部長と私の秘め事
「うーん……。……うん、じゃあ、一万円分だけ」
「よしきた」
尊さんは頷き、百オーストラリアドルを、チップに両替した。
ちなみに尊さんと涼さんは、五百オーストラリアドルを両替していた。強い。
「じゃあ、私も同じだけ」
恵が言って自分のお財布を探ろうとすると、涼さんが「ノンノン」と言ってサッと両替してしまった。
「はい、恵ちゃんのお小遣い」
「ありがとうございます」
二人はチップを入れるためのケースも買ってくれ、私と恵は物珍しくチップを見る。
色とりどりのチップは、普通の硬貨より大きくて、直系四センチはありそうで、厚みもある。
「これ、色は何の意味があるんですか? 値段?」
尋ねると、涼さんが答えてくれた。
「そう。真ん中に数字が書いてあるでしょ。一ドル、五ドル、二十五ドル……って、値段に応じて色が変わっていくんだ。勝った時にジャラジャラ持ち歩くのは邪魔だからね。最高二万五千ドルのチップもあるよ」
「ほえー」
感心した私は、受付でもらった日本語の〝遊び方〟に目を通す。
丁寧にこういう物が用意されているのはありがたいけれど、やっぱり慣れない物は不安だ。
「一番簡単なのはルーレットだから、やってみたら?」
尊さんに言われ、私と恵は顔を見合わせて手を繋ぐ。
「その不安そうな感じ、可愛い……! 守ってあげたい……!」
涼さんはいつもテンションが高いけど、今回は海外に来ていつもより何割かパワーアップしているように思える。
「じゃあ……、やってみる? 朱里、赤入れなよ。私、黒にする。勿論、さっきのバニーは冗談ね」
「うん、やってみよう」
おずおずと決意を固めた私たちの後ろで、涼さんはガックリと項垂れていた。
「バニーが……」
「そんなにバニーが好きなら、涼さんが着たらどうですか? 見るだけなら見てあげますよ」
「恵ちゃんが冷たい目で俺を見るのが容易に想像できる……」
「筋肉質な体のでけぇバニー、最悪だな」
「何言ってるんだよ。尊も道連れに決まってるだろ」
「マジか。逃げるわ」
私は二人のやり取りを見てケラケラ笑い、冗談の提案をする。
「じゃあ、四人でバニーになって、横並びで手を繋いで『白鳥の湖』の群舞やるのどうですか?」
そう言って、私は「ズッチャッズッチャッズッチャッズッチャッ」と口ずさみながら、両手を斜めに、がに股足踏みをする。
「それってちょっと、グランディーババレエ団入ってない?」
恵に指摘され、私は「あははっ、バレた?」と笑う。
「朱里ちゃんって面白いよね」
「愉快な女だろ?」
二人が言うなか、私は恵と横並びになって手を交差させて繋ぎ、『白鳥の湖』ごっこをする。
「あははは! 恵ちゃんまで! おっかし……」
恵はこういう事に乗らないタイプに見えるけれど、私が誘った時に限りちょっとだけやってくれるのだ。
「脱線しましたけど、ルーレットいきましょうか」
「んだ」
私たちがキリッと真顔になると、それを見た涼さんはさらにヒイヒイ笑った。
ルーレットは言わずもがな、ディーラーさんがウィールというグルグル回る所に白いボールを回転とは反対回りに投げ入れ、どこに入るかを予測するゲームだ。
なお、1から36までの数字に付けられた色は固定で、たとえば9は赤なので、黒の9という当たりはない。
ディーラーさんが「プレイス・ユア・ベット(お賭けください)」と言ったら、ベッティングエリアにルーレット専用のカラーチップを置く。
そのあとディーラーさんが「スピニングアップ(ボールを回します)」と言ってボールを回し入れ、「ノーモア・ベット(賭けは締め切りです)」と言うまでは、自由にチップを置ける。
そのあと結果が出て、ディーラーさんが当たった色、数字の場所にマーカーと呼ばれる目印を置き、外れの人のチップを回収していく流れだ。
そのあと当たった人には配当のチップが与えられ、マーカーを外す事でワンゲームが終わる。