部長と私の秘め事
「シーフードは食べられるからいいとして、朱里と同じ量を食べられる自信はないんですよね。半分でいいかな……。半分も入らないかもしれないけど」

「じゃあ、俺が頼んだのを味見する?」

「立ち直り早いっすね。それでお願いします」

 何だかんだで涼さんと恵を見ていると、テンポ感が安定していてお似合いだな、と思う。

 きっとだけど、今まで涼さんの側にいた女性って、彼に嫌われないように気を遣い過ぎていた人ばかりだったんじゃないだろうか。

 嫌われないように、自分の綺麗な面ばかりを見せて、本心を見せられなくなってしまう。

 涼さんは鋭いから、そういうところを見抜いて付き合う人を選んできたように思える。

 彼も多分、付き合った女性が〝完璧なイケメン御曹司〟を求めるなら、ある程度応えようとしただろう。

 けれどそれが涼さんのすべてじゃないから、相手の望む自分を演じる事に疲れてしまったんじゃないだろうか。

 その分、恵は男性に媚びないし、『涼さんに嫌われたらどうしよう』と心配はするけど、そのために彼に縋ったりはしない。

 だから、こうやって塩対応して振り回されるのも新鮮なんだと思う。

 むしろ「ご褒美」と言いそうだ。

 恵も過去の彼氏と付き合っていた時は、本当の意味での塩対応だった。

 涼さんにも塩対応してるけど、付き合いの長い私はこれが愛のある塩だと分かっている。

 彼女はもともと痴漢の件があって男性不信気味だったけれど、涼さんと付き合ってすべての男性が体目当て、性的な事ばかり考えている訳じゃないと分かったと思う。

 その意味で、私も涼さんに深く感謝していた。

「尊さんは?」

「俺は普通にオージービーフでいいかな。あとは適当につまむ」

「ラジャ!」

 飲み物も含めてオーダーが終わったあと、四人で川を背景に記念写真を撮った。

 勿論、私の自撮り棒が大活躍である。

「冬の日本を脱出して、夏のケアンズに来るのもいいけど、冬のケアンズも暑すぎず丁度いいだろ?」

「ですね! 歩き回っても汗だく! ってほどにはならないと思います」

「ヨーロッパって冬はどうなんですか?」

 恵に尋ねられ、尊さんと涼さんは顔を見合わせる。

「結構冷えるよな?」

「そうそう。日照時間が短いし、どんよりしてて雨が多い。夏は逆に夜遅くまで明るいし雨が少ないから、住んでたら脳がバグるよ。冬期鬱になったりね」

「欧米人がテレビで冬でも半袖着てるのは、冬が長くて慣れてるから?」

 恵が軽く挙手して尋ねると、涼さんは「いい質問だね」と先生みたいに言う。

「第一に体が大きくて筋肉量が多いから、基礎体温が高いんだ。平熱で三十七度超えとかあるみたい。北方ルーツの人は寒さに耐えられるようにそういう体になったんだろうね。逆にアジアは基本的にそれほど寒くないでしょ。だからスリムな人が多いの」

「「あー……」」

 私と恵は、またハモって納得する。

 そのあと、飲み物が運ばれてきて乾杯した。

「あ~……、いいですね。雄大な景色を見ながら美味しいビール。……尊さん、あとでカクテル頼んでもいい?」

「許可は得なくていいから、好きに頼めよ」

「しゅき……」

 彼への愛を噛み締めていると、涼さんが興味津々で尋ねる。

「恵ちゃん、ヨーロッパに興味あるの?」

「いえ、知らない土地なのでどんな感じなのかな? って思っただけで」

「じゃあ、いつかヨーロッパも行かないとね」

「いや、いいっす」

「私、行きたい! 興味あります!」

 私が挙手すると、涼さんは「だよね~!」とニッコリ笑顔になる。

 順番に料理が運ばれてきて、サラダはどっさりだ。

「ここね、下のほうにオリーブオイルが沈んでるんだよ」

 涼さんはそう言って、器用にサラダボウルを掻き混ぜる。

 尊さんはパスタを取り分けてくれて、恵は運ばれてきたクラムチャウダーのムール貝を見て「立派」と呟いていた。

「むちゃむちゃ美味しい~!」

 クラムチャウダーには大きなムール貝が、殻ごと三つ入っていて、パンもついている。

 スプーンで濃厚かつクリーミーなスープをいただき、残った分はパンでぬぐって綺麗に食べる。

 カルボナーラも濃厚で美味しいし口の中が常に幸せだ。

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