部長と私の秘め事
祖母と孫
「その時、『いつかそいつを彼女として紹介できたらいいな』ってお酒を飲みながら言ってたの。決して名前は口にしなかったけど、今なら朱里さんの事だって分かるわ」
皆さんに微笑ましい目を向けられ、私は「えへへ……」と照れ笑いする。
ちえりさんが言った。
「朱里さんも今まで色々あったでしょうけど、尊くんと支え合って幸せにね。これから結婚式を控えているでしょうけど、速水家も東雲家も、全力で応援するから。……あっ、もしも着物の事で困ったら、ぜひ『しののめ』に相談して」
「はい!」
「も~! お母さんったら商売上手なんだから」
弥生さんが呆れたように言い、私は「餅は餅屋ですから」と笑う。お餅食べたい。
少しの沈黙のあと、百合さんは肩にお湯をかけて言った。
「みんな、進んでいたのね。停滞していたのは私だけ。……でも、今はもうみんなのお陰で前に進めるわ」
「きっと尊さんも待ってます。みんなで進みましょう」
「ええ」
お風呂上がり、小牧さんと弥生さんに「魅惑のボディ」とキャーキャー言われてしまった。
「すっごいメリハリボディ! 素敵~! 秘訣は!?」
「えっと……、沢山食べる?」
「それじゃあ、私ならハリハリボディになっちゃう。メリもほしい!」
「これこれ、人様の裸を見て、あれこれ言うんじゃありません」
ちえりさんに注意され、彼女たちはしぶしぶと離れていく。
(でも、裸の付き合いができて良かったな)
着替えた私は百合さんにロビーにいてもらうよう頼み、ステテテテ……と尊さんを呼びに行った。
「尊さん! ミコアタックのお時間です!」
「お? ……おう」
ソファに座ってテレビを見ていた彼は、うろたえつつも頷く。
「百合さんにね、ロビーにいてもらうようお願いしたので、告白するなら今だ!」
「……学生かよ」
冷静に突っ込みを入れた尊さんは、チョンと私の頭をチョップし、そのままクシャクシャと撫でてきた。
「……ま、でもありがとな。勇気出して行ってくる」
「はい!」
私はソファに座ってまた美味しいオリジナルジュースを飲み、ニマニマして尊さんを見守る。
彼は荷物からラッピングされた箱を出すと、折れないようにスーツケースのネットの部分に入れたショッパーを出し、その中に入れる。
「……はぁ……。……やべぇ。緊張する」
「掌に〝百合〟って三回書いて呑んでみたらどうです?」
「……なんか、不敬だろ、それ」
彼はクスクス笑い、「んじゃ、行ってくるわ」と部屋を出て行った。
**
「はぁ……」
俺――、篠宮尊は廊下に出て溜め息をつき、ブラブラとゆっくりとした足取りでロビーへ向かう。
百合さんが今の俺を拒絶していないのは分かる。
春分の日に和解できた時、確かに俺と彼女は歩み寄り、新たに祖母と孫として接していこうと決めた。
後日、俺は改めて百合さんに手紙を送り、受け入れてくれた事への礼を綴った。
もっと沢山の事を書くべきだったかもしれないが、母やあかりの事が混じると色んな感情が噴き出て、酔っ払いが管を巻いたみたいな、みっともない長文になりそうでやめた。
ペンで字を書く際に誤字を減らしたく、最初にパソコンでベースとなる文章を打ったが、呆れるほどの長文になってしまい、データごと消した。
結局、【先日はありがとうございました。色々ありましたが、今後とも宜しくお願いいたします】をもう少し長くしたような、当たり障りのない文章となってしまった。
(結局、二人きりでまともに話をしてないんだよな。……あー……、緊張する)
贈り物も自分なりに色々考えた物だが、気に入ってくれるか分からない。
(……どうかな……)
俺はチラッと手に持っているショッパーを一瞥し、溜め息をつく。
なるべく時間を稼ぐためにゆっくり歩いたが、とうとうロビーに着いてしまった。
中央の通路を挟んで左右にソファがある造りになっていて、そのどちらにいるのか探そうとした時――。
「尊」
皆さんに微笑ましい目を向けられ、私は「えへへ……」と照れ笑いする。
ちえりさんが言った。
「朱里さんも今まで色々あったでしょうけど、尊くんと支え合って幸せにね。これから結婚式を控えているでしょうけど、速水家も東雲家も、全力で応援するから。……あっ、もしも着物の事で困ったら、ぜひ『しののめ』に相談して」
「はい!」
「も~! お母さんったら商売上手なんだから」
弥生さんが呆れたように言い、私は「餅は餅屋ですから」と笑う。お餅食べたい。
少しの沈黙のあと、百合さんは肩にお湯をかけて言った。
「みんな、進んでいたのね。停滞していたのは私だけ。……でも、今はもうみんなのお陰で前に進めるわ」
「きっと尊さんも待ってます。みんなで進みましょう」
「ええ」
お風呂上がり、小牧さんと弥生さんに「魅惑のボディ」とキャーキャー言われてしまった。
「すっごいメリハリボディ! 素敵~! 秘訣は!?」
「えっと……、沢山食べる?」
「それじゃあ、私ならハリハリボディになっちゃう。メリもほしい!」
「これこれ、人様の裸を見て、あれこれ言うんじゃありません」
ちえりさんに注意され、彼女たちはしぶしぶと離れていく。
(でも、裸の付き合いができて良かったな)
着替えた私は百合さんにロビーにいてもらうよう頼み、ステテテテ……と尊さんを呼びに行った。
「尊さん! ミコアタックのお時間です!」
「お? ……おう」
ソファに座ってテレビを見ていた彼は、うろたえつつも頷く。
「百合さんにね、ロビーにいてもらうようお願いしたので、告白するなら今だ!」
「……学生かよ」
冷静に突っ込みを入れた尊さんは、チョンと私の頭をチョップし、そのままクシャクシャと撫でてきた。
「……ま、でもありがとな。勇気出して行ってくる」
「はい!」
私はソファに座ってまた美味しいオリジナルジュースを飲み、ニマニマして尊さんを見守る。
彼は荷物からラッピングされた箱を出すと、折れないようにスーツケースのネットの部分に入れたショッパーを出し、その中に入れる。
「……はぁ……。……やべぇ。緊張する」
「掌に〝百合〟って三回書いて呑んでみたらどうです?」
「……なんか、不敬だろ、それ」
彼はクスクス笑い、「んじゃ、行ってくるわ」と部屋を出て行った。
**
「はぁ……」
俺――、篠宮尊は廊下に出て溜め息をつき、ブラブラとゆっくりとした足取りでロビーへ向かう。
百合さんが今の俺を拒絶していないのは分かる。
春分の日に和解できた時、確かに俺と彼女は歩み寄り、新たに祖母と孫として接していこうと決めた。
後日、俺は改めて百合さんに手紙を送り、受け入れてくれた事への礼を綴った。
もっと沢山の事を書くべきだったかもしれないが、母やあかりの事が混じると色んな感情が噴き出て、酔っ払いが管を巻いたみたいな、みっともない長文になりそうでやめた。
ペンで字を書く際に誤字を減らしたく、最初にパソコンでベースとなる文章を打ったが、呆れるほどの長文になってしまい、データごと消した。
結局、【先日はありがとうございました。色々ありましたが、今後とも宜しくお願いいたします】をもう少し長くしたような、当たり障りのない文章となってしまった。
(結局、二人きりでまともに話をしてないんだよな。……あー……、緊張する)
贈り物も自分なりに色々考えた物だが、気に入ってくれるか分からない。
(……どうかな……)
俺はチラッと手に持っているショッパーを一瞥し、溜め息をつく。
なるべく時間を稼ぐためにゆっくり歩いたが、とうとうロビーに着いてしまった。
中央の通路を挟んで左右にソファがある造りになっていて、そのどちらにいるのか探そうとした時――。
「尊」