部長と私の秘め事

歓迎会

 そして週末、私は仕事を終えたあと、尊さんと別れて笹島さんとエミリさんと一緒に、丸の内にある肉ビストロのお店へ行った。

 コース料理と食べ放題らしく、お肉が食べられるのは嬉しいけれど、控えめに目立たないように食事をしようと決めた。

 お店はビルの一階にあり、テラス席もあってお洒落だ。

 秘書課は総務本部の中に属していて、社長秘書二名、副社長秘書二名、専務担当二名、常務担当三名、役員担当共通秘書が三名、庶務・受付担当が一名。

 さらに課長と課長補佐の、合計十五名だ。

 エミリさんの相棒とも言える人は、五十代のベテラン男性秘書で、亘さんの時代から社長秘書を担当していたそうだ。

 個室もあるお店だけど、十五名は入らないらしく、普通のホール席を予約してある。





「どうも~。お疲れ様です」

 エミリさんは、かつてバチバチにやり合った人たちを前に、明るく挨拶する。

 この強さに憧れる。

 私はその隣でペコリと頭を下げた。

 まだ全員は集まっていないけれど、今の所、女性六割、男性四割という感じだ。

 課長は四十代後半のベテラン男性で、課長補佐も三十代後半の家庭持ちの女性。

 その辺は問題なさそうだけれど、他の秘書たちが厄介そうだ。

 事前にエミリさんから教えてもらったけれど、やっぱり役職が上の人の秘書になりたいという欲があるみたいで、みんな物凄く上昇志向が強いらしい。

 あわよくば仕事を経て経営者、役員クラスの人と出会って結婚したいと思っているようで、〝できる女〟は〝使える〟と見なすけど、ライバルでもあるみたいだ。

 それ以前に、仕事ができない女は存在する価値もないと思っている、実力主義の塊だ。

 私はエミリさんの隣――角の席に座り、笹島さんは私の向かいに座る。

 彼自身の意思でもあるし、尊さんに『何かあったら朱里を頼む』と言われているのもある。

 エミリさんの向かいには、諸岡孝雄(もろおかたかお)さんという、相棒の社長秘書の男性が座った。

 これで安心……、のはず。

 オセロなら角をとった状態だ。

 予約時間になる前には全員が揃い、飲み物が運ばれたあとに乾杯した。

「笹島さん、ようこそ秘書課へ! そして遅くなっちゃったけど、上村さんもようこそ」

 乾杯の音頭をとったのは、専務秘書の鏑木明日香(かぶらぎあすか)さんだ。

 エミリさんが言うには、彼女を中心として、ちょっと面倒な人間関係が構築されているとか。

『基本的に何を言われても感情的にならず、淡々と流していればOK』

 と言っていた。

 過去はエミリさん自身がターゲットになって、色んな事をされていただろうに、今は私が二の舞を演じないように、あらかじめ忠告してくれるの、本当にありがたい。

 年齢は少ししか変わらないけれど、本当に〝頼れるお姉さん〟という感じだ。

(笹島さんの〝ついで〟でも、まぁしょうがないか。秘書になりたての頃は環境が変わってバタバタしていて、『歓迎会を開いてほしい』って考えてなかったし。笹島さんと扱いの差があるのはモヤるけど、私が秘書になりたての時期はもう過ぎたんだから、ゴチャゴチャ考えても仕方がない)

 私は自分に言い聞かせ、前菜を食べ始める。

 さり気なく周りのテーブルを見ると、肉、肉、お肉様ばっかりで、満足度が高そうなお店なので、今度恵と一緒に来ようと決めた。

 鏑木さんを中心として、女性陣は笹島さんに前の職場はどこだっかとか、家族構成とか、趣味とか色々聞いている。

 笹島さんは四十代半ばにしてはシュッとしていて素敵な人だけれど、明らかにご家庭を持っていると分かるだろうに、そこまで突っ込んで聞くものなんだろうか。

 彼は食事をしつつ、淡々と「妻と二人の子供がいます」と答え、乾杯する時もウーロン茶で徹底している。

 まだ一緒に仕事をして日が浅いけれど、自分に課したルーティンをきちんと守れる人って、信頼度が高い。

(多分『この人はこういう行動をとるんだろうな』って予想して、安心できるからかな。ムラっ気のある人って、何をするか分からないし)

 私はそんな事を思いながらも、近くの席にいるエミリさんや諸岡さんと話し、ご飯を食べ進めていた。

 その時――。

「ねぇ、上村さんは副社長秘書になったけど、ちゃんとやれてるの?」

 鏑木さんが話題を振ってきた。

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