部長と私の秘め事
「わー! 恵、可愛い!」

「ぐぬぅ……」

 ロビーに行くと、ペールブルーのフィッシュテールワンピースを着た恵が、今にも噛み付いてきそうな顔で立っていた。

 生地は無地でシンプルなんだけれど、Aラインのシルエットがとにかく格好良くて、恵のスラリとした脚が際立って見える。

 おまけに彼女は要所に花のモチーフがついたコイルストラップサンダルを履いていて、膝から下が非常にゴージャスになっている。

「さっすが涼さん! ナイスプロデュース!」

「イエーイ!」

 私は涼さんとハイタッチを交わし、彼と二人でニヤニヤして恵を見て、おもむろにスマホを取りだす。

 ちなみに涼さんは白シャツにベージュのタックパンツと、シンプルな装いだ。

「撮影禁止! 金取るぞ!」

「はい、喜んで~!」

 恵が毛を逆立てた猫みたいに怒っても、涼さんはどこ吹く風という感じで連写しまくっている。

「ほら、いつまでもじゃれてないで、行くぞ」

「はーい!」

 尊さんに声を掛けられ、私はタタッと小走りに彼の隣についた。





 カジノは、すぐ近くの『プルマン・リーフ・ホテル』という五つ星のホテルに入っている。

 二〇二三年の秋まで最上階に動物園があったらしい、色んな施設の入った大規模なホテルだ。

 ホテルの前にはどでかいネオンでカジノというロゴがあり、分かりやすい。

 無料で作れるカジノのメンバーズカードは、パスポートを持っていて、住所などを書けば簡単に作れるそうだ。

 そのカードを持っていれば、カジノの中での飲食が割引になるらしい。

 日本ではカジノに馴染みがないので、及び腰になってしまうけれど、こちらでは十八歳以上なら誰でも気軽に入れるらしい。

 カジノの入り口はホテルのロビーの反対側にあり、巨大スクリーンを背後にしたステージにはDJ用の機器がある。

 長方形のパネルにはグレートバリアリーフの美しい海の中が映され、その周囲の床の上にもパネルがあり、まるで海の上に立っているような気持ちになった。

 私たちはそこで記念撮影をし、しばし映像を楽しんでからカジノへ向かった。

「うわぁ……」

 カジノには勿論行った事ないけれど、イメージしていた通り、華やかでカラフルな場所だ。

 広いスペースには様々なゲームの〝島〟があり、金色のライトで照らされた下、ルーレットやスロットマシーンなど、見慣れない物が並んでいる。

 ディーラーさんの中には、女性もいてとても格好いい。

 カジノは大人の世界なので、お酒ありきと思っていたけれど、酷く酔っぱらった人はNGなようで、最初に軽いアルコール検査があった。

 勿論、カジノ内にあるレストランではお酒を提供しているから、最初からできあがっている人を弾くためのチェックだろう。

 ナイトマーケットで食事をした時、尊さんが『アルコールなしな』と言っていたのは、これを見越してだろう。

 それに加えて軽い持ち物検査もあったけれど、本当に簡単なチェックだ。

 加えて尊さんがドレスコードについて『そんなに気にする事はない』と言っていたように、中にはTシャツと短パン姿のおじさんもいた。

「予算はどうする?」

 尊さんに尋ねられ、私と恵は顔を見合わせる。

「……賭け事だし、あんまりお金使ってもお小遣い勿体ないから……」

「んだ」

 庶民代表としてビビっていると、涼さんが陽気に言った。

「よし! じゃあ、まず恵ちゃんは予算五万円まで遊んでみようか!」

「勿体ないからいいです!」

「じゃあ、朱里もそれぐらいいってみるか。俺が出すから心配すんな」

「いや、そんなにお金投げるなら、お肉食べたいです」

 真顔で答えると、三人が横を向いて「ぶふっ」と噴き出した。

「滅多に経験できない事だし、俺の金だから遊んでおけよ」

「えぇ……。一万円でも多いぐらいなのに」

「たまには無駄金使ってみる経験もしてみれば?」

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