部長と私の秘め事
「随分と強気のミコ様じゃないですか」
「確かに家はでかい買い物だけど、家やら別荘やら買った程度で金に困りはしないんだよ。俺は一番いい環境で家族と暮らしたい。そのために今から色々考えてもいいんじゃないか?」
「……そうですね……」
改めて彼の口から〝家族〟という言葉を聞き、私はもう少し真剣に考える事にした。
私はこのマンションでも十分に豪邸だし、子供ができても全然OKだと思っている。
でも尊さんはこれから増える自分の〝家族〟を神経質なまでに守ろうとし、特に子供に対しては最上の環境を用意しようとしている。
今はその真剣さの差が出ていた。
「……私はこのマンションでも十分とは思うんですよね。一応、洋室はピアノの部屋、書斎、私の部屋で埋まってますが、別に私は自分の部屋がなくてもいいし、なんならシューズクローゼットに住んでもいいし」
「アホか」
半分冗談を言ったつもりだけど、尊さんに鼻を摘ままれてしまった。
「そうやって現状から何かをマイナスしてでないと、未来を描けないのは駄目だ。子供がある程度大きくなったらプライバシーは必要だし、そうなれば子供の人数分の部屋は確保しなければならない。朱里の部屋だって必要だし、俺も一人になれる場所が必要だ」
「……ちゃんと考えてくれてるんですね」
「当たり前だ。……一人でフラフラしてる時間は終わって、これからは俺が家長、父親になって家族を守らないといけないんだから。まず必要なのは、家族全員が安らげる家。それもセキュリティが効いてて、基本は車移動としても、いざという時交通の便のいい所が好ましい。理想の家を得られるなら、金はどれだけでも出す」
顔を上げた私は思い詰めた尊さんの横顔を見て、ムクリと起き上がる。
そして彼の腰を跨ぐと、両手で頬を包んだ。
「尊さん、ゆっくり息を吸って、…………吐いて」
彼は私に言われた通り、深呼吸をする。
「今すぐ話さないといけない事じゃないですよね? 今日は旅行から帰ったばかりだし、まずゆっくり眠るべきです。焦ってもいい家は見つからないし、今後の方針だって慌てて話し合ってもいい結果にはなりません」
尊さんの表情から、少しずつ力が抜けていく。
「『いいお父さんにならないと』って考えてくれているの、凄くありがたいです。結婚も迫っていますし、焦っちゃいますよね。でもその前に結婚式の事を考えないとならないし、子供ができるまで時間があります。……順番にやっていきましょう? 『手離れのいいものから』」
〝速水部長〟がよく言っていた言葉を口にすると、彼は気が抜けたように溜め息をついてから笑った。
「すまん。旅行慣れしてるって言っておきながら、ちょっとハイになってたみたいだ。ドーパミン出まくって先の事も勢いで決めようとしてたかもしんねぇ」
「んふふ、分かります。興奮してる時ってちょっと神ってる感じになりますよね。私も徹夜ハイになった時、部屋の片づけとか水回りの掃除を始めて……」
遠い目になると、尊さんが笑う。
「それ、分かる」
「尊さんも一夜漬けしてましたか?」
「しねぇよ。しっかりコツコツ派だ」
「やっぱり~! 尊さんは一夜漬けなんてしないで、ちゃんと熟成して味を染みこませるタイプだ」
「スルッと食いもんの話になるなよ……。俺は浅漬けも好きだけど」
「浅漬けも美味しいですよね……。あれはサラダだ」
私は京都の祖母が作ってくれた浅漬けを思い出し、涎を垂らしそうになる。
「……ま、ゆっくり考えていくか。手離れのいいものから少しずつ、な」
「はい!」
私は頷き、再度尊さんの隣に座って彼の腕を組んだ。
**
その後、二日の休養を経て、私たちは三泊四日の白浜温泉行きへ出かけた。
町田さんは『ご多忙でしょうけど、お体を壊さないように適度に休憩を挟んで楽しんできてくださいね』と言ってくれた。
予定では羽田から南紀白浜空港まで飛行機で移動し、そのあとはハイヤーを使っての行動になるようだ。
フライト時間は十一時四十分で、十二時五十分にあちらに着いたあと、少し遅い昼食をとる予定だ。
南紀白浜空港行きはJALがメインなので、第一ターミナルでの待ち合わせになる。
国内線なので普通席でもまったく構わないんだけど、普通席より若干ゆったりしているクラスJに乗るそうだ。
将馬さんや百合さんの体の負担を考えると、そのほうがいいのかもしれない。
「確かに家はでかい買い物だけど、家やら別荘やら買った程度で金に困りはしないんだよ。俺は一番いい環境で家族と暮らしたい。そのために今から色々考えてもいいんじゃないか?」
「……そうですね……」
改めて彼の口から〝家族〟という言葉を聞き、私はもう少し真剣に考える事にした。
私はこのマンションでも十分に豪邸だし、子供ができても全然OKだと思っている。
でも尊さんはこれから増える自分の〝家族〟を神経質なまでに守ろうとし、特に子供に対しては最上の環境を用意しようとしている。
今はその真剣さの差が出ていた。
「……私はこのマンションでも十分とは思うんですよね。一応、洋室はピアノの部屋、書斎、私の部屋で埋まってますが、別に私は自分の部屋がなくてもいいし、なんならシューズクローゼットに住んでもいいし」
「アホか」
半分冗談を言ったつもりだけど、尊さんに鼻を摘ままれてしまった。
「そうやって現状から何かをマイナスしてでないと、未来を描けないのは駄目だ。子供がある程度大きくなったらプライバシーは必要だし、そうなれば子供の人数分の部屋は確保しなければならない。朱里の部屋だって必要だし、俺も一人になれる場所が必要だ」
「……ちゃんと考えてくれてるんですね」
「当たり前だ。……一人でフラフラしてる時間は終わって、これからは俺が家長、父親になって家族を守らないといけないんだから。まず必要なのは、家族全員が安らげる家。それもセキュリティが効いてて、基本は車移動としても、いざという時交通の便のいい所が好ましい。理想の家を得られるなら、金はどれだけでも出す」
顔を上げた私は思い詰めた尊さんの横顔を見て、ムクリと起き上がる。
そして彼の腰を跨ぐと、両手で頬を包んだ。
「尊さん、ゆっくり息を吸って、…………吐いて」
彼は私に言われた通り、深呼吸をする。
「今すぐ話さないといけない事じゃないですよね? 今日は旅行から帰ったばかりだし、まずゆっくり眠るべきです。焦ってもいい家は見つからないし、今後の方針だって慌てて話し合ってもいい結果にはなりません」
尊さんの表情から、少しずつ力が抜けていく。
「『いいお父さんにならないと』って考えてくれているの、凄くありがたいです。結婚も迫っていますし、焦っちゃいますよね。でもその前に結婚式の事を考えないとならないし、子供ができるまで時間があります。……順番にやっていきましょう? 『手離れのいいものから』」
〝速水部長〟がよく言っていた言葉を口にすると、彼は気が抜けたように溜め息をついてから笑った。
「すまん。旅行慣れしてるって言っておきながら、ちょっとハイになってたみたいだ。ドーパミン出まくって先の事も勢いで決めようとしてたかもしんねぇ」
「んふふ、分かります。興奮してる時ってちょっと神ってる感じになりますよね。私も徹夜ハイになった時、部屋の片づけとか水回りの掃除を始めて……」
遠い目になると、尊さんが笑う。
「それ、分かる」
「尊さんも一夜漬けしてましたか?」
「しねぇよ。しっかりコツコツ派だ」
「やっぱり~! 尊さんは一夜漬けなんてしないで、ちゃんと熟成して味を染みこませるタイプだ」
「スルッと食いもんの話になるなよ……。俺は浅漬けも好きだけど」
「浅漬けも美味しいですよね……。あれはサラダだ」
私は京都の祖母が作ってくれた浅漬けを思い出し、涎を垂らしそうになる。
「……ま、ゆっくり考えていくか。手離れのいいものから少しずつ、な」
「はい!」
私は頷き、再度尊さんの隣に座って彼の腕を組んだ。
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その後、二日の休養を経て、私たちは三泊四日の白浜温泉行きへ出かけた。
町田さんは『ご多忙でしょうけど、お体を壊さないように適度に休憩を挟んで楽しんできてくださいね』と言ってくれた。
予定では羽田から南紀白浜空港まで飛行機で移動し、そのあとはハイヤーを使っての行動になるようだ。
フライト時間は十一時四十分で、十二時五十分にあちらに着いたあと、少し遅い昼食をとる予定だ。
南紀白浜空港行きはJALがメインなので、第一ターミナルでの待ち合わせになる。
国内線なので普通席でもまったく構わないんだけど、普通席より若干ゆったりしているクラスJに乗るそうだ。
将馬さんや百合さんの体の負担を考えると、そのほうがいいのかもしれない。