部長と私の秘め事
 脱衣所に入ると、先客がいるのが分かった。

 同性とはいえ、初めて裸を見せるとなると少し緊張するし、あちらはみんな〝家族〟なのに、他人の私が入って行く緊張もある。

 でももう十分に仲よくなったつもりではあるから、スポーンと服を脱いだあと、気分は「たのもう!」という感じで中に入った。





「あ、朱里さん来た」

 百合さん、ちえりさん、小牧さん、弥生さんはすでに温泉に浸かっている。

「どうもです~」

 細長い空間にシャワースペースがあり、シャンプー類や木製の桶、風呂椅子もあるけれど、ワンセットだけだ。

 基本的に部屋にあるお風呂やシャワーで体を綺麗にして、ここでは景色を楽しみながら複数人で温泉を楽しむのが目的なんだろうな、と感じた。

 私はシャワーでサッと体を流したあと、手すりに掴まって浴槽へ向かう。

 温泉は露天風呂の広々とした空間の奥にあり、そこに至るまで周囲の床から一段盛り上がった足場みたいなのがあり、手すりもある。

 まるでファッションショーのランウェイみたいに道が続き、センターステージに当たる部分に浴槽がある感じだ。

 その周囲の低い部分に浅くお湯が張られてあり、両側の壁際には等間隔にライトがある。

 目の前には人の背丈ほどのガラスの仕切りがあり、向こう側は木々が茂っている。

 さらに奥に英虞(あご)湾が見える……はずだけれど、今は真っ暗だ。

 でもこれはこれで、静かな場所で露天風呂を楽しめていいかもしれない。

「お邪魔しまーす」

 私はゆっくりと足を入れ、温泉に浸かっていく。

 部屋にあったリーフレットには、ナトリウム塩化物温泉と書いてあり、文字通りしょっぱい系の温泉だ。

 海に近い場所に多い泉質のようで、神経、筋肉、冷え、疲労回復などに効くと書いてあった。

「あ”ー……。温泉に浸かって今日の疲れが全部飛んでけばいいのに」

 小牧さんがさっきの私みたいな声を出して言う。

「そんな名湯があったら、人が押し寄せて大変ね」

 ちえりさんはあっさりと娘の言葉をかわし、弥生さんは「また漫画みたいな事を言う……」とボソッと付け加える。

「東京帰ったら、お母さんもお祖母ちゃんも、整骨院に行って念入りにほぐしてもらってね。これがきっかけで体調崩されても嫌だし」

 弥生さんが言うと、お二人とも気丈に言い返す。

「私はまだ若いつもりなんだけど、ババア扱いしないでくれる?」

 そう言うちえりさんは、湯煙しっとり美魔女だ。

「私もこれしきの事で寝込んだりできないわねぇ……。同年代の方々とは鍛え方が違うつもりだから……」

 百合さんもなかなかのものだ。

 ぼんやりと会話を聞いていると、小牧さんがボソッと付け加えてきた。

「体力至上主義なのはさっき言ったけど、二人ともジムの会員で、筋トレ凄いするし、スタジオ系は一番前に陣取るから、恐いわよ~。ジムでバリバリやる系の、年季入った美人って……ほら、恐いでしょ……」

〝クソ上司〟〝クソ部下〟の名前を叫びながら、殴る蹴るしている燃える闘魂お嬢様――春日さんを思いだした私は、記憶の蓋をそっと閉じる。

「う、うーん……、やる気に満ちていていいんじゃないでしょうか」

 平和的に言うと、ちえりさんがウンウン頷いた。

「ほら、朱里さんは分かってくれてるじゃない」

「別に私たち、人様に迷惑を掛けている訳じゃないしね」

 私は悟りでも開けそうな柔和な笑みを浮かべ、「そうですよね~」と頷く。

 一旦会話が終わったあと、私はおずおずと尋ねた。

「あの……、今回、尊さんと一緒に旅行してみてどうでしょう?」

 すると四人は顔を見合わせ、クスッと笑った。

「博識でびっくりしたわよね」

「そうそう! 朱里さんがミコペディアって言ってるの分かるわ~」

 姉妹がクスクス笑い、私はとりあえず明るく返してもらってホッとする。

 ちえりさんはパシャッと自分の肩にお湯を掛け、微笑んだ。

「今回は改めてありがとう。尊くんも朱里さんが一緒にいたから、いつもと同じ空気感でいられたと思うわ」

「そうよね~。今までハブっていた訳じゃないけど、大人になるまでろくに連絡をとっていなかった母方の親戚と、いきなり旅行って距離が近すぎて緊張するわよね」

 小牧さんが言い、「ま、私の店には来てくれていたけどね」と誇らしげに言う。

「尊くん、私のリサイタルにも来てくれたんだから!」

 弥生さんが張り合い、私はクスクス笑う。

 そのあと、ちえりさんは息を吐いて微笑み、言った。

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