部長と私の秘め事
到着ロビーや荷物受取所からは、ガラスを隔ててすぐ外が見えるコンパクトぶりだ。
空港を出たあとはハイヤーに乗り、空港の北側に池田湾があるのだけれど、その近くにある〝とれとれ市場〟に向かう事にした。
十分ほどで現地に着いたあと、まずはお腹が空いているので道路を挟んで向かいにある回転寿司屋さんに入った。
予約はできず、人気のあるお店だから少し待ったけれど、お盆休みとお昼のピークを超していたからか、比較的空いているように思えた。
四人席に分かれたあと、小牧さんがお茶を淹れてくれながら言う。
「さぁさぁ、選んで選んで! お兄ちゃんがご馳走してくれるから、遠慮しないでね。呉服屋さんの常務だから、がっぽり儲けてるわよ。はい、大トロ食べる人~!」
小牧さんが挙手を募るので、私はつい手を上げてしまう。
弥生さんと尊さんも食べるようで、弥生さんがさっそくタッチパネルを操作していた。
「知らない土地の回転寿司って、血湧き肉躍るわよね~」
「分かります!」
弥生さんの言葉に頷くと、無言で握手を求められ、がっしと手を握り合う。
彼女は手早くタッチパネルを操作して自分の分を注文したあと、「朱里さんどうぞ」と渡してくる。
「ありがとうございます」
受け取って少し迷っていると、尊さんが囁いてきた。
「俺が出すから遠慮なく喰え。未練を残すな」
「アイアイサー!」
安心した私は、次々に気になるお寿司をタッチしていき、一杯になると送信し、また次に取りかかる。
「迷いのない手つき、いいわぁ~。人間、食べてこそよ」
小牧さんがお茶を飲んで言い、私は急に恥ずかしくなってペコリと頭を下げる。
「すみません……。こう見えてわんぱくに食べるタイプでして……」
「全然よ~! マジで遠慮しないで! 飲食店を営んでる身としては、沢山食べてくれるお客様が一番輝いて見えるから」
「ありがとうございます~……」
お礼を言った私は、サーモンを全種類制覇するのは礼儀として、尊さんの胸を借りる気持ちで気後れしてしまう高級皿も、「えいっ」とカートに放り込む。
不思議と、いつもは目玉が飛び出るような値段のコース料理をご馳走してもらっているのに、回転寿司になると五百円近くするお皿を頼むのが申し訳なくなる。
「……朱里。ウニ軍艦遠慮してるだろ」
「うっ……」
私はギクリと身を強張らせる。
何せウニ様は千円近くするのだ。
「あとから『食べておけば良かった』って思うぐらいなら、遠慮するなよ。好きな女を腹一杯喰わせる甲斐性ぐらいあるんだから」
「……はい」
私は頷いてウニ様をカートに入れる。
それを聞き、小牧さんと弥生さんが「ひゅ~!」とはやし立てていた。
「ウニでプロポーズする男、いいねぇ~」
「小牧ちゃん、違う」
尊さんはげんなりとして言う。
「あれっ? そういえばお二人さんってちゃんとプロポーズして、婚約指輪買ったの?」
弥生さんに言われ、私たちは顔を見合わせる。
思い出したのは、初めて彼女たちに会いに行く前、銀座でジュエリー巡りをした事だ。
「指輪は買ってもらいました。プロポーズは……」
そこまで言い、私は腕組みをして「うん?」と首を傾げる。
「え……っ? まさか尊くん、プロポーズしてないの?」
「した! ……と思ってる」
尊さんは即答したあと、不安そうに私を見る。
「いや、ちょっと待ってください。毎日たっぷり愛情を注がれてるし、デートするたびにスペシャルな思いをしているので、毎日プロポーズされているように思えるんですよ。日々の愛の密度が高くて、プロポーズの記憶が埋もれてしまっている……」
「マジか……」
尊さんは額を抑え、小さく呻く。
「だからといって、愛情を出し惜しみしたら駄目よ? 恋人と犬猫は、たっぷり愛してなんぼだから」
「小牧ちゃん……、朱里は犬猫じゃ……。いや……、うん……」
いつも私を猫と言っている尊さんは、言葉の後半をゴニョゴニョと不明瞭にさせる。
そんな話をしつつ、全員好きな物をオーダーし終え、私はなおもメニューを捲っている。
「耳が痛いと思うけど、私たち世代はともかく、お母さんやお祖母ちゃん世代は形式的なものも重視するわ。勿論、二人が想い合っているのが一番だけれど、やっぱりちゃんと挨拶した上で食事会をするとか、篠宮ホールディングスの副社長なら、婚約パーティーを開くとか、そういうものも大事だと思う」
小牧さんに言われ、尊さんは「だな」と頷く。
(パーティー!)
私は無言で目を見開き、冷や汗を掻く。
空港を出たあとはハイヤーに乗り、空港の北側に池田湾があるのだけれど、その近くにある〝とれとれ市場〟に向かう事にした。
十分ほどで現地に着いたあと、まずはお腹が空いているので道路を挟んで向かいにある回転寿司屋さんに入った。
予約はできず、人気のあるお店だから少し待ったけれど、お盆休みとお昼のピークを超していたからか、比較的空いているように思えた。
四人席に分かれたあと、小牧さんがお茶を淹れてくれながら言う。
「さぁさぁ、選んで選んで! お兄ちゃんがご馳走してくれるから、遠慮しないでね。呉服屋さんの常務だから、がっぽり儲けてるわよ。はい、大トロ食べる人~!」
小牧さんが挙手を募るので、私はつい手を上げてしまう。
弥生さんと尊さんも食べるようで、弥生さんがさっそくタッチパネルを操作していた。
「知らない土地の回転寿司って、血湧き肉躍るわよね~」
「分かります!」
弥生さんの言葉に頷くと、無言で握手を求められ、がっしと手を握り合う。
彼女は手早くタッチパネルを操作して自分の分を注文したあと、「朱里さんどうぞ」と渡してくる。
「ありがとうございます」
受け取って少し迷っていると、尊さんが囁いてきた。
「俺が出すから遠慮なく喰え。未練を残すな」
「アイアイサー!」
安心した私は、次々に気になるお寿司をタッチしていき、一杯になると送信し、また次に取りかかる。
「迷いのない手つき、いいわぁ~。人間、食べてこそよ」
小牧さんがお茶を飲んで言い、私は急に恥ずかしくなってペコリと頭を下げる。
「すみません……。こう見えてわんぱくに食べるタイプでして……」
「全然よ~! マジで遠慮しないで! 飲食店を営んでる身としては、沢山食べてくれるお客様が一番輝いて見えるから」
「ありがとうございます~……」
お礼を言った私は、サーモンを全種類制覇するのは礼儀として、尊さんの胸を借りる気持ちで気後れしてしまう高級皿も、「えいっ」とカートに放り込む。
不思議と、いつもは目玉が飛び出るような値段のコース料理をご馳走してもらっているのに、回転寿司になると五百円近くするお皿を頼むのが申し訳なくなる。
「……朱里。ウニ軍艦遠慮してるだろ」
「うっ……」
私はギクリと身を強張らせる。
何せウニ様は千円近くするのだ。
「あとから『食べておけば良かった』って思うぐらいなら、遠慮するなよ。好きな女を腹一杯喰わせる甲斐性ぐらいあるんだから」
「……はい」
私は頷いてウニ様をカートに入れる。
それを聞き、小牧さんと弥生さんが「ひゅ~!」とはやし立てていた。
「ウニでプロポーズする男、いいねぇ~」
「小牧ちゃん、違う」
尊さんはげんなりとして言う。
「あれっ? そういえばお二人さんってちゃんとプロポーズして、婚約指輪買ったの?」
弥生さんに言われ、私たちは顔を見合わせる。
思い出したのは、初めて彼女たちに会いに行く前、銀座でジュエリー巡りをした事だ。
「指輪は買ってもらいました。プロポーズは……」
そこまで言い、私は腕組みをして「うん?」と首を傾げる。
「え……っ? まさか尊くん、プロポーズしてないの?」
「した! ……と思ってる」
尊さんは即答したあと、不安そうに私を見る。
「いや、ちょっと待ってください。毎日たっぷり愛情を注がれてるし、デートするたびにスペシャルな思いをしているので、毎日プロポーズされているように思えるんですよ。日々の愛の密度が高くて、プロポーズの記憶が埋もれてしまっている……」
「マジか……」
尊さんは額を抑え、小さく呻く。
「だからといって、愛情を出し惜しみしたら駄目よ? 恋人と犬猫は、たっぷり愛してなんぼだから」
「小牧ちゃん……、朱里は犬猫じゃ……。いや……、うん……」
いつも私を猫と言っている尊さんは、言葉の後半をゴニョゴニョと不明瞭にさせる。
そんな話をしつつ、全員好きな物をオーダーし終え、私はなおもメニューを捲っている。
「耳が痛いと思うけど、私たち世代はともかく、お母さんやお祖母ちゃん世代は形式的なものも重視するわ。勿論、二人が想い合っているのが一番だけれど、やっぱりちゃんと挨拶した上で食事会をするとか、篠宮ホールディングスの副社長なら、婚約パーティーを開くとか、そういうものも大事だと思う」
小牧さんに言われ、尊さんは「だな」と頷く。
(パーティー!)
私は無言で目を見開き、冷や汗を掻く。