部長と私の秘め事
「他人に言えねぇ夢も見ちまうけど、あれって願望が見せてるのかな。……分かんねぇけど、夢の中ならセーフだよな」

「です! セーフセーフ。……っていうか、夢の中と思った出来事が、現実に起こり始める……みたいな映画ありそうですよね」

「あー、ディス・マンを扱った『ドリーム・シナリオ』とか似てるのかな」

「あれ面白かったですよね」

 ディス・マン(夢男)とは、実際に社会現象になった出来事で、世界中の色んな場所で、繋がりのない人たちが同じ顔の男の夢を見たものだ。

 精神科医に相談したら、医師のネットワークで世界中の人が同じ顔の男を夢に見ると分かったけれど、結局はイタリアかどこかの研究チームがネットにその顔を紛れ込ませ、どう広まっていくかを調べたものだったという。

『ドリーム・シナリオ』はニコラス・ケイジが主演の映画で、本人は冴えない大学教授だけれど、ある日生徒たちや世間の人の夢に、教授が出てきた事で一躍有名人になる。

 でも夢の中の教授が暴れ始めてとんでもない事になり、現実では何もしていない彼が嫌われ者になっていく……、という映画だ。

 似たタイトルで『ディス・マン 同じ顔の男たち』という映画もあるけれど、そちらはとても抽象的な映画だ。

 夫を自死で失った妻が、片田舎に引っ越すけれど、村で出会ったどの男も同じ顔をしていて、その男たちに襲われてしまう。

 クライマックスは物凄く強烈なシーンがあり、恐らく性としての男性の暴力性とかそううものを描いたのだろうけれど、シュールにもほどがある感じだ。

 けれど私はその映画が両方とも結構好きだったりする。

「頭のいい人って、見る夢も違うのかなーって思ってました」

「どうなんだろうな? 俺はある程度勉強ができたほうだけど、ただの凡人だ。学者みたいに突き詰めてる訳じゃないから」

「突き詰めてる人って、夢の中でも計算していたりするんでしょうかねー」

 そう答えつつ、私は海側からススス……と尊さんの隣に戻り、腕を組む。

「さり気ないパイタッチです」

「自分で言うなよ。痴女かよ」

 尊さんはぶふっと噴き出す。

「大丈夫ですよ。『チーン!』なんてベル鳴らししませんから」

「おま、それやったら反撃に出るからな」

 あえておバカな話をしつつ、私はムラムラを押さえていた。

 ずっと尊さんと触れ合えていないけれど、仕方がないし、今回の旅行では百合さんやちえりさんもいるから、絶対に駄目だ。

 今は露天風呂だし、もしかしたら声が聞こえているかもしれない。

(だから、お楽しみは帰ったあとで)

 自分に言い聞かせた私は、あえて雰囲気を笑いの方向へ持っていく。

「せっかくのロケーションなんですけどねぇ……。海の波が岩に砕ける荒々しい音と共に、『あーっ!』と絶頂したら、映画っぽくないです?」

「いつの時代の映画だよ」

 尊さんは横を向いてクックック……と笑いを噛み殺す。

 そして現実問題、海の波はそこまで荒くない。

 そのあともおふざけのネタを考えていたけれど、何だか一生懸命その場凌ぎを続けているような気がして、変に思われたらどうしよう……、と感じてしまう。

 けど尊さんも分かってくれているはず、と信じたい。

「……あちち。逆上せてきました」

「そろそろ上がるか」

 温泉は少し硫黄の匂いがして、お肌がすべすべになる泉質だ。

 名残惜しいけれど、夕食後とか、明日の朝とかもまだ入れる。

「先に上がっていいですか?」

「どうぞ」

 私はザバッと浴槽から出ると、用意してあったバスタオルで体を拭き、最後にバスタオルを体に巻き付ける。

 そして海のほうを見たままの尊さんに、ボソッと囁いた。

「東京に戻ったら覚えてろよ」

「喧嘩売るなよ……」

 彼がクツクツと笑うなか、私は室内に入って服を着始めた。





 夜ご飯は、チェックインした時に使ったダイニングルームでいただく事になった。

 先付は黒いお盆の上に、冷えたグラスの器や白い横長のお皿などに、色とりどりの料理が少しずつ並んでいる。

 アボカドをお出汁でコトコト煮て冷やした物や、枝豆の冷製ポタージュ、濃厚な牡蠣のテリーヌや、冷製カッペリーニにとびっこを掛けたもの、地元の鶏を使い薄くスライスした鶏ハム、大きな帆立貝などなど。

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