部長と私の秘め事
「好きな人が相手だから、全然大丈夫でした。……後ろからって見えないし、男性の支配欲を満たしがちな体位だと思うので、不安に感じやすいです。でも、尊さんには安心して背中を任せられるというか……」
「戦場か」
「ふひひ。『背中は任せた』」
私はお決まりの台詞を口にする。
「ハンドサインとか決めましょうか。こうやったら『待て、恵がいる』」
そう言って、私は適当なハンドサインをとる。
「中村さん、野生動物か何かかよ。じゃあ『涼が通っている、注意』もありそうだな」
尊さんも適当なハンドサインをとり、私はケラケラ笑う。
「恵を追いかけてる涼さん、四つん這いで物凄いスピードで走ってそう」
「どこの祟り神だよ」
「それで恵が鹿に乗って弓矢を持って『鎮まり給え!』って言ってるの」
アニメのネタを出してヒイヒイ笑っていると、お湯がチャプチャプ踊る。
「それ系になったら、中村さん強そうだな。武器を持ったら攻撃力高そうだ。弓矢とかぜってぇ外さない感じがある」
「涼さんはね、口から御曹司ビームをぶちかますの」
「待て待て、どんどん人間離れしていく」
「御曹司の怒りは大地の怒りなんですよ」
「待て……。涼が虫に見えてくる……」
尊さんはヒイヒイ笑い、プルプルと震えている。
「でもニコニコ笑顔なんですよね」
「ぶふぉっ」
彼は噴き出し、とうとう湯船に突っ伏して再起不能になってしまった。
「はぁ……、まったく愉快な女だよ、お前は」
「ノッてくれる尊さんも、愉快な男ですよ」
そのあともじっくりお湯に浸かったあと、先に尊さんが上がって服を着ると、スライドドアを閉めてリビングへ行く。
私はもう少し景色を楽しんだあと、フカフカのバスタオルで体を拭き、フェイスケアをしてドライヤーをかけた。
**
ディナーはレストランに移動してとる事になり、私は軽くメイクをし、ワンピース姿で向かった。
レストランと言っても、ゲストごとの対応になった完全個室制だ。
大きな窓の向こうには英虞湾を望めるけれど、残念ながら時間が遅くなってしまったので、ほぼ真っ暗と言っていい。
室内はウッド調で整えられ、正確には何色というのか分からないけれど、光の当たり方によって色を変えるベージュ系のテーブルクロスに、同じような色の椅子が並んでいた。
テーブルの中央には銀色のアンティークな燭台があり、長いキャンドルに火が灯っている。
それぞれの席の前には白いウェルカムプレートとパン皿、食前酒のためのグラス、カトラリーが配されていた。
ウェルカムプレートの上には、花束のような形に丸められた白いナプキンがあり、木製のナプキンリングで留められてある。
お客さんに優しいなと思うのは、ナプキンの上に斜めに掛けるように、木製のお箸も用意されている事だ。
フレンチというと、テーブルマナーを守らないと怒られる……みたいなイメージが強いけれど、昨今はお客さんが窮屈な思いをしなくてもいいよう、こういう柔軟な対応をしている所も増えているようだ。
ナプキンを膝の上に置いたあと、ナプキンリングは箸置きとして使えるようになっている。
私たちは運転手さんがいるので気兼ねなくシャンパンを頼み、全員で乾杯する。
そのあと、ワゴンの上にどっさりと食材が載せられた物が運ばれてきて、主に女性陣が歓声を上げた。
「すごーい!」
「お魚でっかい! 鮑えっぐ!」
「黒き至宝! その名もトリュフ!」
そんな声が漏れてしまうぐらい、ワゴンの上には贅沢な食材が並んでいる。
地産地消を主軸としているらしく、夏が旬のスズキ、大きな鮑、残念ながら伊勢エビは旬ではないけれど、その代わり宝彩海老とも呼ばれる、立派な車海老がある。
帆立みたいな食感の緋扇貝、そしてとても稀少なホラ貝。
小さな木の箱の中にはお米が敷き詰められ、お宝のように黒トリュフが置かれてある。
加えてA5ランクの松阪牛や、まだ皮を剥く前の野菜たちもどっさりあり、まるで気分はお供え物をされた神様みたいだ。
シェフは食材を紹介しつつ、コースメニューの確認をし、私たちは最初の一品目が出るまで、お喋りをして待つ事にした。
「戦場か」
「ふひひ。『背中は任せた』」
私はお決まりの台詞を口にする。
「ハンドサインとか決めましょうか。こうやったら『待て、恵がいる』」
そう言って、私は適当なハンドサインをとる。
「中村さん、野生動物か何かかよ。じゃあ『涼が通っている、注意』もありそうだな」
尊さんも適当なハンドサインをとり、私はケラケラ笑う。
「恵を追いかけてる涼さん、四つん這いで物凄いスピードで走ってそう」
「どこの祟り神だよ」
「それで恵が鹿に乗って弓矢を持って『鎮まり給え!』って言ってるの」
アニメのネタを出してヒイヒイ笑っていると、お湯がチャプチャプ踊る。
「それ系になったら、中村さん強そうだな。武器を持ったら攻撃力高そうだ。弓矢とかぜってぇ外さない感じがある」
「涼さんはね、口から御曹司ビームをぶちかますの」
「待て待て、どんどん人間離れしていく」
「御曹司の怒りは大地の怒りなんですよ」
「待て……。涼が虫に見えてくる……」
尊さんはヒイヒイ笑い、プルプルと震えている。
「でもニコニコ笑顔なんですよね」
「ぶふぉっ」
彼は噴き出し、とうとう湯船に突っ伏して再起不能になってしまった。
「はぁ……、まったく愉快な女だよ、お前は」
「ノッてくれる尊さんも、愉快な男ですよ」
そのあともじっくりお湯に浸かったあと、先に尊さんが上がって服を着ると、スライドドアを閉めてリビングへ行く。
私はもう少し景色を楽しんだあと、フカフカのバスタオルで体を拭き、フェイスケアをしてドライヤーをかけた。
**
ディナーはレストランに移動してとる事になり、私は軽くメイクをし、ワンピース姿で向かった。
レストランと言っても、ゲストごとの対応になった完全個室制だ。
大きな窓の向こうには英虞湾を望めるけれど、残念ながら時間が遅くなってしまったので、ほぼ真っ暗と言っていい。
室内はウッド調で整えられ、正確には何色というのか分からないけれど、光の当たり方によって色を変えるベージュ系のテーブルクロスに、同じような色の椅子が並んでいた。
テーブルの中央には銀色のアンティークな燭台があり、長いキャンドルに火が灯っている。
それぞれの席の前には白いウェルカムプレートとパン皿、食前酒のためのグラス、カトラリーが配されていた。
ウェルカムプレートの上には、花束のような形に丸められた白いナプキンがあり、木製のナプキンリングで留められてある。
お客さんに優しいなと思うのは、ナプキンの上に斜めに掛けるように、木製のお箸も用意されている事だ。
フレンチというと、テーブルマナーを守らないと怒られる……みたいなイメージが強いけれど、昨今はお客さんが窮屈な思いをしなくてもいいよう、こういう柔軟な対応をしている所も増えているようだ。
ナプキンを膝の上に置いたあと、ナプキンリングは箸置きとして使えるようになっている。
私たちは運転手さんがいるので気兼ねなくシャンパンを頼み、全員で乾杯する。
そのあと、ワゴンの上にどっさりと食材が載せられた物が運ばれてきて、主に女性陣が歓声を上げた。
「すごーい!」
「お魚でっかい! 鮑えっぐ!」
「黒き至宝! その名もトリュフ!」
そんな声が漏れてしまうぐらい、ワゴンの上には贅沢な食材が並んでいる。
地産地消を主軸としているらしく、夏が旬のスズキ、大きな鮑、残念ながら伊勢エビは旬ではないけれど、その代わり宝彩海老とも呼ばれる、立派な車海老がある。
帆立みたいな食感の緋扇貝、そしてとても稀少なホラ貝。
小さな木の箱の中にはお米が敷き詰められ、お宝のように黒トリュフが置かれてある。
加えてA5ランクの松阪牛や、まだ皮を剥く前の野菜たちもどっさりあり、まるで気分はお供え物をされた神様みたいだ。
シェフは食材を紹介しつつ、コースメニューの確認をし、私たちは最初の一品目が出るまで、お喋りをして待つ事にした。