部長と私の秘め事
なんとか買えるだけ買ったあとは、尊さんも涼さんも特に欲しい物がないらしく、寄付ボックスにボーン! とお金を入れてきた。
「……凄い……。買い物より物凄くお金を使った気持ち……」
「マジ分かる。寄付にこんな金額突っ込んだ事ないよ……。手が震える……」
そんな私と恵は、尊さんと涼さんが定期的に結構な額を、色んな所に寄付しているのを知らない。
二人とも褒章やら木杯やら持っていると聞かされるのは、またあとでの事だ。
その後、私たちはラウンジに行ってフライト時間まで待ち、搭乗時間になって日本の航空会社の機体に乗り込んだ。
「はぁ……、やっと帰れる。凄く楽しかったから『やっと』なんて言うの失礼だけど、なんだかホッとする」
ビジネスクラスのシートに座って言うと、隣の席の尊さんが笑う。
「分かるよ。俺も国内外問わず、旅行に出た最終日は『やっと帰れる』って思うから」
「尊さんほどの達人でもそうなんですね」
「世界中、色んな魅力的なところがあるけど、やっぱり自分の家以上に寛げる所はないな」
「ですねー」
頷いた私は、あの三田の豪邸マンションをすっかり自宅と思っている自分に、思わず微笑む。
まだまだセレブ生活には慣れないけれど、少しずつ時間をかけて尊さんとの暮らしを〝普通〟と思えるようになりたい。
(でもいまだに、こんなに格好いい人と豪邸で暮らしているなんて信じられないし、毎日ウキウキワクワクなんだよな)
『美人は三日で飽きる』とか、どんな豪邸に住んでも慣れれば日常になるとか言われているけれど、私はまだまだ楽しめそうだ。
三田のあの家で目覚めて、横を見れば世界一大好きな人がいる。
家の中は快適だし、ご飯は美味しいし、町田さんとも上手くやれている。
出勤する時は、まだ慣れない秘書業務に緊張したり、失敗したらどうしようという不安もある。
でも副社長秘書として個室があって、同僚は笹島さんだけという環境は恵まれている。
本来なら初期のエミリさんみたいに、秘書課からの嫌がらせを受けてもおかしくない。
(今後も何もないとは言いきれないけど、今のところは大丈夫と思っていいのかな。何かあったら笹島さんが対応してくれるって言ったし。……でも、頼りっぱなしもいけないよね)
とはいえ、尊さんや笹島さんからも『揉め事になりそうだったら、すぐ男に任せる事』と言い含められている。
(日常に戻っても、また頑張っていこう。その前に、帰ってから一休みしたら、速水家の皆さんと温泉だ)
白浜温泉も東京からは結構離れているけれど、ケアンズと比べると気軽なものに思える。
(でも、今度は速水家の皆さんと一緒だし、認めてもらえているとはいえ、失敗しないように気をつけないと)
そう思いながら、私はウェルカムドリンクを受け取って「Thank you」と微笑んだ。
**
羽田空港に着いたのは、日本時間の十八時前だ。
「わー……、東京だ」
八月半ばなのでまだ外は明るい。
私は十時間近くのフライトの疲れでホワホワしつつ、ベルト着用のサインが消えてから立ちあがる。
「大丈夫か?」
「はい。お家帰れる……」
私たちは物入れから荷物を出し、ビジネスクラスなので優先されて飛行機から降りる。
「疲れたね~」
「私は明日から会社だから、帰ったら爆睡だよ」
恵の言葉を聞き、私は「うわああああ……」とうなる。
「お疲れ様です……! まだ一週間近く休みでごめんね!」
「仕事が違うんだから、しゃーないじゃん。朱里もエミリさんと社長の休み期間、働いていただろうけど、夏休み終わったらエミリさんにお礼言っときなよ?」
「うん。お土産という名の賄賂をしっかり渡しておく」
そんな会話をしつつ私たちはスーツケースが運ばれてくるのを待ち、それぞれの荷物を手にしたあと、車寄せまで歩く。
本当は空港飯で日本らしい物を食べたいけれど、どうやら町田さんがご飯を用意してくれているらしいので、家まで我慢だ。
尊さんと涼さんは予約していたハイヤーの運転手さんに連絡し、どこに車をつけているか確認している。
尊さんなら鉢村さん、涼さんなら尾野見さんか上条さんに頼む事も可能だけれど、公私混同になる上、あちらも今は夏休み期間中だからという事で、ハイヤーにしたそうだ。
もっとも涼さんの場合、先日の恵の誕生日の時に、思いきりプライベートで上条さんをこき使っていたけれど……。
「じゃあ、またね」
恵に手を振られ、私はニコッと笑うと「また!」とブンブンと手を振る。
「涼さんもありがとうございました!」
「どういたしまして。ゆっくり休んでね」
二人と別れた私たちは、ハイヤーの運転手さんに手伝ってもらって荷物をトランクに詰め込み、車に乗った。
「……凄い……。買い物より物凄くお金を使った気持ち……」
「マジ分かる。寄付にこんな金額突っ込んだ事ないよ……。手が震える……」
そんな私と恵は、尊さんと涼さんが定期的に結構な額を、色んな所に寄付しているのを知らない。
二人とも褒章やら木杯やら持っていると聞かされるのは、またあとでの事だ。
その後、私たちはラウンジに行ってフライト時間まで待ち、搭乗時間になって日本の航空会社の機体に乗り込んだ。
「はぁ……、やっと帰れる。凄く楽しかったから『やっと』なんて言うの失礼だけど、なんだかホッとする」
ビジネスクラスのシートに座って言うと、隣の席の尊さんが笑う。
「分かるよ。俺も国内外問わず、旅行に出た最終日は『やっと帰れる』って思うから」
「尊さんほどの達人でもそうなんですね」
「世界中、色んな魅力的なところがあるけど、やっぱり自分の家以上に寛げる所はないな」
「ですねー」
頷いた私は、あの三田の豪邸マンションをすっかり自宅と思っている自分に、思わず微笑む。
まだまだセレブ生活には慣れないけれど、少しずつ時間をかけて尊さんとの暮らしを〝普通〟と思えるようになりたい。
(でもいまだに、こんなに格好いい人と豪邸で暮らしているなんて信じられないし、毎日ウキウキワクワクなんだよな)
『美人は三日で飽きる』とか、どんな豪邸に住んでも慣れれば日常になるとか言われているけれど、私はまだまだ楽しめそうだ。
三田のあの家で目覚めて、横を見れば世界一大好きな人がいる。
家の中は快適だし、ご飯は美味しいし、町田さんとも上手くやれている。
出勤する時は、まだ慣れない秘書業務に緊張したり、失敗したらどうしようという不安もある。
でも副社長秘書として個室があって、同僚は笹島さんだけという環境は恵まれている。
本来なら初期のエミリさんみたいに、秘書課からの嫌がらせを受けてもおかしくない。
(今後も何もないとは言いきれないけど、今のところは大丈夫と思っていいのかな。何かあったら笹島さんが対応してくれるって言ったし。……でも、頼りっぱなしもいけないよね)
とはいえ、尊さんや笹島さんからも『揉め事になりそうだったら、すぐ男に任せる事』と言い含められている。
(日常に戻っても、また頑張っていこう。その前に、帰ってから一休みしたら、速水家の皆さんと温泉だ)
白浜温泉も東京からは結構離れているけれど、ケアンズと比べると気軽なものに思える。
(でも、今度は速水家の皆さんと一緒だし、認めてもらえているとはいえ、失敗しないように気をつけないと)
そう思いながら、私はウェルカムドリンクを受け取って「Thank you」と微笑んだ。
**
羽田空港に着いたのは、日本時間の十八時前だ。
「わー……、東京だ」
八月半ばなのでまだ外は明るい。
私は十時間近くのフライトの疲れでホワホワしつつ、ベルト着用のサインが消えてから立ちあがる。
「大丈夫か?」
「はい。お家帰れる……」
私たちは物入れから荷物を出し、ビジネスクラスなので優先されて飛行機から降りる。
「疲れたね~」
「私は明日から会社だから、帰ったら爆睡だよ」
恵の言葉を聞き、私は「うわああああ……」とうなる。
「お疲れ様です……! まだ一週間近く休みでごめんね!」
「仕事が違うんだから、しゃーないじゃん。朱里もエミリさんと社長の休み期間、働いていただろうけど、夏休み終わったらエミリさんにお礼言っときなよ?」
「うん。お土産という名の賄賂をしっかり渡しておく」
そんな会話をしつつ私たちはスーツケースが運ばれてくるのを待ち、それぞれの荷物を手にしたあと、車寄せまで歩く。
本当は空港飯で日本らしい物を食べたいけれど、どうやら町田さんがご飯を用意してくれているらしいので、家まで我慢だ。
尊さんと涼さんは予約していたハイヤーの運転手さんに連絡し、どこに車をつけているか確認している。
尊さんなら鉢村さん、涼さんなら尾野見さんか上条さんに頼む事も可能だけれど、公私混同になる上、あちらも今は夏休み期間中だからという事で、ハイヤーにしたそうだ。
もっとも涼さんの場合、先日の恵の誕生日の時に、思いきりプライベートで上条さんをこき使っていたけれど……。
「じゃあ、またね」
恵に手を振られ、私はニコッと笑うと「また!」とブンブンと手を振る。
「涼さんもありがとうございました!」
「どういたしまして。ゆっくり休んでね」
二人と別れた私たちは、ハイヤーの運転手さんに手伝ってもらって荷物をトランクに詰め込み、車に乗った。