部長と私の秘め事

那智大社参拝

 ハイヤーの運転手さんとは丸一日のお付き合いになる。

「宜しくお願いします」

 私たちは挨拶をし、ハイエースに乗っていく。

 昨晩はそれぞれの部屋に分かれての宿泊だったし、せっかくなら移動中にみんなでお話できたらいいね、という事で、最高十人乗りのハイエースを頼んだのだ。

 前の席の裏にはドリンクホルダーや物入れのネットもあるし、気分は修学旅行だ。

 席は二人掛けのシートが三列に、二列目、三列目の横に通路を空けて一人掛けがある。

 席順に悩んだけれど、百合さんと将馬さん、私と尊さん、小牧さんと弥生さんペアになり、大地さんは通路を挟んで尊さんの隣、ちえりさんは娘さんたちの隣だ。

「わー、楽しい!」

 車が発進し、私はワクワクして窓の外の景色を見る。

「ん、そうだな」

 返事をした尊さんはいつも通りのように思えるけれど、ときおりチラッと前の席に座っている百合さんと将馬さんを気にしている。

(はやるでない、ミコよ。いずれじっくりと話せるチャンスがあるから……)

 私は心の中で彼に語りかけ、ニヤニヤと笑う。

「そういえば昨晩、大地はどこに泊まったんだ? 小牧ちゃんたちと同室?」

 尊さんが大地さんに尋ねると、後ろからブーイングがあった。

「やだぁ~。いくら兄妹でも、うら若き乙女が男と同室なんてあり得ない!」

 それを聞き、彼は遠い目で答える。

「俺は……、母さんと同室だったよ……」

「あらやだ、失礼ね大地。この美魔女が同室なのにそんな反応……」

 ちえりさんが言い、彼はガックリと項垂れる。

「どんな反応すればいいんだよ……」

 みんなで笑ったあと、尊さんはさらに尋ねる。

「婚約者がいるって?」

「ああ、うん。音楽関係じゃなくて、呉服屋関係で知り合った、和服が似合うしっとりとした美人だよ」

「ヒュ~!」

 後ろから二人がはやし立てる。

「尊と朱里さんと、大地と、どっちが先に結婚するかしらね」

 百合さんが言い、私と尊さんは顔を見合わせる。

「ど……、どっちでしょう」

 照れ笑いをすると、車内がほっこりとした空気に包まれる。

「俺も大地の結婚式には参加したいと思ってるから、重ならないように調整できたらいいな」

 尊さんが言うと、彼は「ああ」と頷く。

 私はその様子をニコニコして見守っていた。

 春に予告なしに速水家へ突撃して、百合さん達と和解できてから四か月。

 尊さんにとってはぶっつけ本番みたいな感じで、今回の旅行になってしまったから、いまだ百合さんへの緊張はあるんだろう。

 でも小牧さんたち従兄妹が、こうやって空気を柔らかくしてくれているから、彼も何とか溶け込められているのだと思う。

 昔からちえりさんは尊さんの味方だったし、きっと小牧さんたちも尊さんに同情的だったと思う。

 今だって敵視されてる訳じゃないし、アウェイな訳じゃない。

 ただ、今まで親戚として付き合う事ができなかった人たちと、急に親しくしろと言われても身構えてしまうのかもしれない。

「……尊」

「は、はい」

 急に百合さんに話しかけられ、彼は少し声を上ずらせて返事をする。

「七月、私の誕生日に立派な花をありがとう」

「いえ。……遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございます」

 私は聞かされていなかったので、「おっ?」と思って彼を見る。

 すると、斜め後ろからちえりさんが言った。

「なるべく家族の誕生日には食事会をしているんだけど、今年はみんな色々予定が重なってしまって、食事会はしなかったのよね。尊くんからは何年も前にお祖母ちゃんの誕生日を聞かれていて、住所も分かっていた訳だし、……お祝いしてくれたのね。ありがとう。来年はきっと食事会を開くと思うから、その時は朱里さんと一緒に招待するわ」

 そう言われ、尊さんはちえりさんを振り向いて会釈する。

 百合さんは優しい声で言う。

「百合の花が入ったとても立派な花束と、お菓子と、気持ちの籠もった手紙をくれたわ」

 尊さんは前の席の背もたれを見つめたまま、少し耳を赤くしている。

 私はそんな彼がいとおしくて、ギュッと手を握った。

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