部長と私の秘め事
「都会の中でクルーズもいいもんですね」

「東京でも隅田川とかでクルーズやってるけど、行ってみるか?」

「あー……、住んでる所だと『観光客向け』って思っちゃいますけど、意外と普段は見えない目線から見られて、面白いかもですね」

「よし、今度のデート予定に組み込んでみるか」

「ひひひ、地元民なのに東京観光」

「まぁ、地元だからわざわざ行かない所って、結構あるからなぁ」

「ですねぇ。意外と自分の住んでる場所のいい所を知らないって、結構あるかもです」

 皆さんとの待ち合わせは徒歩圏内なので、私たちはそのあと法善寺(ほうぜんじ)横町を散策した。

 横町というだけあって、細い石畳できた通りは、表のザ・現代の大阪! という派手な印象とは打って変わって、古き良き難波の路地という印象だ。

 横町にお寺の名前がついているだけあり、端には天龍山法善寺という浄土宗のお寺がある。

 横町は、元はお寺の境内にあった露店が、普通のお店に変わっていったものだそうだ。

 織田作之助の小説の舞台にもなったり、歌謡曲でも歌われたりで、なかなか人々の思い入れと歴史深い場所のようだ。

 しっとりとした雰囲気の横町を歩くと、割烹やお好み焼き屋さん、串カツ店、バーなどが立ち並んでいる。

 横幅三メートルなので、グループ観光客とすれ違う時は大変だけれど、なかなか面白い。

 最後に法善寺をお参りしたけれど、過去にあった空襲や火災を乗り越えられたのは、お不動さんと地元民の信仰のお陰とされている。

 一九四五年の大阪空襲ではお寺が燃えてしまったそうだけれど、お不動さんは燃えずに残ったそうだ。

〝不動明王〟と書かれた提灯がズラリと並ぶなか、びっしりと苔に覆われたお不動さんがある。

 火炎後背はそのまま残っているけれど、お不動さんの像や手にしているはずの剣や羂索(けんじゃく)などは、モソッとした苔に覆われて、元の形が分からない。

 こちらのお不動さんは水掛不動尊(みずかけふどうそん)と呼ばれて、願掛けのためにみんなお水を掛けて拝むから、こんなに苔むしているらしい。

 基本的にどんな願いも受け入れてくれるようで、私たちはお線香と蝋燭を捧げ、お水を掛けて拝んだ。





 やがて十九時が迫り、私たちはお店へ移動する。

 指定されたお店は、最初にいた戎橋や法善寺横町からすぐ近くにある『四代目 道頓堀三久(さんきゅう)』だ。

 こぢんまりとしたお店で、席数は十五席だけれど、大地さんが予約してくれたので全員テーブル席に座る事ができた。

 四名ずつのテーブル席の他は、カウンター席となっている。

 大地さんも色々考えたようで、若者は大阪に来たからには串カツを食べたいだろうけど、串カツのお店を探したら、串カツオンリーがほとんどだそうだ。

 百合さんたちは揚げ物ばかりだとお腹がもたれてしまうかもだし、海鮮とか色々選べるほうがいいと判断し、沢山検索してこのお店に決めたらしい。

 店内は落ち着いた雰囲気で、ホッとできる。

「大阪観光、楽しめた?」

 小牧さんに尋ねられ、私は「ばっちりです!」とサムズアップする。

「明日は主にお土産購入で駆け回って、帰宅ね~」

 弥生さんは黒板に書いてあるメニューを見ながら言う。

 串カツは色んな種類があり、基本的に百五十円から三百円内に収まる値段だ。

 基本の野菜やお肉の他にも、アボカドやニンニク、チーズなどもある。

 一品料理は居酒屋のように枝豆や冷や奴、牛すじなどがあり、サラダや出汁巻き卵、焼き魚や揚げ物、角煮、おにぎりや雑炊などもある。

 オススメが明太アボカド焼き、地鶏の塩焼き、春巻きグラタンらしく、締めの親子丼も好評らしい。

「よし、じゃあみんな気になった物、手当たり次第頼んで」

 大地さんが笑って言い、飲み物を注文したあとに和気藹々と料理をオーダーした。

 旅行の初日、車の中で後悔を打ち明けた百合さんだったけれど、昨晩尊さんと沢山話したからか、幾分スッキリした顔つきをしている。

 大きな悲しみを抱いている速水家だけれど、多分この旅行を経て一歩前に進めたんじゃないかな、と感じていた。

 それに大地さんも小牧さんも弥生さんも、みんな祖父母想いでいいお孫さんばかりだ。

 この温かな人たちがいたから、尊さんは今こうやって速水家の一員として笑っていられる。

(良かったですね)

 小牧さんの話を聞いて笑った私は、心の中で尊さんに乾杯し、クーッとサワーを飲んだ。

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