部長と私の秘め事
 お造りも黒い正方形の焼き物に盛られ、中トロやイクラ、海老、鯛、イカなどがすだちや食用花、飾り切りされたラディッシュなどと一緒に華やかに並べられる対角線に、お醤油を白いエスプーマ(泡)にしたソースがサッとハケで塗ったように盛られ、それをつけていただくという、実にお洒落な演出だ。

 お魚料理は鯛のポワレに、細く切ってカリカリに揚げた牛蒡を針山のように積み上げ、アサリのお出汁で伸ばした白いソースを添えた物。

 お肉料理は平行に並べたアスパラの間に、薔薇色の断面が綺麗な、牛肉のいちぼのローストをランダムに並べ、彩り豊かな温野菜、コンソメのジュレを添え、お皿に沿って半円を描くように、赤ワインのソースとじゃが芋のピューレを半々ずつ載せた物。

 和歌山県の郷土料理に〝めはり寿司〟という物があり、塩漬けの高菜の葉でおにぎりを包んだ物がある。

 コース料理ではその〝めはり寿司〟を応用したもので、高菜の葉でリゾットを包み、その上に温野菜の赤と黄色のパプリカを載せ、周りをクリームソースで包んだ物。

 八月の和歌山では、無花果の生産が盛んらしく、デザートは無花果のミルフィーユと、契約農家さんの牛乳で作ったミルクジェラートだ。

 最後にコーヒーと小菓子を出してもらった時、スタッフさんに言われた。

「良かったら、食後にテラスから外を見ていただけますか? 当ホテルの自慢の演出がありますので」

「はい!」

 分からないながらも頷き、コーヒーと小菓子を持ってリビングでくつろぎ、しばらくしたあとだった。

 周囲に迷惑が掛かるから音楽は鳴らないけれど、潮騒が聞こえるなか、様々な色のレーザービームが海に向かって放たれた。

「わぁ……!」

 こういう物を使うイベントなら、壮大な音楽がBGMに流れていてもおかしくないけれど、あえて波の音をベースに……という所がいい。

 レーザーに照らされて海の波が色を反射して光り、海の向こうに月が見えるのがいとをかし。

「素敵な演出ですねぇ……」

「向こうが海だからできる奴だな」

 私たちは広々としたテラスのソファに座って、レーザーショーを楽しみつつ話した。

「明日から、もっと積極的に百合さんにアタックするんですよ」

「なんだよ、その学生みたいなノリ」

「ミトコ~。応援してるから頑張りなよ~」

「ほら、悪ノリする」

 彼はクスクスと笑ったあと、海を見て言った。

「……まぁ、頑張ってみるよ。親孝行もろくにできなかったから、せめて祖父母孝行はしたい」

 少し照れくさそうに言った彼が愛おしく、私は尊さんをギューッと抱き締めた。



**



 翌朝も朝から露天風呂に入り、綺麗な青い海を写真に収める。

 本当はすっぽんぽんで海を背景に尊さんと記念撮影したかったけど、痴女と思われるのが嫌なので黙っておいた。

 だってね……、なんかね。裏垢の人が撮りそうな写真だし。

 ピースで目元を隠したりしてね……。

 だから、服を着た状態で最後にもう一回記念撮影をして、チェックアウトした。





「おはようございます!」

 私はロビーで百合さんたちに挨拶する。

「いやー、お陰様で昨日はのんびりしちゃったわ~。ご飯美味しかったわよね」

「はい!」

 小牧さんに言われ、私は頷く。

「大地さん、素敵なお宿のセレクト、ありがとうございます!」

 お礼を言うと、彼は照れ笑いする。

「大浴場のある宿はまた別の場所でと思って、初日は移動日だからゆっくり過ごせる所にしたんだ。気に入ってもらえて良かったよ」

「車も格好良かったな」

 尊さんがニヤッと笑って言うと、大地さんはさらに照れ笑いする。

 可愛い人だ。

「さぁ、今日は忙しいから、ちゃっちゃと動いてしまいましょうか」

 ちえりさんに言われ、私たちはあらかじめ呼んであったハイヤーに乗る。

 今日はこれから一時間半ちょいかけて、熊野那智大社や那智の滝を観光する。

 そのあとランチを食べて、さらに二時間近く車で移動し、伊勢神宮にお参りだ。

 お宿は伊勢神宮から三十分ぐらいの所にある、英虞湾(あごわん)に面した高級な場所らしい。

 全国に高級レストランやリゾートホテルを展開するひらまるグループのお宿らしく、尊さんも株主なのだとか。

 私も東京にあるレストランに連れて行ってもらった事があったけれど、味付けが優しくてとても好みだった。

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