部長と私の秘め事
 ほどなくして恵から【分かった】と返事があり、【おやすみ】のスタンプが送られてきた。

 そのあとテレビを見ながらゴロゴロしていると、お風呂から上がった尊さんが現れた。

 私は立ちあがり、腰をフリフリして踊り出す。

「なんじゃそりゃ」

「『お風呂からお帰りなさい』のダンスです」

「求愛ダンスかと思ったよ」

 そう言われ、私は両手を広げると、上半身で八の字を描くようにグネグネ動かし始めた。

「ダチョウの求愛ダンスです」

「いつからダチョウになったんだ」

 尊さんはフハッと笑い、ミニバーから水を出して飲む。

「見た事ないですけど『キャバレー』とかで、フワフワの羽根がついた衣装着ますよね。イメージです。イメージ」

「あぁ……、なんか分かる。あれ着てくれるのか?」

「太腿に社食の食券挟んでくれるなら」

「そっちかよ」

 尊さんはケラケラ笑い、私の頭を撫でる。

「いつまでも、健やかな食いしん坊でいてくれ」

 そう言って、尊さんは私の頬にチュッとキスをした。





「明日には、おうちのベッドですね」

 キングサイズのベッドに入った私は、大阪の夜景を見ながら言う。

「ん……。また仕事だな」

「新米秘書、頑張ります」

「笹島さんにお土産買わんと」

「ファミリーで楽しめるお菓子にしておきましょう」

「だな、それが無難だ」

「私からも賄賂でお菓子贈ります」

「なんで賄賂だ」

「……ミ、ミスした時用に……」

 尊さんに溜め息をつかれ、私は「すんません……」と小さな声で謝る。

「俺が責任とるから、変な気ぃ回すな」

「はい……」

 返事をしたあと、部長時代もこうやって私も含め、みんなの事を守ってくれていたな、と思い出す。

 部長の頃の尊さんを思い出すと、何だか急にカーッと赤面してしまった。

 みんなが憧れていた速水部長と同じベッドに寝ていると思うと、照れくさくて堪らない。

 フロアで通りすがった時、嗅いだ香水も同じ匂い。

 チラッと見た腕や手、首筋や喉仏、そのすべてが今や私のものだ。

 背が高いな、背中が広いなと思っていて、みんなから『魅力的』と言われていたのに、今はその体に抱きついても何をしても私だけが許される。

 ドッと脳裏に蘇ったのは、初めて彼と関係を持ってしまった時の事だ。

 酔い潰れていたところをお持ち帰りされて、物凄く激しく抱かれて……。

 あれから尊さんを〝男〟として見るようになり、同じフロアにいても物凄く意識していた。

 最近は〝男〟というより〝家族〟に近い感情を持っていたから忘れていたけれど、彼はとても魅力的な男性だ。

(慣れって恐い……)

 照れながらモゾモゾと距離をとると、「ん?」と彼が声を漏らし、私の腰をグッと引き寄せた。

「なんだよ」

「う……、……うぅ……」

 体が密着したなか尋ねられ、私は顔を反らす。

 部屋の中は薄暗いけれど、尊さんがまっすぐ見つめているのは分かった。

「……み、尊さんって格好いいなって!」

 勢いで誤魔化そうとすると、彼はチュッと頬にキスをしてきた。

「朱里は可愛いな」

(うわあああああああああああああああ!!)

 全身から発火するのではないかと思うほど赤面した私は、グイグイと尊さんを押す。

「駄目。無理。今ちょっと恥ずかしいから離れてください」

「何だよ。処女みたいな反応しやがって」

「しょ……っ」

 また脳裏に尊さんに抱かれた時の事が蘇り、鼻血が出るかと思った。

「おっさんみたいな事、言わないでくださいよ!」

「おっさんだもん」

「わ! 開き直った! 『もん』って言った! 可愛い!」

「情緒が安定しねぇな」

 彼はクスクス笑い、私を解放する。

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