど、どうします?」

「涼たち、荷物を置いたらこっちに来るって言ったから、もう少し待って相談するか。腹減ってるか?」

「んー、食べなくても大丈夫なんですが、お昼ですし現地飯行きたい気持ちもありますね」

「よし、分かった」

「いきなりワニじゃなくても大丈夫ですからね? お肉じゃなくても、他の何かで軽いジャブを……」

 シュッシュッとパンチを打つ真似をすると、尊さんはクックック……と笑う。

「肉戦士だもんな。気遣わなくても、十分満足できるプランを練っておくよ。レストランに入っても、色んなメニューがある訳だし。一生に一度しか来られない訳じゃないけど、そう頻繁には来ないから、後悔しないように食っておけよ」

「ありがとうございます!」

 お礼を言った私は、とりあえずスーツケースを開けて、洗面道具などを出しておく事にした。



**



「わ……」

 スイートルームに入った途端、私――中村恵はポカンと口を開けて、室内を見回す。

 角部屋のスイートは川に面していて、とても景色がいい。

「川の向こうは建物がないから、夜になってもカーテン全開で大丈夫だよ。夜景……とはいかないけど、別の綺麗さがあると思う」

「……ありがとうございます」

 私はペコリと涼さんにお辞儀をしたあと、彼がスタッフから英語で説明を受けているのを見守る。

 スタッフが去ったあと、私たちはスーツケースをベッドルームまで引きずっていった。

(……当然のようにキングサイズベッド)

 ツインの慈悲はないのか、と思ったけれど、彼と行動を共にするようになってから、スイートルームにあるのは大体キングサイズベッドだと理解してきた。

「恵ちゃん」

「はい?」

 呼ばれて振り向くと、涼さんが満面の笑みで両腕を広げている。

(……これは……、ハグを求められているのか)

 理解しても、笑顔で「キャピピピ」と奇声を上げて抱きつくなどできない。

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