部長と私の秘め事
「カジノのお金の使い道、どうする? 尊さんがすぐ近くのお店で買い物しないかって」

「うーん……」

 恵はサラダをモリモリ食べながらうなる。

 彼女がブランド物に興味を示さないのは分かっているけれど、せっかく儲けたお金だから、思い出作りをしたい。

「……なんか、四人で色違いの小物とか、ケアンズの思い出になるような物は?」

「あっ、それいいね!」

 恵のアイデアを聞き、私は頷く。

「小物でも凄く高いだろう事は予想できるけど、六十万円近くもあるなら、まだ何か買えるよね……」

「尊さんは四十万円近くする、バッグを買ったらどうだ? って言ってくれてた。恵とシリーズでおそろの物にするとか、色々……」

「うーん……。普段はまず使わないけどなぁ」

 恵は涼さんと同棲するようになったあとも、通勤バッグはともかく、プライベートでちょっと外出する時などは、Tシャツにデニム、ナイロンのリュックスタイルを貫いている。

「恵の気持ちも分かるんだけど、でも他に六十万円近くの買い物ってなくない? お土産を買うって言ってもたかが知れてるし、高価なお土産あげたら気を遣わせちゃうし」

「だなー」

「ぶっちゃけ、ハイブランドの物は要らない? 嫌い?」

 恵の顔を覗き込むと、彼女は難しい表情で言う。

「嫌いって訳じゃないけど……。凄い物とは思うんだよ。高いだけあってモノがいいだろうし、品質や価値が保証されてこその〝ブランド〟だから。……でも、朱里みたいに美意識の高い人ならともかく、『私なんかがそんな凄い物を持っていいんだろうか?』って思っちゃう。涼さんがくれた沢山の服もあまり着られていないし、コスメはなんとか使おうと努力してるけど、ジュエリーとか恐くて付けられないし……」

 そこまで言い、恵は深い溜め息をつく。

「んまー、ジュエリーは気持ち分かるわ。……でもね、こういうのって開き直りだと思う。恵は随分私を持ち上げてくれるけど、私は自分の事を凄い人なんてちっとも思ってない。尊さんがプレゼントしてくれる物に、釣り合う人になりたいって常々思ってるけど、果たして結果が出ているか分からないし。……でも身につける物って、誰かの許可を得て選ぶ訳じゃないでしょ? ブランド品のバッグや服を身につけたからって、逮捕される訳じゃあるまいし」

「ぶふっ」

 逮捕と聞いて、恵は噴き出す。

「確かにそうだわ」

「でしょ? それに、身綺麗にしたらテンション上がらない? 恵は今の髪型キープしてるけど、それでも美容室に行ったあとは『整ったわ~』って嬉しそうにしてるじゃん。ネイルはやらないみたいだけど、私が秘書になる前にシンプルだけどネイルをやってたら『綺麗だね』って褒めてくれたの、本当は憧れも混じっていたように思える。本当にどうでもいい人って、誰が何をしていても気にならないものだと思うから」

「んー……、かもね。爪の場合、何回かポリッシュネイルをした事があるけど、爪呼吸ができなくなりそうで、何となく苦手感があって。でも確かに、爪に色がついていると、思わず何回も見てしまって、嬉しくなったのは覚えてる。朱里の言う通り、憧れはあるんだと思う」

「うんうん。恵は着飾る事に興味がないって言ってるけど、本当はあるんだよ。でも子供の頃から周りの人に『男の子みたい』って言われ続けたから、それがある意味呪いになってしまっている。……でもね、あの時恵を『男みたい』って言っていた人たちは、もういないんだよ? お兄さんたちもデパコスリップとかプレゼントしてくれるって言ってたじゃない。〝今は〟綺麗でいてほしいって思ってるよ」

「うん……。涼さんにも似たような事を言われた。子供の頃、ワンピースを着た姿を兄貴たちに見られて嗤われたけど、そのあとお母さんがこっぴどく叱ってくれて、反省はしていたみたい。……今はもう『誰のせいでこうなった』とか、責任を押しつけたい気持ちはない。……ただ、痴漢の件もあって自己肯定感が低くなって、目立たず、実用的ならいいやって思ってる自分がいる。それが〝お似合い〟なんだって」

 私は綺麗な親友の手を握り、顔を覗き込む。

「……でも、憧れはある? 恵って私の事を沢山褒めてくれるけど、スカートの件も然り、本当は女子らしくしてみたいって思ってるでしょ?」

 彼女は赤面して決まり悪そうな顔をして、小さな声で「……うん」と頷く。

「んーっ! 可愛い!」

 私はギュッと恵を抱き締める。

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