部長と私の秘め事
「いい景色だな」

 彼は脚を伸ばし、気持ちよさそうに溜め息をついて言う。

 チラッとその横顔を見ると、濡れた前髪を掻き上げていて、形のいい額が出ていてときめいてしまう。

 おまけに鼻筋がスッとしていて、横顔もとても綺麗だ。

(前髪って女子にとって大切なものだけど、男の人も印象変わるから凄いよなぁ……)

 お風呂上がりで前髪が下りている尊さんも可愛いし、仕事の時のセットしてある髪型も格好いいし、こうやって無造作な濡れ髪も良い……。

 尊さんの髪型ソムリエになりたいぐらいには、興味津々だし、もっと彼の魅力を引き出す髪型を研究してみたい。

 微笑んだ私は「はーっ」と大きく息を吐き、浴槽の海に面した部分に両肘を掛け、絶景を堪能する。

「贅沢だなぁ……」

 目の前にはどこまでも広がる太平洋。

 明るいうちに温泉に入る事自体贅沢に思えるのに、さらにこんなに綺麗な海と空を眺め、BGMは潮騒なんてゴージャスすぎる。

「大地さんのセレクト、大正解ですね」

 振り向いて尊さんに笑いかけようとした時、彼とバチッと目が合った。

「お、おう」

 一瞬尊さんは動揺し、チラッと視線を逸らす。

「どうかしましたか?」

 ぱい丸出しで振り向くのは恥ずかしいので、体は前を向いたまま尋ねると、彼は諦めたように溜め息をつき、クスッと笑って濡れた手で髪を掻き上げる。

「……いや、相変わらずそそる体してるな、と思って。腰のくびれから尻にかけてのラインが、非常に絶景だ。あと、首から肩にかけての華奢なラインもいい」

「エッチな人だ!」

 カーッと赤面して言うと、尊さんはクスクス笑う。

「今さらかよ」

「尊さんの半分はエチチでできています」

 某鎮痛剤っぽく言ってみると、彼はニヤリと笑った。

「半分でいいのか?」

「堂々とドスケベ宣言しますねぇ……」

「朱里ぐらい、ニッチな知識はねぇけどな」

「うっ……」

 普段、隠れてエッチな漫画を沢山読んで、専門知識をどんどん取り入れている事を言われてしまった。

「エッチな彼女は嫌いですか?」

「……大好きに決まってるだろうが。……でも前立腺攻めとか、ローションガーゼとか言ってくるなよ……。そういうの求められると引くから」

「攻められるの嫌いですよね~、尊さん。もっと自分を解放してもいいんですよ……」

「解放しても、朱里みたいに第三の目が現れて、翼が生えたりしねぇよ」

「んふふふふ、分かってるじゃないですか」

 笑ったあと、私は「はー……」と溜め息をついて、また海を見る。

 不思議な事に、海や空って見ていて飽きないものだ。

 普段は潮騒を聞けない環境で生きているから、波の音がとても心地いい。

「そういえばネットで見た話なんですけど、ちょっと汚い話なんですが、その人はいつもシャワーを浴びている時に小のほうをしてしまうんですって。なので癖で、美容室でシャンプーをしてしまった時に漏らしてしまったんですって」

「おおー……」

 尊さんは気の毒そうな声を出す。

「そういうの聞くよな。水の音を聞いたらもよおすとか」

「ね、聞きます。私、夢の中で多分トイレに行きたくなってると思うんですが、気持ち良く出さないように、夢の中のトイレが汚くなってます」

「あ、それ俺もある」

「マジですか。尊さんってどういう夢をみますか?」

「え? うーん……。あんまり覚えてねぇけどな。いまだトラウマ関係の夢を見る事もあるし、近年は仕事の夢とか。……たまに朱里が出てきてけしからん格好をしてて、夢精しそうになる事も……」

「何ですかそれ! 詳しく!」

 私は振り向いてニヤニヤする。

「だから詳しく覚えてねぇって。朱里は?」

「まぁー、似たようなもんですね。昔は家族の事とか。仕事でミスした夢とか。昭人や痴漢に変な事をされる夢とか。……でも、何回か絵本の『クリとクラ』みたいに、大きなパンケーキとか、大きなケーキにダイブして、モグモグ食べて行く幸せな夢も見ましたね~」

「ぶふっ……」

「勿論、ブーメランパンツ姿の尊さんが現れて、リズムに乗ってキレッキレのダンスを踊る夢も見ましたけどね」

 ドヤ顔をして言うと、「盛っただろ」と見透かされる。

「ひひひ。バレた」

 尊さんも一緒に笑ったあと、深く息を吐いて言う。

< 739 / 756 >

この作品をシェア

pagetop