部長と私の秘め事
「慣れない業務ですが、事前に丸木さんからご師事を受けて何とかやれています。今はベテランの笹島さんに助けていただいています」
「そうだよね~。もともと他部署にいたんだし、最初から上手くやれる訳がないよね。まぁ、どうしていきなり副社長秘書に抜擢されたかは置いといて、今はずっと秘書をやっていたベテランの笹島さんがいるから、頼りにすればいいんじゃない?」
「そうですね」
私は内心で顔を引きつらせながら、表向きは笑顔で受け流す。
(あぁ~……。こういう感じか……)
私は生ハムを口に入れ、続けて話しかけられないよう、ゆっくり咀嚼する。
なるべく我慢してやり過ごそうと思っていたけれど、笹島さんが口を開いた。
「失礼ですが、私の目から見て、上村さんは秘書業に順応していると思います。丸木さんから事前に渡されたという、秘書業についての資料は非常によくできた物でしたし、上村さんはそれを熟読して実行しています。分からないところは溜め込まずに素直に聞き、トラブルを回避できていますし、覚えが早いです。パートナーとして非常に安心感がありますね。まだ若くて成長株ですから、将来的にはもっと頼れる秘書となるでしょう」
笹島さんがそこまで評価してくれていると思わず、私はジーンとする。
鏑木さんは、私の事を〝他部署から来て仕事のできない奴〟として、みんなの前で馬鹿にしようとしただろうけど、にっこり笑って「そうなんですね~」と言っている。
ただし、目が笑っていなくて非常に恐い。
若い男性秘書は、気の毒そうな目でこちらを見ている。
多分彼女たち、女性の新顔が来るたびに同じ事をしているんだろう。
本当の意味での新人だったら優しく接するんだろうけど、先輩である自分たちを追い越せば、〝生意気な敵〟判定して容赦のない攻撃をするのだろう。
鏑木さんの〝口撃〟は一旦収まったかと思ったけれど、シーザーサラダ、ピザ、アヒージョを食べたあと、ステーキが出て幸せ一杯に頬張っている時に〝次〟がきた。
「結局、上村さんが副社長秘書になったのって、篠宮副社長とデキてるからなの? 枕?」
ど直球な事を言われ、私は少し噎せたあと、慌ててサングリアを飲む。
(あーあ。せっかく美味しいお肉なのに……)
私が溜め息をついた時、エミリさんが助け船を出してくれた。
「憶測でものを言わないほうがいいんじゃない? 過去にも上村さんに嫉妬した挙げ句、処分された人がいたけど……。優秀な鏑木さんなら、そんな事になる言動をしないわよね?」
さすが、強い。
「やりすぎたら、処分された前例がいるぞ」と脅した上で、「鏑木さんは優秀だから、まさかそんな馬鹿な事しないよね?」と考えの修正を促している。
「別に上村さんを侮辱する気はないけど、正直、みんなが思っている事だと思うよ? だから代表して聞いたんじゃない。多少失礼かもしれないのは認めるし、謝るけど、私たちとしても、真剣に仕事をやっているのに、『付き合っているから秘書にする』なんて特例を認めたくないの」
言葉に険はあるけれど、彼女の言いたい事は一理ある。
野心があろうがどうだろうが、真面目に仕事をしているのに、正規のルートを歩まずポーンと副社長秘書になった私を「ずるい」と感じるのは仕方ない。
私は口の中の物を嚥下したあと、鏑木さんたちをまっすぐ見て答えた。
「そう思わせてしまった事に関しては謝罪いたします。確かに私は副社長とお付き合いしていますし、結婚の予定もあります。少し前まで副社長は〝速水部長〟として商品開発部にいましたが、元経理部長や元社長に関する事件については、鏑木さんたちもご存知と思います」
彼女たちは面白くない顔ながらも、頷いた。
「私たちは商品開発部時代からお付き合いし、将来結婚するなら、どちらかが会社を辞めるとかではなく、公私共に支え合うパートナーとなる事を決めました。世間でもそのような関係になっている人は珍しくないと思います」
私は一呼吸置いてから、続きを言う。
「勿論、職場結婚と聞いたら色んな想像をする人がいるでしょうし、鏑木さんたちのように、私が特別扱いを受けたように思えて、面白くなく思う方々がいるのも承知の上です。私たちからしたら将来を見越した選択であっても、第三者から見れば、単なる贔屓に感じられるのは仕方ありません。……でも、恋愛の延長でやっているのではないと、今後仕事ぶりを通じて理解していただきたいと思っています」
私はテーブルの下でスカートの生地をギュッと握り、続ける。
「商品開発部時代から、私は仕事に真面目に取り組んできました。副社長とお付き合いしているとしても、仕事に私情は持ち込みませんし、皆さんの足を引っ張る行為はしないと誓います」
言い切ったあと、笹島さんが静かに告げた。
「私は良くも悪くも、仕事人間です。副社長と上村さんが仕事に私情を持ち込むようなら、忌憚なく意見を申し上げます。ですが今のところ、その兆候はありません。今後も上村さんのパートナーとして働きながらも、秘書課の代表として目を光らせます。それではいけませんか?」
そう言われた鏑木さんは、お仲間たちとチラチラと視線を交わし合う。
「そうだよね~。もともと他部署にいたんだし、最初から上手くやれる訳がないよね。まぁ、どうしていきなり副社長秘書に抜擢されたかは置いといて、今はずっと秘書をやっていたベテランの笹島さんがいるから、頼りにすればいいんじゃない?」
「そうですね」
私は内心で顔を引きつらせながら、表向きは笑顔で受け流す。
(あぁ~……。こういう感じか……)
私は生ハムを口に入れ、続けて話しかけられないよう、ゆっくり咀嚼する。
なるべく我慢してやり過ごそうと思っていたけれど、笹島さんが口を開いた。
「失礼ですが、私の目から見て、上村さんは秘書業に順応していると思います。丸木さんから事前に渡されたという、秘書業についての資料は非常によくできた物でしたし、上村さんはそれを熟読して実行しています。分からないところは溜め込まずに素直に聞き、トラブルを回避できていますし、覚えが早いです。パートナーとして非常に安心感がありますね。まだ若くて成長株ですから、将来的にはもっと頼れる秘書となるでしょう」
笹島さんがそこまで評価してくれていると思わず、私はジーンとする。
鏑木さんは、私の事を〝他部署から来て仕事のできない奴〟として、みんなの前で馬鹿にしようとしただろうけど、にっこり笑って「そうなんですね~」と言っている。
ただし、目が笑っていなくて非常に恐い。
若い男性秘書は、気の毒そうな目でこちらを見ている。
多分彼女たち、女性の新顔が来るたびに同じ事をしているんだろう。
本当の意味での新人だったら優しく接するんだろうけど、先輩である自分たちを追い越せば、〝生意気な敵〟判定して容赦のない攻撃をするのだろう。
鏑木さんの〝口撃〟は一旦収まったかと思ったけれど、シーザーサラダ、ピザ、アヒージョを食べたあと、ステーキが出て幸せ一杯に頬張っている時に〝次〟がきた。
「結局、上村さんが副社長秘書になったのって、篠宮副社長とデキてるからなの? 枕?」
ど直球な事を言われ、私は少し噎せたあと、慌ててサングリアを飲む。
(あーあ。せっかく美味しいお肉なのに……)
私が溜め息をついた時、エミリさんが助け船を出してくれた。
「憶測でものを言わないほうがいいんじゃない? 過去にも上村さんに嫉妬した挙げ句、処分された人がいたけど……。優秀な鏑木さんなら、そんな事になる言動をしないわよね?」
さすが、強い。
「やりすぎたら、処分された前例がいるぞ」と脅した上で、「鏑木さんは優秀だから、まさかそんな馬鹿な事しないよね?」と考えの修正を促している。
「別に上村さんを侮辱する気はないけど、正直、みんなが思っている事だと思うよ? だから代表して聞いたんじゃない。多少失礼かもしれないのは認めるし、謝るけど、私たちとしても、真剣に仕事をやっているのに、『付き合っているから秘書にする』なんて特例を認めたくないの」
言葉に険はあるけれど、彼女の言いたい事は一理ある。
野心があろうがどうだろうが、真面目に仕事をしているのに、正規のルートを歩まずポーンと副社長秘書になった私を「ずるい」と感じるのは仕方ない。
私は口の中の物を嚥下したあと、鏑木さんたちをまっすぐ見て答えた。
「そう思わせてしまった事に関しては謝罪いたします。確かに私は副社長とお付き合いしていますし、結婚の予定もあります。少し前まで副社長は〝速水部長〟として商品開発部にいましたが、元経理部長や元社長に関する事件については、鏑木さんたちもご存知と思います」
彼女たちは面白くない顔ながらも、頷いた。
「私たちは商品開発部時代からお付き合いし、将来結婚するなら、どちらかが会社を辞めるとかではなく、公私共に支え合うパートナーとなる事を決めました。世間でもそのような関係になっている人は珍しくないと思います」
私は一呼吸置いてから、続きを言う。
「勿論、職場結婚と聞いたら色んな想像をする人がいるでしょうし、鏑木さんたちのように、私が特別扱いを受けたように思えて、面白くなく思う方々がいるのも承知の上です。私たちからしたら将来を見越した選択であっても、第三者から見れば、単なる贔屓に感じられるのは仕方ありません。……でも、恋愛の延長でやっているのではないと、今後仕事ぶりを通じて理解していただきたいと思っています」
私はテーブルの下でスカートの生地をギュッと握り、続ける。
「商品開発部時代から、私は仕事に真面目に取り組んできました。副社長とお付き合いしているとしても、仕事に私情は持ち込みませんし、皆さんの足を引っ張る行為はしないと誓います」
言い切ったあと、笹島さんが静かに告げた。
「私は良くも悪くも、仕事人間です。副社長と上村さんが仕事に私情を持ち込むようなら、忌憚なく意見を申し上げます。ですが今のところ、その兆候はありません。今後も上村さんのパートナーとして働きながらも、秘書課の代表として目を光らせます。それではいけませんか?」
そう言われた鏑木さんは、お仲間たちとチラチラと視線を交わし合う。