部長と私の秘め事
「……それなら別にいいですけど……」
鏑木さんが面白くなさそうに言った時、事を静観していた諸岡さんが言った。
「それでは今の上村さんに対する、度を過ぎた言動は、一旦私たちが預かっておきますね。〝報告〟されないように気をつけてください。……上村さんに嫉妬されるのはご自由ですが、会社が誰を秘書にするかは自由です。外部から優秀な若者が採用される事もありますし、篠宮ホールディングスは実力さえあれば若手であっても〝上〟へのし上がれます。会社が決めた事を、いくら秘書課の古株であっても、個人の感情でとやかく言う権利はありません。鏑木さん達こそ、仕事と私情を混同しないようにお願いします」
「な……っ」
彼女たちはカァッと赤面し、諸岡さんを睨み付ける。
「そうそう。頼れる〝古株〟なんだから、どんな事があっても泰然自若としていないと。気に食わない事があったら、集団で吊るし上げる考えとか、ハッキリ言って頭の悪い学生の考えだし。……まぁ、今の若い子ってもっと世渡りが上手いから、子供でもそんな事しないかもだけどね? ……まさか、優秀な鏑木さん達は、そういう事をしないよねー?」
エミリさんがニッコリ笑い、彼女たちは顔を引きつらせていた。
そのあと、鏑木さん達は私たちを無視し、自分たちで盛り上がって食事を続けていた。
「何とか〝洗礼〟を抜けきったみたいね。上村さんの毅然とした対応も良かったし、あっちがボロを出したから、こっちも弱みを握れたしね」
そう言ってエミリさんは悪い顔をし、テーブルの上に置いてあったスマホをトンとタップし、録音を終える。
「おお……」
「これぐらいやっておかないとね。相手のボロを引き出して、こっちの武器にするのもアリよ。煽れば煽るほど『ギャーッ』って騒ぐから面白いし」
「……マジ、丸木さんリスペクトします」
「あはは、伊達に修羅場くぐってないから」
明るく言った彼女の言葉を聞き、私はサングリアを飲んでから尋ねる。
「修羅場ってやっぱり、秘書課の方々とか、怜香さんとの……?」
今まであまりエミリさんの個人的な話を聞いておらず、本人も話そうとしなかったので、触れずにおいた。
でも今ならちょっとだけ聞いてみてもいいかな、と感じられた。
彼女は赤ワインを飲んで微笑む。
「私、毒親育ちなの。今はすっごいふてぶてしい、嫌な女にできあがってるけど、学生時代は周りの顔色を窺ってばかりの子供だったわ。……就職してから彼と出会って、救ってもらった。……鈍感だしちょっと気の利かない男だけど、私にとってはヒーローなの。……それで今は、実家とは絶縁して楽しくやれてるわ」
ニコッと笑ったエミリさんの告白を聞き、私は言葉を探して黙る。
「ごめんごめん! 絶対そういう顔をさせてしまうから、今まで言うのを控えていたんだけど。……なんかこういう話をしたら、不幸自慢大会が始まっちゃうじゃない? 女子会の時は楽しい話題で盛り上がりたいし、話す必要はないかな? と思って」
「春日さんは知ってますか?」
「うーん、あの人意外とグイグイ来るから話したけど、『ハナクソみたいな親っているわよね!』って言ってた」
春日さんらしい言い方に、私は思わず笑う。
「そのあと、『クソはどう足掻いてもクソで変われないから、こっちが環境を変えるほうが大事!』って言ってたわね。……さすがにお嬢様だから、言葉遣いを注意しておいたけど」
「ほんっと、春日さんったら……」
私はケラケラ笑い、今度は楽しい気持ちでお肉を食べる。
しっかり咀嚼して嚥下したあと、「あ」と思って付け加える。
「エミリさんはまったく〝嫌な女〟じゃないですからね? 自立していて格好いい、頼れる素敵な女性です」
「……ありがと」
そのあと、エミリさんと諸岡さんがとても仲が良くて、風磨さん、諸岡さんの奥さんも交えて〝お酒同好会〟をやっている事も教えてくれた。
エミリさんと諸岡夫妻は酒豪らしく、風磨さんは雰囲気を楽しんでいるだけとか。
怜香さんの悪口で盛り上がった事も数知れないと聞き、私はエミリさんに味方がいた事に安堵した。
彼女と仲よくなったのはごく最近だけれど、それ以前は風磨さんの恋人で秘書という事で、今の私みたいに秘書課の人たちから攻撃されていただろうし、何より怜香さんという大ボスも現役だった。
ご家族と仲が良くない以上、頼れるのは友人や恋人になる。
諸岡さんは社員である以上、怜香さんに強く出られなかっただろうけど、父親みたいな感覚でエミリさんを気に掛け、息抜きをさせてくれたんだと思う。
会社って色んな人がいて、人の足を引っ張ろうとする人や、ちょっと対応に困る人もいるけど、いい人たちも大勢いる。
(『色んな人と出会って、味方を沢山作っていけたら人生安泰』か……)
いつだったか尊さんが言っていたのを思いだし、私は微笑む。
そのあと、牛すじカレーがラストに出て、デザートを食べたあとに解散となった。
**
鏑木さんが面白くなさそうに言った時、事を静観していた諸岡さんが言った。
「それでは今の上村さんに対する、度を過ぎた言動は、一旦私たちが預かっておきますね。〝報告〟されないように気をつけてください。……上村さんに嫉妬されるのはご自由ですが、会社が誰を秘書にするかは自由です。外部から優秀な若者が採用される事もありますし、篠宮ホールディングスは実力さえあれば若手であっても〝上〟へのし上がれます。会社が決めた事を、いくら秘書課の古株であっても、個人の感情でとやかく言う権利はありません。鏑木さん達こそ、仕事と私情を混同しないようにお願いします」
「な……っ」
彼女たちはカァッと赤面し、諸岡さんを睨み付ける。
「そうそう。頼れる〝古株〟なんだから、どんな事があっても泰然自若としていないと。気に食わない事があったら、集団で吊るし上げる考えとか、ハッキリ言って頭の悪い学生の考えだし。……まぁ、今の若い子ってもっと世渡りが上手いから、子供でもそんな事しないかもだけどね? ……まさか、優秀な鏑木さん達は、そういう事をしないよねー?」
エミリさんがニッコリ笑い、彼女たちは顔を引きつらせていた。
そのあと、鏑木さん達は私たちを無視し、自分たちで盛り上がって食事を続けていた。
「何とか〝洗礼〟を抜けきったみたいね。上村さんの毅然とした対応も良かったし、あっちがボロを出したから、こっちも弱みを握れたしね」
そう言ってエミリさんは悪い顔をし、テーブルの上に置いてあったスマホをトンとタップし、録音を終える。
「おお……」
「これぐらいやっておかないとね。相手のボロを引き出して、こっちの武器にするのもアリよ。煽れば煽るほど『ギャーッ』って騒ぐから面白いし」
「……マジ、丸木さんリスペクトします」
「あはは、伊達に修羅場くぐってないから」
明るく言った彼女の言葉を聞き、私はサングリアを飲んでから尋ねる。
「修羅場ってやっぱり、秘書課の方々とか、怜香さんとの……?」
今まであまりエミリさんの個人的な話を聞いておらず、本人も話そうとしなかったので、触れずにおいた。
でも今ならちょっとだけ聞いてみてもいいかな、と感じられた。
彼女は赤ワインを飲んで微笑む。
「私、毒親育ちなの。今はすっごいふてぶてしい、嫌な女にできあがってるけど、学生時代は周りの顔色を窺ってばかりの子供だったわ。……就職してから彼と出会って、救ってもらった。……鈍感だしちょっと気の利かない男だけど、私にとってはヒーローなの。……それで今は、実家とは絶縁して楽しくやれてるわ」
ニコッと笑ったエミリさんの告白を聞き、私は言葉を探して黙る。
「ごめんごめん! 絶対そういう顔をさせてしまうから、今まで言うのを控えていたんだけど。……なんかこういう話をしたら、不幸自慢大会が始まっちゃうじゃない? 女子会の時は楽しい話題で盛り上がりたいし、話す必要はないかな? と思って」
「春日さんは知ってますか?」
「うーん、あの人意外とグイグイ来るから話したけど、『ハナクソみたいな親っているわよね!』って言ってた」
春日さんらしい言い方に、私は思わず笑う。
「そのあと、『クソはどう足掻いてもクソで変われないから、こっちが環境を変えるほうが大事!』って言ってたわね。……さすがにお嬢様だから、言葉遣いを注意しておいたけど」
「ほんっと、春日さんったら……」
私はケラケラ笑い、今度は楽しい気持ちでお肉を食べる。
しっかり咀嚼して嚥下したあと、「あ」と思って付け加える。
「エミリさんはまったく〝嫌な女〟じゃないですからね? 自立していて格好いい、頼れる素敵な女性です」
「……ありがと」
そのあと、エミリさんと諸岡さんがとても仲が良くて、風磨さん、諸岡さんの奥さんも交えて〝お酒同好会〟をやっている事も教えてくれた。
エミリさんと諸岡夫妻は酒豪らしく、風磨さんは雰囲気を楽しんでいるだけとか。
怜香さんの悪口で盛り上がった事も数知れないと聞き、私はエミリさんに味方がいた事に安堵した。
彼女と仲よくなったのはごく最近だけれど、それ以前は風磨さんの恋人で秘書という事で、今の私みたいに秘書課の人たちから攻撃されていただろうし、何より怜香さんという大ボスも現役だった。
ご家族と仲が良くない以上、頼れるのは友人や恋人になる。
諸岡さんは社員である以上、怜香さんに強く出られなかっただろうけど、父親みたいな感覚でエミリさんを気に掛け、息抜きをさせてくれたんだと思う。
会社って色んな人がいて、人の足を引っ張ろうとする人や、ちょっと対応に困る人もいるけど、いい人たちも大勢いる。
(『色んな人と出会って、味方を沢山作っていけたら人生安泰』か……)
いつだったか尊さんが言っていたのを思いだし、私は微笑む。
そのあと、牛すじカレーがラストに出て、デザートを食べたあとに解散となった。
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