部長と私の秘め事

ケアンズ4日目

 起きてジャンプをしないラジオ体操をした私――、上村朱里は、寝起きの歯磨きを軽くして顔を洗い、そのまま飛行機に乗れるよう、白いTシャツにゆるっとしたライトグレーのスウェットパンツ、その上に黒いパーカーを着た。

 ヘリで空中散歩するイベントはあるものの、あとは買い物をして飛行機に乗るだけなので、ドレスコード的な物は考えなくていいだろう。

 尊さんも黒いTシャツにデニムで、カジュアルだ。

「よし、そろそろレストラン行くか」

「腹ペコの助! お供つかまつります!」

「途中で鞘当てがあったって、喧嘩売るなよ?」

「どこの武士ですか! 左側歩かないと」

「その辺から、日本人は左側通行になったっていう話も面白いよな」

 私は尊さんとそんな会話をしつつ、部屋を出てエレベーターに乗った。

「今日はジャンジャン買い物しないと」

 鼻息荒く言うと、尊さんがじっとりとした目で囁いてくる。

「カジノの金を使う事も忘れるなよ」

「あっ……、そうだった……」

 言われて、私は欲しい物を思い浮かべる。

「俺の予定では、ホテルのすぐ近くにハイブランドのショップがあるから、朱里のバッグに四十万近く使って、残りは俺と朱里のサングラスとか、小物でいいかなーと思ってる。残りは寄付」

「えー? ほぼ5:1じゃないですか。ミコの乱が起こりますよ」

「俺は今持ってる物で全然構わないし、気に入った物を買おうと思ったら、多分もっと掛かるから、それでいいんだ」

「えー……」

「たまには、ちょっとキラキラしたバッグを持ってもいいんじゃないか? 中村さんとお揃いだぞ」

「うー……、うん……。まぁ、お店見てみないと分かりませんし」

「よしよし、あとで行こうな」

 なんだか上手く言いくるめられてしまった気がする。

 恵におはようコールを送ると、いま部屋を出たところらしい。

 レストラン前で待っていると、ニコニコ笑顔の涼さんと、ふてくされた猫みたいな顔をしている恵がやってきた。

「おはよー! 恵」

「おはよ」

 私には分かる。

 恵がブスッとしている時は、大体涼さんに可愛がられたあとだ。

 普段の彼女はスンッとしているので、実に分かりやすい。

 というか、ニマニマしているとか、赤面してそわそわ照れている選択肢がないのが彼女らしい。

 私たちはカードキーを見せて席に案内してもらう。

 男子チームには荷物を見てもらい、私たちは身軽な格好でビュッフェの列に並んだ。

「涼さんと何かあった?」

 コソッと囁くと、恵は仁王様みたいな顔になって、大きな目でジロリと睨んできた。

「はいはい、聞きません。……でも、一緒にケアンズ来られて良かった?」

「……うん」

 恵はトングでレタスを盛りつつ、頷く。

「また四人でどこかに行きたいね」

「うん、それは賛成。……旅費とか色々、涼さんと篠宮さんに頼り切りなのは申し訳ないけど」

「その気持ちは分かるわー。……でも私たちがこう言ったら、彼らがどう答えるかも分かってるのがこれまた……。……私もただ愛でられていればいい、って言われると納得できないけど、割り勘にしようなんて、現実的じゃないもんね」

「マジそれ。割り勘にしようとしたら、借金まみれになる」

「つらぁ……」

 そんな会話をしながら、私は気になった物をプレートにヒョイヒョイ載せていく。

 日本の温泉旅館とかでも、ビュッフェで色々載せると重たくなってしまうけれど、海外では食器がとても重たいので、結構腕にくる。

 タオル類も重たいけれど、両方とも耐久性や高級感を重視しているかららしい。

 お皿は色んな人が触れるので、ちょっとの接触では割れない頑丈さ、料理を載せてもトレーの上でズレない安定性、あとは温かい料理を冷めにくくするための保温性もあるのだとか。

 他にも、ヨーロッパとかだと古い物ほど価値があるという考え方もあるし、頑丈で長持ちする物は、コスト削減にも繋がっているらしい。

 料理を持って席に戻ると、テーブルにはすでにホットコーヒーが載っていた。

 尊さんたちが取りに行ったのではなく、テーブルにすでに用意してあるカップに、スタッフさんがコーヒーか紅茶を注ぎに来てくれるのだ。

 入れ替わりで男子チームが食べ物をとりに行ったあと、私は恵に尋ねる。
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