部長と私の秘め事
ふわ……、と意識が浮上した時、キッチンから物音が聞こえていい匂いがしていた。
起き上がってそちらを見ると、尊さんがご飯の準備をしてくれている。
「すみません! 休んだので私がやります!」
「温めるだけだし、もうできるからいいよ」
言われてダイニングテーブルの上を見ると、唐揚げ、茄子の煮浸しにコールスロー、胡瓜の中華漬け、味玉があった。
「うわー! 味玉嬉しい! 町田さん分かってるぅ~!」
「俺も日本の唐揚げ食いたかったし、いい所突いてるよな」
今、尊さんはタイマーでセットされて炊けた白米を盛っていて、私はお水をグラスに注いでテーブルの上に置く。
「米、大盛りにするからな。たんと食え」
「ありがとうございます!」
お礼を言いつつ、普通にこういうやり取りができるのは、ありがたい事だなとしみじみ感じる。
世の中色んな人がいて、色んな価値観があるけれど、一般的に女性が沢山食べたり、ハイカロリーな物を食べたりすると「え?」みたいな反応をする人は一定数いる。
私も昔、昭人に『女なのに食いすぎだろ』と言われた事がある。
それ以来、昭人の前で自由に食べられなくなり、食べ物もヘルシー志向の物を選ぶようになった。
その反動で、彼のいない場所で大盛りラーメンや、大きいステーキなどを食べていたけれど……。
でも昭人にそう言われてから、一人でお店に行った時も物凄く気を遣った。
オーダーする時はなるべく女性の店員さんに頼んだり、本当はステーキとご飯だけでいいのに、サラダをつけてみたり……。
男性だけじゃなく、若い女性も、中年や高齢の女性も『よく食べるねぇ……』みたいな反応をする人はいる。
途中から開き直ったけれど、人がどのぐらい食べるかは他人に関係ない事だし、口出しするのは品のない行為だし、放っておいてほしい。
通常メニューとして置いているのに、男性は良くて女性は駄目なんて、あんまりだ。
テレビに出る大食いタレントみたいな量を食べている訳でもないのに、肩身が狭くなってしまう。
食べる時ぐらい幸せを感じていたいのに、誰にどう見られるかを気にすれば、食事を楽しめなくなる。
だから尊さんがそういう事について、とても大らかで自由にさせてくれている事にはとても感謝している。
彼は特別な事をしている自覚はないだろうけど、昭人に言われた言葉に雁字搦めになった私にとっては神対応に感じられた。
「美味しそう」
席についた私は、久しぶりの町田さんのご飯を前にニコニコ笑顔になる。
「いただきます」
「いただきます」
胸の前で手を合わせて言ったあと、私はお気に入りの赤いお箸を手にして、豆腐とワカメのお味噌汁を飲んだ。
「っく~! これこれ! この一口のために生きてた!」
「……まるで味噌汁が酒じゃねぇか」
尊さんは横を向いて、クックック……と笑う。
そのあと私たちは適度に会話をしつつ、パクパクと美味しいご飯を食べ進めていく。
食後には町田さん特製の固めプリンをいただき、ご機嫌だ。
「あー! 幸せ~!」
二人で協力し合って食器を食洗機に入れたあと、ソファに座った私は尊さんの腕を組み、ゴロゴロと彼に頬ずりする。
「やっぱ家は落ち着くな」
「ミコキャッスル最高」
「お、城に昇格したな」
尊さんは私の肩を組んで頭をつけ、しばし黙る。
家に帰って安心し、満腹になった私は彼の肩を借りてウトウトし始める。
と、尊さんが尋ねてきた。
「……なぁ、キャットハウスはもう少し大きいほうがいいか?」
「ん?」
目をしぱしぱさせて聞き返すと、尊さんは肩に回した手で私の髪を弄りつつ言う。
「マンションも戸建ても、それぞれメリットデメリットあるが、いつか子供ができる事を思うと、どっちがいいか決めたほうがいいと思って」
「でも……、このマンションもまだローン払い終わっていないんでしょう?」
「どうとでもなる。売却するなら一括返済して抵当権を外せばいい」
「はぁ……」
不動産についてよく分からない私は、生返事をする。
「まぁ、別にこのマンションをキープしたまま、戸建てを買ってもいいけどな」
「勿体ないですよう」
「俺を誰だと思ってるんだ」
尊さんが頬をムニュウ……と潰してくるので、思わず「にゅう」と声を出す。