部長と私の秘め事
 やがて車寄せに鉢村さんが運転する車が着き、私たちは彼と挨拶して大量の荷物をトランクに置く。

 荷物の場所を確保するため、あらかじめ尊さんは鉢村さんに、自分の所有するレクサスLMで来てもらった。

 生菓子を積むのは心臓に悪いけれど、致し方ない。

 すぐ恵に渡せるように、彼女へのお土産には、百均で買った赤い丸シールを貼っておいた。

「ふわぁ……」

 飛行機のファーストクラスもかくや、というシートに座った私は、ゆったりとしたシートに身を預けて大きなあくびをする。

 前方には大きな横長の液晶画面があり、鉢村さんは気を遣ってその上部にあるパーティションを閉じてくれていた。

 でも後部座席にもクーラーはガンガン効いているので、ホッと一息つける。

「ん、飲みな」

 尊さんは冷蔵庫に入れてあったお茶のペットボトルを渡してくれる。

「ありがとうございます……。痒い所に手が届く、孫の手ミコ」

 私は冷えたお茶をクピクピ飲み、恵や家族にメッセージを送る。

 疲れて眠たくて目をショボショボさせていたけれど、ここで寝てしまっては、爆睡コースになってしまいそうだ。

 今頃、恵は仕事を終えた頃だろうか。

 すぐに通知音が鳴り、彼女からメッセージがあった。

【お帰り。無事に帰ってこられて良かった。お土産は嬉しいけど、体調を整えたあとで全然いいのに】

 それに私はトトトト……と返事を打つ。

【生菓子なので、鮮度が命! スイーツ街道を使って新鮮なスイーツをお届けする、甘味方だよ!】

【マジか。ありがとう。六本木のマンションに寄ってくれるんだって? 事前に聞いていたから、涼さんが駐車場空けてくれてるみたい】

 そう言って、恵は駐車場の番号を教えてくれた。

 ……うん。私の鯖街道とかに載せたギャグを、スルッとスルーするのは、さすが恵だ。

 それで一旦メッセージのやり取りは終え、私はぼんやりと関東のニュースを見る。

「町田さんに頼んで、風呂入れてもらってるから、帰ったらすぐ入りな」

「あい……」

 私は欠伸を噛み殺し、小さく返事をした。





 その後、車は涼さんのマンションに着き、駐車場で鉢村さんに待ってもらっている間、私と尊さんは荷物を持って上階へ向かう。

 勿論、セキュリティの固いマンションだけれど、恵の導きによってスイスイ突破している。気分はスパイ。

「なんか、『高級タワマンに侵入せよ!』ってミッションをこなしてるみたいですよね」

「……そうか? 俺は普通に涼の家に来てる気分なんだが。……朱里の頭の中は、いつも楽しそうだな」

 尊さんに言われ、私はスパイ映画でお馴染みの、「ダン、ダン、ダンダン、ダン、ダン、ダンダン♪」というメロディーを口ずさむ。

「天井からワイヤーで吊り下げられるの、格好いいですよね。やってみたい。でも体幹良くないとできないのかな」

「……朱里の場合、赤外線センサーもすぐ引っ掛かるだろ」

「そりゃ運動神経は良くないですけどー」

 ぶー、と膨れると、尊さんはモゴモゴと言いにくそうに言う。

「……いや、胸がセンサーに引っ掛かったり、ワイヤーから落下しそうになって床ギリギリで止まっても、胸でアウト」

「もーっ!」

 私は両手に荷物を持ったまま、ズンズンと尊さんを壁際に追い詰め、グイグイと胸を押しつける。

「これか、これなんかぁ? ホレホレ」

「セクハラジジイみたいな事、やめろよ」

 エレベーターの中で、乳に迫られた尊さんが悲鳴に似た声を上げるという地獄絵図が繰り広げられる。

 そんな中ゴンドラは涼さんが住むフロアに着き、チーンと電子音が鳴ってドアが開く。

「…………何やってんの」

 ドアが開いた向こうには恵が立っていて、呆れた顔で私たちを見ている。

「友よ~!」

「ノン、シャワーを浴びたから、いくら朱里でも汗だくは受け付けない」

 恵に体当たりでスリスリしようとしたら、スッと身を躱されてしまった。くそう。

「まぁ、上がってどうぞ。……家主じゃないけど」

 恵はそう言って玄関のドアを開き、私たちを中へいざなう。

「おじゃましまーす」

 私たちは相変わらず広い涼さんの家に入る。

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