部長と私の秘め事
「地産地消ですね」

「それは食い物な」

「ぐっ……」

 尊さんにサラリとあしらわれ、私は言葉に詰まる。

「あと、この辺は雨が多いから高床式になってる」

「あ、ホントだ」

 本堂の前には石灯籠や何かの石碑、光背(こうはい)を背負った青銅色の観音像などがあり、中央には階段がある。

 約三メートルのご本尊は如意輪観世音菩薩で、推古天皇の時代に生仏上人(しょうぶつしょうにん)が入山して安置したとか。

 この菩薩様は座像と呼ばれる中の輪王坐(りんのうざ)という、片膝を立てて片膝は横に倒し、足の裏を合わせた座り方をしているらしい。

 写真を見ると右手は右膝の上に軽くついて頬杖をつき、なんともリラックスした姿だ。

 インドから来た裸形上人(らぎょうしょうにん)が修行中に滝壺から見つけた観音像は、立っているタイプの小さな像で、この大きな如意輪観音の胎内に入っているらしい。

 見せられない秘仏の代わりに、お参りしてもらうためのご本尊を、御前立(おまえだち)と言うそうだ。

 ……なんだけれど、この御前立も簡単には見られず、普段はないないされていて、特別な日にしかご開帳されないみたいだ。

 つい先日、八月十七日の夜にご開帳があったそうだけど、タイミングが合わなくて残念。

 ちなみにお堂の中は撮影禁止だ。

 お参りが終わったあと、私たちは超有名らしいビュースポットへ行く。

「わー! 凄い! 映える!」

 展望台のように開けた所からは、階段の下にある建物や山々が見えるけれど、何と言ってもその奥に、朱塗りの三重塔と那智の滝が見える。

 遠くにあるから、スマホのカメラをかなりズームしなければならないけど、絶好のお写真タイムだ。

「二人とも、写真撮ってあげようか?」

 小牧さんに言われ、私は「お願いします!」とスマホを渡す。

 そのあと「ここはお寺だし、はしゃいでピースするのも何だかな……」と思い、結局両手を前で組んだお澄ましポーズで撮ってもらった。

「ここに恵がいたら『凄いっすね』って言ってそうですね」

「……なんか中村さんって、ノリが体育会系だよな」

「いや、体育会系ですし。バスケ部でめっちゃ点入れてましたよ。当時はショートヘアでしたし、王子様扱いされてキャーキャー言われて、バレンタインにチョコもらってたしで」

「すげぇな」

「凄いんですよ。だから本人がどう思っていても人気者なんです」

 私と恵が仲良くしているのを見て、一部の女子が『王子と姫』と言っていたそうだけど、黙っておこう。





 途中にあるお手洗いに寄り、坂道を下っていくと、さっき見えた三重塔に近づく。

 青い空と緑の山を背景に、朱塗りの三重塔と、右奥にある直瀑の白滝のコントラストが美しい。

 直瀑(ちょくばく)は滝の水が真っ直ぐに落ちていくタイプを言うけれど、那智の滝の真っ直ぐさは見事なものだ。

 綺麗な白い一本線で、確かに昔の人が浜辺から見上げて、白く光っているように見えた……というのも頷ける。

 滝の落ち口――始まりの部分は、カメラでズームして見てみると、三つの水の流れからなっている。

 それを由来に〝三筋の滝〟とも呼ばれているそうだ。

 落ち口の上は崖が〝U〟の字になっていて、その間にしめ縄が張ってある。

「あのしめ縄、ここから見ると遠くてすげぇ細く見えるけど、間近に見るとかなり太いらしい。紙垂(しで)の長さは畳一畳分あるとか」

「へー!」

「年に二回、しめ縄の張り替えをしているそうだ。大変だよな」

「……どうやって行くんだろう……。ポケットから出た不思議な道具で……」

「アホか」

 某アニメを話題に出すと、尊さんはクスクス笑う。

 滝の落ち口のさらに奥には全部で四十八の滝があり、那智の滝が第一の滝とされている。

 昔の修験者さんは、あの断崖の奥にある二の滝、三の滝のほうまでいって山ごもりをしていたそうだ。

 今でも熊野の修験者さんが、一月下旬から二月の始まりまでの三十日間、四十八の滝を巡る寒行(かんぎょう)を行っているらしい。

 ここも写真スポットなので記念撮影をし、さらに滝に近づくための石段を下っていく。

 石段は下りでも険しく、階段状にはなっているけれど、街中の階段みたいに綺麗な平らではなく、平らっぽい石、と言ったほうが正しいかもしれない。

 場所によっては段差が高い所もあり、私たちは百合さん、将馬さんを気にしつつゆっくり下りた。

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