部長と私の秘め事
「尊さん! 大量です! 沢山買っちゃった! どうしよう! いい?」

 私はずっしりと重たい袋を持ち、ドーパミンの出きった幸せフェイスで訴える。

「欲しいもん買えたか?」

「お陰様で沢山買えましたけど、使い切れないお金が余ってます……」

 私はオーストラリアドルだけが入った、尊さんのお財布を返す。

 と、涼さんが恵に尋ねる。

「恵ちゃんは? しっかり買い物した?」

「いやー……、朱里がオススメしてくれた物は買いましたけど、正直コスメや香水を欲しいって欲があんまりないので……。あっ、グミ買いました」

「グミぃ……」

 涼さんはうなだれている。

「まぁ、シドニーでも買い物するだろうし、そっちで残りを使って食事でもして、残ったら景気よく募金しようぜ」

 尊さんに言われ、涼さんはじっとりとした目で恵が持っているグミのパッケージを見てから「だな」と頷く。





 そのあと私たちはラウンジで軽食をとりつつ時間まで待ち、いよいよ飛行機に搭乗してケアンズと別れを告げた。

 機内食では柔らかパン、チキンのソテーと添え物のグリル野菜が出た。

 デザートにはベリーのムースが出て、意外と甘くなくペロッといける。

 モニターで映画を一本、アニメ作品は実写に比べて短めなので、その組み合わせで見ていると、シドニーのキングスフォード・スミス国際空港までジャストな感じだった。

 空港に到着したのは現地時間の二十一時すぎで、荷物を受け取ったあと、空港から車で十分の距離にあるホテルにチェックインした。

 恵たちと別れてカードキーでドアを開けると、ホッとできるコンパクトな大きさの部屋に入る。

 それでも五つ星ホテルらしく、とても綺麗だし安心して眠れる。

 部屋は細長いレイアウトで、入ってすぐキングサイズのベッドがドン。窓際にはソファセットやテレビがある。

 驚いたのはバスルームやトイレが独立しておらず、ベッドのある空間とバスタブの間に黒っぽいガラスの仕切りがあるだけだという事だ。

 バスタブの奥には洗面台があり、曇りガラスの引き戸をスライドさせる事で、横並びになったシャワーブースとトイレが、交互に現れる設計だ。

「……なかなか、隠し所のない内装だな」

 尊さんが言い、私はドキッとしてフォローする。

「でも、空港で一晩過ごすより、ちゃんとしたベッドで眠れるのありがたいです!」

「ん、だな。今回はゴージャスさよりも利便性をとったから、そう言ってもらえるとありがたい」

「文句を言う訳じゃないですけど、いつも豪邸みたいな部屋は特別感があって嬉しいんですけど、一か月ぐらいステイしてゆっくりするならともかく、数日の滞在だと勿体ない気持ちのほうが大きいんですよね。……だから正直、これぐらいコンパクトな部屋のほうが安心できます」

「そっか……。男の見栄との兼ね合いが難しいな」

 尊さんが悩んでいる間、私はスーツケースを開けて洗面グッズなどを出す。

「私、シャワーで済ませちゃいますね。ここのバスタブ、お洒落と言えばお洒落なんですけど、ベッドルームと空間が繋がってる事を思うと、湿気でモワッとするなか寝るのは嫌なので……」

「確かに、同意だ」

 彼はクスッと笑い、自分もスーツケースを開く。

 私はテキパキと準備を進めてシャワーを浴び、上がったあと尊さんに「どうぞ」と順番を譲る。

 フライト時間の二時間前には空港にいるのが理想とすれば、明日は七時ぐらいには空港にいなければならない。

 だとしたら六時前ぐらいには起きて、朝食をとって準備をしなければで……。

(明日は家に帰るだけだし、メイクも日焼け止めとリップぐらいでいいや)

 私はベッドの上で水を飲み、母にメッセージを送る。

【明日帰国予定です】

 時差はシドニーのほうが一時間早いので、こちらが今、二十二時半なら日本は二十一時半だ。

 オーストラリアは思いきり海外気分を味わえるけど、時差がほとんどないのがありがたい。

(ヨーロッパやアメリカに行ったら、時差が凄いんだろうなぁ……)

 そう考えていると、母から返事があった。

【気をつけて帰ってね。家に帰るまでが旅行だから】

 母らしい言葉を見て笑顔になった私は【了解です】というスタンプを送った。

 やがて尊さんもシャワーから出てきて、早めに就寝する事にした。



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