部長と私の秘め事
 途中でおトイレ休憩を挟み、私たちは熊野那智大社の駐車場に着いた。

 熊野那智大社は熊野三山の中の一社で、他に熊野本宮大社、熊野速玉(はやたま)大社がある。

 三社ともこの付近にあり、熊野古道によって結ばれている。

 本当は三社の参拝順序があり、本宮、速玉、那智の順番らしい。

 那智大社は全国にある五千以上の熊野神社の総本社で、昔から〝結宮(むすびのみや)〟と呼ばれ、良縁や願いを結ぶ神社として崇められているとか。

 しかしお願い事を聞いてもらうためには、試練を乗り越えなければならない。

 駐車場から那智大社までは、実に四百六十七段の階段が待ち受けている。

「お祖母ちゃん、大丈夫?」

 小牧さんに心配され、百合さんは微笑む。

「さっきは気弱な事を言ったけれど、まだ介助が必要なつもりはないから平気よ。でも、マイペースにゆっくり行かせてもらうけどね」

 階段の上り始めには郵便局があり、右手の道をまっすぐ行くと那智の滝に通じているそうだ。

 でも順番としては、階段を上りつつ鳥居をくぐり、参拝したあとに那智の滝へ向かうのがベストらしい。

 ふうふう言いながら階段を上っていると、尊さんに声を掛けられる。

「大丈夫か?」

「平気です。体動かしたほうが、あとから食べるご飯が美味しいので」

「ははっ、朱里らしいよ」

「尊さんは疲れてないんですか? あんまり息が上がってない」

「まぁ、鍛え方かな」

「……このぉ……。そのうち階段をムーンウォークで上がり始めたりして。マイケル・ミコ」

「ポウ」

 ノッてくれた尊さんの「ポウ」を聞き、私は堪らず笑い出した。

「やめてくださいよ。ただでさえ息が切れてるのに」

「ポウ」

「ひひひひひひひ」

 参道は階段を上って少し平らな部分があり、また階段……という作りで、その合間にお店がある。

 途中にあったお店には真っ黒な置物があり、どうやら那智黒石という石で作られているらしい。

 那智黒と呼ばれるそれは八咫烏を意味し、幸運、成功、勝利にあやかれるんだとか。

 そして那智黒の飴もあるらしい。

 階段を上っている途中で、右手側からどうどうと滝の流れる音が聞こえてくる。

「凄いですね。音だけでマイナスイオン」

「だな。滝とはかなり離れてるのに、上のほうがチラッと見えるのも凄いし、でかい滝だよ」

 途中にはモッコクの木という十メートル近くある椿科の、樹齢四百五十年の木がある。

 もとは那智の滝を見に来た昔の皇族が泊まった、実法院という宿泊施設があった場所の庭園に生えている。

 さらに階段を上って上って……、だけど、途中にお店もあるし、お手洗いもあるしで、行き倒れになる心配はない。

 階段を何段数えたか分からない頃、行く手に朱塗りの一の鳥居が見えた。

 振り向くとお店の遙か向こうに、空と山が見える。

 鳥居のある場所は左右に道が分かれていて、左に行くと那智大社、右に行くと青岸渡寺(せいがんとじ)に通じている。

 鳥居の前には屋根のついた看板があり、ここにはこの神様が祭られていますよ、と書かれてある。

 熊野那智大社の主祭神は、熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)で、神話で有名な伊弉冉尊(いざなみのみこと)の事だ。

 いわずもがな、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の妻で、神話では皇族の祖先となっている。

 この二人が結婚した事で日本の国土が生まれ、海や山、森羅万象の神々が生まれていった。

 ミコペディアの話だと、火の神軻遇突智(カグツチ)を生んだ事で陰部を火傷して病気になり亡くなってしまうが、死の間際において排泄物からも神々を生んだという。すさまG。

 カグツチは父親である伊弉諾尊(いざなぎのみこと)に殺されてしまうとか。

 このように母としての意味を持つ神様なので、子宝や安産の神様として祭られる事が多いらしい。

 熊野三山の他の大社、熊野速玉では速玉大神(はやたまのおおかみ)――伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が主祭神で、熊野本宮大社では家都御子大神(けつみこのおおかみ)――素戔嗚尊(すさのおのみこと)が主祭神となっている。

 看板には【他十神奉斎】と書いてあり、熊野は十二殿に神様が祭られていて、熊野十二社権現(ごんげん)と呼ばれているそうだ。

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