部長と私の秘め事
「凄いなぁ……」
尊さんはGoProで撮影していて、私はスマホを機内モードにしたまま、写真や動画を撮る。
パイロットさんは英語で色々と説明してくれて、尊さんと涼さんが代わる代わるそれを訳してくれる。同時通訳がありがたい。
「恵ちゃんに正式にプロポーズする時、地上にリング状の何かを用意して『君のためのエンゲージリングだよ……』ってやるのもいいね!」
「今からネタバレしてどうすんですか。そんな規模のでかい事をされても『そっすか』って言って終わりですよ」
「恵ちゃんは本当にあっさり塩味だよねぇ……。もっとこう、ハニーバタートースト味とかになってもいいと思うよ?」
「自分に合わない事を言っても、その内バランスが崩れてストレス過多になるんですよ」
「確かに一理ある。俺に媚びる恵ちゃんなんて、嫌だもんなぁ……」
私は二人の会話を聞いて、クスクス笑う。
「こんな綺麗な海を見ながら、そんなイチャつき方をするのも、恵ならではだよね」
茶々を入れると「朱里」と彼女に窘められた。
そのあとのんびりと三十分ほどの空中散歩を楽しんだあと、私たちはケアンズに戻った。
十時から買い物をして、ヘリコプターの時間は決まっていたので、ランチは後回しになっていた。
帰りの便は十八時二十分で、それから約三時間でシドニーに向かい、向こうで一泊、翌朝に日本に出発する予定だ。
今はお昼過ぎで、夕方までには十分に時間がある。
シドニーに着くのは二十一時近くなので、お昼にがっつり食べて夜は機内食に頼る事にした。
という事で、私たちが向かったのは初日に向かった『ダンディーズ・レストラン・ウォーターフロント』と同じぐらい人気があり、受賞歴のあるお店『オーカー・レストラン』だ。
こちらもウォーターフロント地区にあり、男性陣が景色のいい席を予約してくれたようだった。
このお店でも、日本人スタッフが対応してくれるので心強い。
「最後の昼餐ですしね。がっつりオージービーフいっときますか」
私はメニューを捲ろうとしてはたと我に返り、恵に尋ねる。
「ごめん。今さらだけど、恵は食べたい物ないの? 私の欲にばっかり付き合わせてマジでごめん」
言ってから、サァ……と血の気が引くのが分かった。
恵とはいつも自然体で接していて、色んなものの好みも似ているので、一緒に遊びに行った時に困る事はなかった。
二人とも映画は何でも見るし、食べ物の好き嫌いもほぼない。
たとえば私は処理が甘くて生臭いタチや白子が苦手だけど、そういう物を出すお店は限られているし、選ばない選択肢もある。
恵も似たようなもので、今まで不自由さを感じる事はなかった。
とはいえ、今回は特別な海外旅行で、恵だってもしかしたら食べたい物があったかもしれない。
なのに私に配慮してくれて、我慢させたままだったら……と思うと、あまりの申し訳なさに気が遠くなる。
恵は少し驚いたような顔をして私を凝視していたけれど、しばらくしてから言う。
「……いや、別に? どうした、急に」
「いやいやいや、恵っていつもそうでしょ? もっとこう……、本当は別の物が食べたかった! とかない? せっかくオーストラリア来たのに!」
「いや、待て? 冷静になれ。食べたい物があったら、とっくに言ってるよ。正直、オーストラリアは初めてだし、何が美味しいのかも分からない。まぁ、オージービーフぐらいは知ってたけど、美味しいの食べられたしね。で、歩くグルメガイドみたいな二人が美味しいお店に連れて行ってくれたし、そこでもメニューを選べる訳でしょ? コース料理も全部美味しいから万々歳だし。……という訳で、美味しい物を沢山食べられたし、私はまったく文句ないよ」
今度は私が恵を凝視し、「Really?」と尋ねる。
「マジ。というか、今さら私が朱里に遠慮するとか、ないわ」
「良かったぁ~……」
私は胸を撫で下ろし、大きな溜め息をつく。
そのあと、念押しで尋ねる。
「でもこう……、事前に調べて行ってみたいお店とかなかった?」
「いやー……、正直、今回は二人にぶら下がりの旅行だから、同行させてもらって、出てきた物を食べる、ぐらいしか考えてなかったかな。お土産はちょっとオーストラリアらしい物を買いたいと思ってるけど」
「そっかー」
「もしも朱里と二人で国内旅行行くなら、二人で相談して行きたい場所、食べたい物を相談するけどね。今までもそうだったでしょ?」
「うん」
私たちの会話を、涼さんはすっかり涼子モードになって嫉妬して聞いている。
なんならタオルハンカチを出して、もみくちゃしているほどだ。
尊さんはGoProで撮影していて、私はスマホを機内モードにしたまま、写真や動画を撮る。
パイロットさんは英語で色々と説明してくれて、尊さんと涼さんが代わる代わるそれを訳してくれる。同時通訳がありがたい。
「恵ちゃんに正式にプロポーズする時、地上にリング状の何かを用意して『君のためのエンゲージリングだよ……』ってやるのもいいね!」
「今からネタバレしてどうすんですか。そんな規模のでかい事をされても『そっすか』って言って終わりですよ」
「恵ちゃんは本当にあっさり塩味だよねぇ……。もっとこう、ハニーバタートースト味とかになってもいいと思うよ?」
「自分に合わない事を言っても、その内バランスが崩れてストレス過多になるんですよ」
「確かに一理ある。俺に媚びる恵ちゃんなんて、嫌だもんなぁ……」
私は二人の会話を聞いて、クスクス笑う。
「こんな綺麗な海を見ながら、そんなイチャつき方をするのも、恵ならではだよね」
茶々を入れると「朱里」と彼女に窘められた。
そのあとのんびりと三十分ほどの空中散歩を楽しんだあと、私たちはケアンズに戻った。
十時から買い物をして、ヘリコプターの時間は決まっていたので、ランチは後回しになっていた。
帰りの便は十八時二十分で、それから約三時間でシドニーに向かい、向こうで一泊、翌朝に日本に出発する予定だ。
今はお昼過ぎで、夕方までには十分に時間がある。
シドニーに着くのは二十一時近くなので、お昼にがっつり食べて夜は機内食に頼る事にした。
という事で、私たちが向かったのは初日に向かった『ダンディーズ・レストラン・ウォーターフロント』と同じぐらい人気があり、受賞歴のあるお店『オーカー・レストラン』だ。
こちらもウォーターフロント地区にあり、男性陣が景色のいい席を予約してくれたようだった。
このお店でも、日本人スタッフが対応してくれるので心強い。
「最後の昼餐ですしね。がっつりオージービーフいっときますか」
私はメニューを捲ろうとしてはたと我に返り、恵に尋ねる。
「ごめん。今さらだけど、恵は食べたい物ないの? 私の欲にばっかり付き合わせてマジでごめん」
言ってから、サァ……と血の気が引くのが分かった。
恵とはいつも自然体で接していて、色んなものの好みも似ているので、一緒に遊びに行った時に困る事はなかった。
二人とも映画は何でも見るし、食べ物の好き嫌いもほぼない。
たとえば私は処理が甘くて生臭いタチや白子が苦手だけど、そういう物を出すお店は限られているし、選ばない選択肢もある。
恵も似たようなもので、今まで不自由さを感じる事はなかった。
とはいえ、今回は特別な海外旅行で、恵だってもしかしたら食べたい物があったかもしれない。
なのに私に配慮してくれて、我慢させたままだったら……と思うと、あまりの申し訳なさに気が遠くなる。
恵は少し驚いたような顔をして私を凝視していたけれど、しばらくしてから言う。
「……いや、別に? どうした、急に」
「いやいやいや、恵っていつもそうでしょ? もっとこう……、本当は別の物が食べたかった! とかない? せっかくオーストラリア来たのに!」
「いや、待て? 冷静になれ。食べたい物があったら、とっくに言ってるよ。正直、オーストラリアは初めてだし、何が美味しいのかも分からない。まぁ、オージービーフぐらいは知ってたけど、美味しいの食べられたしね。で、歩くグルメガイドみたいな二人が美味しいお店に連れて行ってくれたし、そこでもメニューを選べる訳でしょ? コース料理も全部美味しいから万々歳だし。……という訳で、美味しい物を沢山食べられたし、私はまったく文句ないよ」
今度は私が恵を凝視し、「Really?」と尋ねる。
「マジ。というか、今さら私が朱里に遠慮するとか、ないわ」
「良かったぁ~……」
私は胸を撫で下ろし、大きな溜め息をつく。
そのあと、念押しで尋ねる。
「でもこう……、事前に調べて行ってみたいお店とかなかった?」
「いやー……、正直、今回は二人にぶら下がりの旅行だから、同行させてもらって、出てきた物を食べる、ぐらいしか考えてなかったかな。お土産はちょっとオーストラリアらしい物を買いたいと思ってるけど」
「そっかー」
「もしも朱里と二人で国内旅行行くなら、二人で相談して行きたい場所、食べたい物を相談するけどね。今までもそうだったでしょ?」
「うん」
私たちの会話を、涼さんはすっかり涼子モードになって嫉妬して聞いている。
なんならタオルハンカチを出して、もみくちゃしているほどだ。