部長と私の秘め事
私は彼の手をどうする事もなく、尊さんを意識したまま、シャクシャクとアイスを囓っていた。
(思って見れば、イチャイチャはしていたけど、ちゃんとするのって軽井沢の時以来だ)
そう思うと、物凄い罪悪感が襲ってくる。
ケアンズの時も今回の旅行でも、手で、とか素股で、とかはしたけれど、結局挿入はしないままだった。
尊さんも色々考えての事だろうと思うけれど、申し訳ない事をした。
(ムラムラを解放するのは私の責任だ)
うん、と頷いた私はアイスの棒を袋の中に入れ、ピトッと尊さんにくっついた。
**
その晩、軽井沢ぶりに尊さんに深く愛された私は、身も心も彼で一杯になり、幸せのまっただ中にいた。
行為が終わったあとにベッドのヘッドボードにもたれかかってお水を飲んでいると、尊さんは全裸のままシャワールームへ向かった。
「俺、ちょっとシャワー入ってくる。先に寝ててもいいぞ」
「ふぁい……」
返事をした私は時計を見て時間を確認し、欠伸をする。
少ししてからシャワーの水音が聞こえ、私はしばしばと目を瞬かせる。
エッチすると疲れるけれど、満たされた感が凄い。
尊さんと一緒に暮らして、毎日優しくしてもらって、ゴージャスな旅行にも連れて行ってもらって、高額なプレゼントももらっていて。
きっと私は世間の女性から見たら、憧れの生活を送っているように思えるんだろう。
勿論、身に余る光栄だと思っているし、思い出作りもプレゼントも、全部大切にしたい。
でも慣れって恐ろしいもので、満たされた生活を送っていても、美食や高級品に囲まれていても、スペシャルな体験をしても、その向こうにある尊さんの気持ちを確認したくなる。
彼が私に飽きるなんてないと信じているけれど、結局は自分に自信がないから「本当に愛されているのかな?」と疑ってしまう。
そんな事を言えば、尊さんはさっきみたいに真摯な言葉を向けてくれるだろう。
サイコキラーみたいな事を言えば、相手の〝中身〟を見たって人が何を思っているかなんて一生分からない。
信じるしかないんだ。
こうやって愛してもらえると、不安になっていた気持ちが少し和らぐ。
本当は毎日、浴びるように「愛してる」と言われて、四六時中くっついていたい。
そう思うけれど、現実的に望んでいる訳じゃない。
尊さんの愛を確かめたいというより、自分の不安を必死に埋めようとしているだけなんだ。
(もっと自信を持ちたい)
丁度、秘書課の皆さんから洗礼を受けたばかりだし、本当に自分は副社長秘書としてきちんと働けているか、心の底では心配がある。
なぜか知らないけれど、誰かの優位に立って意地悪をしてくる人って〝正しい〟ように思えてしまう。
自信満々に誰かを責める鏑木さんたちは、自分たちの意見が間違えているとは微塵も思っていないのだろう。
だからその〝正義〟に酔っている彼女たちを前にした私は、「私が悪いんじゃ……」とうろたえてしまう。
自分が百パーセント善人ではないのは分かっているし、人間だから間違える事もある。
可能な限り〝善く〟ありたいと思っているけれど、物事に絶対はない。
父の死だって、昭人の事だって、第三者的な視点では私に非はないと思っているけれど、ほんの僅かに「自分が悪かったのでは……」と思う気持ちがある。
そうやって揺れる気持ちの中で、必死に理性で自分を抑えている。――それが私だ。
だから常に不安と戦っていると言っていいし、尊さんを含めた周りの人がみんないい人だと、「こんな人たちに囲まれていていいのかな? 私は釣り合っているだろうか?」と心配になってしまう。
普段は明るく振る舞っているけれど、極端に自己肯定感が低いから、心の底に満たされない涸れ井戸があるのだと思う。
私はメッセージアプリを開き、恵とのトークルームを開く。
何気ない事で笑いを共有できて、突っ込んだり突っ込まれたりする時も「傷つけてないかな?」と不安にならない数少ない親友だ。
お互い気の置けない存在と思っていても、踏み越えてはならない一線を分かっているので、安心してやりとりできる。
私は恵みたいに人気者じゃないから、友達が少ない事に少し劣等感を抱いている。
でも友達と呼べる人が大勢いたとしても、その全員と心から信頼し合える仲ではない
付き合いだけの友達もいるだろうし、定期的に会う仲の人もいる。
グラデーションみたいになっている信頼関係の中で、「この話題はこの人には言わないでおこう」というのはあると思う。
多分、私と恵は何でも言い合える仲で、エミリさんや春日さんとも、最上位に仲がいいと思っていい。
(もう少し、周りの人を信じよう)
スマホの電源を切って目を閉じると、中学生時代に私を見てクスクス笑っていた女子生徒を思い出す。
(思って見れば、イチャイチャはしていたけど、ちゃんとするのって軽井沢の時以来だ)
そう思うと、物凄い罪悪感が襲ってくる。
ケアンズの時も今回の旅行でも、手で、とか素股で、とかはしたけれど、結局挿入はしないままだった。
尊さんも色々考えての事だろうと思うけれど、申し訳ない事をした。
(ムラムラを解放するのは私の責任だ)
うん、と頷いた私はアイスの棒を袋の中に入れ、ピトッと尊さんにくっついた。
**
その晩、軽井沢ぶりに尊さんに深く愛された私は、身も心も彼で一杯になり、幸せのまっただ中にいた。
行為が終わったあとにベッドのヘッドボードにもたれかかってお水を飲んでいると、尊さんは全裸のままシャワールームへ向かった。
「俺、ちょっとシャワー入ってくる。先に寝ててもいいぞ」
「ふぁい……」
返事をした私は時計を見て時間を確認し、欠伸をする。
少ししてからシャワーの水音が聞こえ、私はしばしばと目を瞬かせる。
エッチすると疲れるけれど、満たされた感が凄い。
尊さんと一緒に暮らして、毎日優しくしてもらって、ゴージャスな旅行にも連れて行ってもらって、高額なプレゼントももらっていて。
きっと私は世間の女性から見たら、憧れの生活を送っているように思えるんだろう。
勿論、身に余る光栄だと思っているし、思い出作りもプレゼントも、全部大切にしたい。
でも慣れって恐ろしいもので、満たされた生活を送っていても、美食や高級品に囲まれていても、スペシャルな体験をしても、その向こうにある尊さんの気持ちを確認したくなる。
彼が私に飽きるなんてないと信じているけれど、結局は自分に自信がないから「本当に愛されているのかな?」と疑ってしまう。
そんな事を言えば、尊さんはさっきみたいに真摯な言葉を向けてくれるだろう。
サイコキラーみたいな事を言えば、相手の〝中身〟を見たって人が何を思っているかなんて一生分からない。
信じるしかないんだ。
こうやって愛してもらえると、不安になっていた気持ちが少し和らぐ。
本当は毎日、浴びるように「愛してる」と言われて、四六時中くっついていたい。
そう思うけれど、現実的に望んでいる訳じゃない。
尊さんの愛を確かめたいというより、自分の不安を必死に埋めようとしているだけなんだ。
(もっと自信を持ちたい)
丁度、秘書課の皆さんから洗礼を受けたばかりだし、本当に自分は副社長秘書としてきちんと働けているか、心の底では心配がある。
なぜか知らないけれど、誰かの優位に立って意地悪をしてくる人って〝正しい〟ように思えてしまう。
自信満々に誰かを責める鏑木さんたちは、自分たちの意見が間違えているとは微塵も思っていないのだろう。
だからその〝正義〟に酔っている彼女たちを前にした私は、「私が悪いんじゃ……」とうろたえてしまう。
自分が百パーセント善人ではないのは分かっているし、人間だから間違える事もある。
可能な限り〝善く〟ありたいと思っているけれど、物事に絶対はない。
父の死だって、昭人の事だって、第三者的な視点では私に非はないと思っているけれど、ほんの僅かに「自分が悪かったのでは……」と思う気持ちがある。
そうやって揺れる気持ちの中で、必死に理性で自分を抑えている。――それが私だ。
だから常に不安と戦っていると言っていいし、尊さんを含めた周りの人がみんないい人だと、「こんな人たちに囲まれていていいのかな? 私は釣り合っているだろうか?」と心配になってしまう。
普段は明るく振る舞っているけれど、極端に自己肯定感が低いから、心の底に満たされない涸れ井戸があるのだと思う。
私はメッセージアプリを開き、恵とのトークルームを開く。
何気ない事で笑いを共有できて、突っ込んだり突っ込まれたりする時も「傷つけてないかな?」と不安にならない数少ない親友だ。
お互い気の置けない存在と思っていても、踏み越えてはならない一線を分かっているので、安心してやりとりできる。
私は恵みたいに人気者じゃないから、友達が少ない事に少し劣等感を抱いている。
でも友達と呼べる人が大勢いたとしても、その全員と心から信頼し合える仲ではない
付き合いだけの友達もいるだろうし、定期的に会う仲の人もいる。
グラデーションみたいになっている信頼関係の中で、「この話題はこの人には言わないでおこう」というのはあると思う。
多分、私と恵は何でも言い合える仲で、エミリさんや春日さんとも、最上位に仲がいいと思っていい。
(もう少し、周りの人を信じよう)
スマホの電源を切って目を閉じると、中学生時代に私を見てクスクス笑っていた女子生徒を思い出す。