部長と私の秘め事
「……こうなるって分かってたよ」

「そうだねー」

 私たちはお店のソファに腰かけ、ご満悦でお会計しているメンズを見守る。

 どうやら現金では追い付かない金額になったので、やっぱりカード会計になるらしい。

 カジノで儲けた現金は空港で買い物をしたあとに、余ったらドカッと寄付ボックスに入れる事になるようだ。

 セレブのやる事は規模が凄い。

「すげぇ荷物っすね」

 恵はすっかりやる気を失った顔をして、ボソッと突っ込む。

「大丈夫! 荷物は俺が持つからね!」

「そうじゃないっす」

 荷物とスーツケースはチェックアウトしたあとだけれどホテルで預かってもらい、私たちはいよいよヘリコプターに乗るため、ヘリポートに向かう。

 この辺りはグリーン島へのクルーズや、ヘリコプター、またはセスナでの空の旅などを売りにしているため、そのような施設が多くある。

 グリーン島に向かうツアーでは行きは空で、帰りは海からというのもあるそうだ。

 ヘリコプターやセスナも、グレートバリアリーフを見学するだけのコースや、キュランダのほうの熱帯雨林までグルッと回るコースもあるらしい。

「うわー、ヘリコプターって人生初めて乗ります」

 ヘリコプターは、機体によって搭乗できる人数が異なるけれど、最少で三人、最大で六人ぐらいがチャーター機の基本らしい。

 今回は定員五名の機体なので、四人で乗る事ができた。

 少人数でツアーに臨む時は、相乗りになる事もあるんだとか。

 私たちはヘリコプターの前で記念撮影をしたあと、中に入る。

 飛行機と同じで、スマホは電波を発する物だから機内モードにしておく。

 ちなみに飲食もNGで、撮影はグリーン島で大活躍したGoProならOKらしい。

 ヘリコプターの後ろ半分のシュッとした部分は、小さいローター(プロペラ)が高速で回転するのでとても危険らしく、後方には近づかないでくださいと指示を受けた。

 ヘッドセットを装着したあと、しげしげと操縦席を見るけれど、飛行機では勿論見られないので、物凄く新鮮だ。

 飛行機よりずっと小型という事もあり、フロントガラスというかが、グワッと広くて圧倒される。

 ガラスは一番前の席に座って、脛ぐらいから真上以上まで広がっている上に、左右も見回せるようになっている。

 私たちは公平になるように、後部の四席に座っているけれど、一番前に座ったら物凄い迫力なんだろう。

 やがてフライト時間が迫り、私はドキドキして尊さんの手を握る。

「朱里、船酔い大丈夫だったよな?」

 不意にヘッドセット越しに尊さんの声が聞こえ、私は「はい」と頷く。

「だったら酔いは大丈夫かな。揺れないのが前提だけど、たまに揺れる事もある。そんな感じに思っとけ」

「了解です」

 その時、涼さんの声が聞こえた。

「ははっ、恵ちゃん、そんなガチガチにならなくても」

「……い、今、集中してますから、声を掛けないで……」

 当たり前だけど、恵と涼さんの声もすぐ耳元で聞こえる訳で、ちょっとだけビクッとしてしまった。

 尊さんには秘密にしておこう……。

 パイロットが陽気に挨拶をしたあと、エンジンがかかってプロペラが回り始める。

 ヘッドセットをするのは爆音が凄まじくてろくに会話ができないからで、確かに物凄い音だ。

 日本でも基地の近くにいると、ヘリコプターや飛行機の音がかなり大きく聞こえるけれど、まさにあれを現場で聞いている事になる。

「わっ、わっ……」

 機体がフワッと浮かび上がったあと、飛行機ならグイーンと後ろ向きにGが掛かって、物凄いスピードで離陸していく。

 けれどヘリコプターは機体が少し前のめりになって進むので、一瞬ドキッとしてしまう。

 ギュッと尊さんの手を握ると、彼もしっかりと握り返してくれる。

 そのまま、ヘリコプターはどんどん上昇し、すぐ横のガラス窓からはケアンズの街並みが小さくなっていくのが見えた。

「わああ……!」

 ほどなくしてエメラルドグリーンの海が眼下に広がり、私は声を上げる。

 エメラルドグリーンの海という表現はあまりにシンプルすぎて、透明度の高い海の中、岩や珊瑚礁のある部分は黒っぽく見え、深さによっても色合いが異なる。

 ビーチの砂は白く、山側のほうを見ると、先日行ったキュランダの密林がモリモリしているのが分かる。

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