部長と私の秘め事
「ひらまるさんには東京でもお世話になっているけれど、やっぱり素敵な所ね」
百合さんが言い、お宿をセレクトした大地さんは嬉しそうだ。
「疲れていませんか?」
尊さんが将馬さん、百合さんに尋ねると、二人はおかしそうに笑った。
「いい運動になったわ。明日は筋肉痛になってそうだけど」
「でも僕らは歳と共に衰えるのを承知していて、日々二人でランニングもしているから、体力はあるほうなんだ」
「そうなんですね! 健康的!」
私はパチパチと軽く拍手する。
すると弥生さんがやれやれ、というように言った。
「我が家は音楽家系だけど、『音楽をやるなら体力もつけろ』っていう教えなのよね。お祖母ちゃんからお母さんへ、そして私へと、ピアノをやりながらもゴリッゴリに体力つけさせられてるから……、もう修行僧みたいなもんよ。熊野の山伏もびっくり」
今日行った場所のネタをぶっ込んでくるので、それを聞いて全員がドッと笑う。
「私なんて、学生時代に〝ピアノゴリラ〟ってあだ名つけられたのよ? もー」
弥生さんは嫌そうに言いながらも、ムンッと力こぶを作ってみせる。
「大地さんも鍛えていそうな体をしてますよね」
私が話しかけると、彼はニコッと笑う。
「俺は学生時代まで音楽をやって、今は趣味程度だけど、やっぱり家族総出で体力作りしていたし、その流れで今も走ったりジムに行ったりしてるかな」
その時、弥生さんがボソッと言った。
「お姉ちゃん、調子に乗った時にお店で料理しながらお酒飲んで、お客さんと腕相撲してんのよ」
「あっ、弥生っ! それは言わない約束……っ」
小牧さんが慌てると、ちえりさんが「ふぅん……」と頷く。
彼女がタラタラと冷や汗を流している中、ちえりさんが言った。
「上手くやれてるならいいけど、調子にのってお店の評判を落とすんじゃありませんよ。私たちはそこまでカバーできませんからね」
「はぁい……」
ガックリと項垂れた小牧さんを見て、また全員が笑った。
「でも私、口コミでお姉ちゃんのお店に星五入れたよ」
弥生さんが言い、小牧さんはクネクネしだす。
「やだぁ~! ありがとう!」
「私も! お料理がとっても美味しかったので! 勿論女将さんもとっても素敵な方ですし。また個人的に伺いたいです」
私がシュパッと手を上げると、小牧さんは「朱里さんのためなら、何でも作っちゃう~」とニコニコしてシャンパンを飲んだ。
最初はシャンパンのお供に、旬の桃と生ハムを添えられたカッペリーニが出てきた。
食前酒はワゴンで運ばれてきた色んなボトルの中から選べるので、シャンパンと思ったはずなのに、色々と目移りしてしまった。
「ん桃……。あまーい。うまい。甘いのにしょっぱいのと合うぅ~」
食べながら実況していると、ちえりさんがクスクス笑う。
「尊から朱里さんは食べる事がとても好きだって聞いていたけれど、見ているともっと食べさせてあげたくなるわね」
「あっ、ごっつぁんです」
ついそんな返事をしてしまい、お食事中なのに皆さんを笑わせてしまった。
アミューズはボイルされて皮を剥かれた車海老と、このあたりで採れる野菜を綺麗な色をキープしつつ温野菜にし、まるで菜園にいるように美しく並べた一皿だ。
オリーブオイルや野菜で作られたソースが点々として、それにつけて食べるのだけれど、おいちい……。
お次はペアリングした白ワインと共に、外はカリッ中はトロ~にソテーしたフォアグラと野菜、野菜のジュレ風ソースが掛かったものだ。
フォアグラそのものは結構もったり、こってりとしているけれど、ソースがスッキリしているので、しつこくなく食べられる。
加えてこういうお店で適度なサイズに切られたバケットが出てくるのはよくある事だけれど、ここでは一人一本のミニバケット、全粒粉でできた丸いパンをもらえる。
黒い石風のプレートに載せられたバターは二種類あり、生クリームを絞り出す時の口金みたいなもので出されたのか、芸術的な形をしている。
それぞれ土地の牛乳で作ったフレッシュバター、もう一つは燻製されているらしい。
これがまた美味しくて、ワンコパンして幾つでも食べてしまいそうになり、必死に自制した。
……若干お代わりはしたけど……。
そして大きな鮑のソテーは、とても柔らかく加熱されていて「はぁ……、しゅき」と限界オタクになってしまう。
白くて丸いプレートの中心に鮑があるのだけれど、周りにはちょっと焦げ目のついた野菜――人参、ブロッコリー、ペコロス(小さな玉葱)、アスパラがあり、鮮やかな緑のソース、黒いソースの二種類が現代絵画のように芸術的に飛び散っている。
緑のソースはお野菜を使っているとして、黒いソースは鮑の肝を使っているのだとか。
そして皮目をパリッと焼き、身はふんわりジューシーに焼いたスズキとクリームソース、ゴロゴロ野菜に、上には野菜でできたエスプーマ(泡)がふわり。
お口直しに貝の出汁で作った、ちっちゃいティーカップのスープをいただき、メインディッシュの松阪牛。上には削られた黒トリュフが惜しげもなく使われている。
それぞれの料理に違う白ワインをいただき、お肉には勿論赤ワインだ。
百合さんが言い、お宿をセレクトした大地さんは嬉しそうだ。
「疲れていませんか?」
尊さんが将馬さん、百合さんに尋ねると、二人はおかしそうに笑った。
「いい運動になったわ。明日は筋肉痛になってそうだけど」
「でも僕らは歳と共に衰えるのを承知していて、日々二人でランニングもしているから、体力はあるほうなんだ」
「そうなんですね! 健康的!」
私はパチパチと軽く拍手する。
すると弥生さんがやれやれ、というように言った。
「我が家は音楽家系だけど、『音楽をやるなら体力もつけろ』っていう教えなのよね。お祖母ちゃんからお母さんへ、そして私へと、ピアノをやりながらもゴリッゴリに体力つけさせられてるから……、もう修行僧みたいなもんよ。熊野の山伏もびっくり」
今日行った場所のネタをぶっ込んでくるので、それを聞いて全員がドッと笑う。
「私なんて、学生時代に〝ピアノゴリラ〟ってあだ名つけられたのよ? もー」
弥生さんは嫌そうに言いながらも、ムンッと力こぶを作ってみせる。
「大地さんも鍛えていそうな体をしてますよね」
私が話しかけると、彼はニコッと笑う。
「俺は学生時代まで音楽をやって、今は趣味程度だけど、やっぱり家族総出で体力作りしていたし、その流れで今も走ったりジムに行ったりしてるかな」
その時、弥生さんがボソッと言った。
「お姉ちゃん、調子に乗った時にお店で料理しながらお酒飲んで、お客さんと腕相撲してんのよ」
「あっ、弥生っ! それは言わない約束……っ」
小牧さんが慌てると、ちえりさんが「ふぅん……」と頷く。
彼女がタラタラと冷や汗を流している中、ちえりさんが言った。
「上手くやれてるならいいけど、調子にのってお店の評判を落とすんじゃありませんよ。私たちはそこまでカバーできませんからね」
「はぁい……」
ガックリと項垂れた小牧さんを見て、また全員が笑った。
「でも私、口コミでお姉ちゃんのお店に星五入れたよ」
弥生さんが言い、小牧さんはクネクネしだす。
「やだぁ~! ありがとう!」
「私も! お料理がとっても美味しかったので! 勿論女将さんもとっても素敵な方ですし。また個人的に伺いたいです」
私がシュパッと手を上げると、小牧さんは「朱里さんのためなら、何でも作っちゃう~」とニコニコしてシャンパンを飲んだ。
最初はシャンパンのお供に、旬の桃と生ハムを添えられたカッペリーニが出てきた。
食前酒はワゴンで運ばれてきた色んなボトルの中から選べるので、シャンパンと思ったはずなのに、色々と目移りしてしまった。
「ん桃……。あまーい。うまい。甘いのにしょっぱいのと合うぅ~」
食べながら実況していると、ちえりさんがクスクス笑う。
「尊から朱里さんは食べる事がとても好きだって聞いていたけれど、見ているともっと食べさせてあげたくなるわね」
「あっ、ごっつぁんです」
ついそんな返事をしてしまい、お食事中なのに皆さんを笑わせてしまった。
アミューズはボイルされて皮を剥かれた車海老と、このあたりで採れる野菜を綺麗な色をキープしつつ温野菜にし、まるで菜園にいるように美しく並べた一皿だ。
オリーブオイルや野菜で作られたソースが点々として、それにつけて食べるのだけれど、おいちい……。
お次はペアリングした白ワインと共に、外はカリッ中はトロ~にソテーしたフォアグラと野菜、野菜のジュレ風ソースが掛かったものだ。
フォアグラそのものは結構もったり、こってりとしているけれど、ソースがスッキリしているので、しつこくなく食べられる。
加えてこういうお店で適度なサイズに切られたバケットが出てくるのはよくある事だけれど、ここでは一人一本のミニバケット、全粒粉でできた丸いパンをもらえる。
黒い石風のプレートに載せられたバターは二種類あり、生クリームを絞り出す時の口金みたいなもので出されたのか、芸術的な形をしている。
それぞれ土地の牛乳で作ったフレッシュバター、もう一つは燻製されているらしい。
これがまた美味しくて、ワンコパンして幾つでも食べてしまいそうになり、必死に自制した。
……若干お代わりはしたけど……。
そして大きな鮑のソテーは、とても柔らかく加熱されていて「はぁ……、しゅき」と限界オタクになってしまう。
白くて丸いプレートの中心に鮑があるのだけれど、周りにはちょっと焦げ目のついた野菜――人参、ブロッコリー、ペコロス(小さな玉葱)、アスパラがあり、鮮やかな緑のソース、黒いソースの二種類が現代絵画のように芸術的に飛び散っている。
緑のソースはお野菜を使っているとして、黒いソースは鮑の肝を使っているのだとか。
そして皮目をパリッと焼き、身はふんわりジューシーに焼いたスズキとクリームソース、ゴロゴロ野菜に、上には野菜でできたエスプーマ(泡)がふわり。
お口直しに貝の出汁で作った、ちっちゃいティーカップのスープをいただき、メインディッシュの松阪牛。上には削られた黒トリュフが惜しげもなく使われている。
それぞれの料理に違う白ワインをいただき、お肉には勿論赤ワインだ。