部長と私の秘め事
「……はい」

「世の中、プロの大食いがいるからな? うぬぼれるな」

「あっ、はい! 私ごときがこの量ですみません」

 まさにその通りなので、スッと気持ちが楽になった。

 尊さんはこのお店のスペシャルお好み焼き――サーロインやエビ、イカなどが入ったゴージャスでリッチな物を食べる上で、私が頼んだあれこれをちょっとつつくそうだ。

 皆さんも一人一枚(百合さんと将馬さんは二人で一枚)お好み焼きを頼み、あとはお肉やシーフード、その他をみんなでシェアする予定らしい。

 夏の盛りで鉄板焼きのお店に入り、店内でも熱気を浴びると汗だくになるけれど、それでも美味しい物を食べられるならどうって事はない。

 もともと汗を掻いていた事を思えば、大して変わりはないし。

 とはいえ、店内ではクーラーが効いているけれど、鉄板の熱気があるので、ハンディファンを置いてガーッと風を浴びていた。

 やがて順番に料理が運ばれてきて、私たちはあつあつの鉄板料理をハフハフして食べる。

「うみゃあ……」

 忘れずに料理を写真に撮ったあと、食べ物様に手を合わせていただいていく。

 このお店には、麺をトッピングしたモダン焼きのシリーズもあり、ちえりさんと弥生さんは、そちらを食べていた。

 小牧さんは妹を見てニヤリと笑う。

「知ってる? 弥生。モダン焼きのモダンって〝盛りだくさんなお好み焼き〟からきてるのよ」

「マジ?」

 彼女は目を見開き、ついでに私も「ほえーっ」と感心して頷く。

 弥生さんはヘラでお好み焼きを切りつつ言う。

「私、麺があったほうがお得に感じられて好きなのよね。お好み焼きそのもので言ったら、広島のお好み焼きのほうが好きだわ」

 彼女がそう言った直後、小牧さんは周囲をサッと見てから声を潜めて言う。

「それ系の問題は土地の方々が敏感になるから、あまり言わないで」

「えー? そうなの? お腹に入ったら同じじゃない」

 ピンときていない弥生さんに、小牧さんはスッと目を細めて言う。

「スタンウェイ、ベヒシュタイン、ベーゼンドルファーのどれがいいかって、終わりのない論争をするようなものよ」

「あぁ……」

 世界三大ピアノのブランド名を出され、ようやく弥生さんは理解したようだった。

「ちなみに朱里さんはどっちが好き?」

 弥生さんに尋ねられ、私はキリッとキメ顔で言う。

「食べ物に貴賤はありません! 何でも美味しくいただきます!」

「それでこそ朱里だよ」

 尊さんはクスクス笑い、弥生さんは「偉いわね~」と頷く。

 どうやら、小牧さんは食べ物好きが講じて料理の道に進んだけれど、弥生さんは結構好き嫌いが激しいそうだ。

 みんなで美味しく鉄板焼きを食べて満足したあと、それぞれ自由行動をとって、夕食時に集合する事になった。

 と言っても、今は十四時半ぐらいなので、それに伴って夕ご飯も少し遅い時間になりそうだ。

 私たちは一旦皆さんとお別れし、タクシーに乗って通天閣を目指した。





「わぁ~! 凄い!」

 周りはコテコテしたザ・大阪! という感じのお店が目立ち、私は写真を撮りまくる。

「たこ焼き食べたいな……。あっ、串かつ」

 歩きながらブツブツ言うと、尊さんは「あとで食わせてやるから」と私を宥める。

 新世界が東京の街並みと違うと感じるのは、看板類に立体的な装飾が多い事だ。

 それに看板が大きくてとにかくド派手。

「あ、残念石だって」

 お店の前には植え込みがあって、その隣に鉄柵に囲まれた石がある。

「ほれ、大坂城にもあったけど、石垣になりきれなかった石たちが転がってただろ。あれも残念石だし、こうやって道半ばにある奴も残念石だ」

「あぁ~……。残念……。何が残念って、こんな名前をつけられちゃったのが可哀想」

 それでも残念石って呼び方が、何だか可愛くて笑えてしまう。

 通天閣の脚は三角になっていて、タワーの底を見上げると孔雀やお花の絵が描いてある。

「これ、当時は中山太陽堂って名前だった企業の広告なんだ。ほら、支柱の所にクラブ化粧水とか書いてあるだろ」

「ホントだ!」

 ほぼ円形に近い絵には、バツを描くように支えがあり、銀色のそれには商品名がが刻まれてある。

「今はクラブコスメチックスって社名に変わって、フェイスパウダーとか色々売ってるみたいだ」

「ほえーん」

 一旦階段から下に向かうと、途中の壁にはレトロな絵柄に囲まれて、大阪用語――『じじむさい』『ちゃらんぽらん』とかの意味が書かれた額縁がある。

 地下に向かうと女性の悲鳴が聞こえ、なんだなんだ? とそちらを見ると、スライダーから人が出て来た。

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