部長と私の秘め事
「……何が言いたいかと言うと、そうやって相手の社会的地位などに惑わされず、根の部分を見破るのは、誰にでもできる事じゃない。男の見た目や社会的地位に左右されない、しっかりとした〝軸〟を持っているところも魅力的だ」
彼女はしばらく複雑そうな顔をして黙っていたが、「はぁ……」と溜め息をつく。
「別に私は副社長が思っているような〝珍しくて素晴らしい女性〟ではありませんよ? 先ほども言いましたが、私は毒親育ちで、常に親の顔色を窺って生きてきました。だからある意味副社長と同じで、相手が求めているものが雰囲気で分かってしまうんです。副社長の事を見抜いたのも、自分と同族だと感じたからで、あなたを特別扱いしている訳ではありません」
やはりエミリの言う言葉は遠慮がなく、いちいちグサッとくる。
けれど同時に、俺に対してこれだけ素で接してくれる女性とは、なかなか出会えないと感じていた。
エミリの言う『もっと素敵な女性』は、俺の事を『すごーい』と褒めて、全肯定する女性ではないだろうか。
その言葉の裏に『自分は必要以上に相手をおだてる事はできないから、そういう役割を求めるなら他を当たってほしい』という意味が含まれていそうだが、俺はそんな女性を求めていない。
もしも俺がただチヤホヤする女性を求めていたなら、とっくに結婚していただろう。
そしてそういう女性なら、あの強烈な母の事も全肯定して受け入れたと思う。
でも、俺が求めているのは、母の言いなりになる女性ではない。
きちんと自分の意志を持ち、一人の人間としての個を持つ存在だ。
今まで何人かの女性と付き合ったが母の本性を知っているだけに、女性の欲を言葉の端々、態度などから鋭敏に感じ取ってしまい、長続きしなかった。
どれだけ鉄壁の鎧で〝いい女〟を装っていても、欲を持たないなんてあり得ない。
ネットで目にした【デートでファミレスに連れて行ったらどういう態度をとるか】論争の試し行動ではないが、『もしも俺が篠宮家の御曹司でなくなったら、彼女たちは俺のもとに残っていてくれるだろうか?』と頻繁に考えた。
元カノとのデートコースは高級レストランや映画館、美術館に博物館、温泉旅行や海外旅行もしたし、判を押したようなハイスペックデートだ。
それなりに思い出は作れたが、楽しそうにはしゃいでプレゼントを受け取っては『ありがとう』と満面の笑みを浮かべる元カノを見て、『俺に金がなかったら、この娘はどんな反応をするんだろう』と想像した。
元カノは常に俺に対して〝いい女〟であろうとしてくれたから、決して嫌な面を見せなかった。
恋人なのに俺の前で愚痴一つ言わず、常にニコニコしている元カノを思い出すと、まるで人形のように思えた。
相手だっていい結婚相手を必死に捕まえようとしているのに、そんな言い方をするのは失礼だと分かっている。
でも俺は、俺に対してきちんと喜怒哀楽を示してくれる人が良かった。
そのほうが、『ちゃんと人間として接してくれている』と思えるからだ。
『機嫌を損ねたらハイスペック男性を失ってしまう』という思いありきで俺に意見を言えないなら、対等な関係とは言えない。
すぐ側に母という〝外面はいいが敵認定した者には鬼のような振る舞いをする〟女性がいるため、本心を隠していそうな女性を前にすると、心が安らぐどころではなかった。
かといって、本当に信じられる人を見分ける方法なんてない。
けれど少なくとも、自分のいい面しか見せない相手は嫌だと思っていた。
だからエミリに遠慮なくズバッと言われて、強く惹かれたのだ。
『丸木さんにどう言われても、俺は君が好きだよ。もう決めたから』
微笑むと、彼女は『っっはぁー……』と溜め息をついて前髪を掻き上げた。
『他人の想い決める権利はないので、副社長がどう思おうが自由です。でも業務中はそういうの、やめてくださいね。私は会社に働きに行ってるのであって、彼氏を見つけに入社した訳じゃありません。ただでさえ副社長秘書に抜擢されて秘書課での風当たりが強いのに、変な噂が経って迷惑を被るのは避けたいです』
『公私はきちんと区別をつけるよ。……でも、今後もプライベートでならデートに誘ってもいい?』
諦めずにニコッと笑いかけると、エミリは心底嫌そうな顔をした。
『……今、かなり婉曲に断ったんですが、もしかして通じてませんでしたか?』
『通じてるけど、ここで遠慮しても意味がないから』
そう返事をすると、エミリはまた溜め息をついた。
『副社長って温厚そうでいて、結構頑固ですよね』
『自分でもそう思うよ。環境に合わせて柔軟な態度をとってきたけど、譲ってはいけない部分は分かっているつもりなんだ』
彼女は何度目になるか分からない溜め息をつき、頷いた。
『一度断られただけじゃ、諦めきれないのは理解しました。その気持ちは受け取ります』
『ありがとう』
進展があったと思った俺は、ホッとして笑いかける。
『エミリって呼んでもいいかい?』
彼女はしばらく複雑そうな顔をして黙っていたが、「はぁ……」と溜め息をつく。
「別に私は副社長が思っているような〝珍しくて素晴らしい女性〟ではありませんよ? 先ほども言いましたが、私は毒親育ちで、常に親の顔色を窺って生きてきました。だからある意味副社長と同じで、相手が求めているものが雰囲気で分かってしまうんです。副社長の事を見抜いたのも、自分と同族だと感じたからで、あなたを特別扱いしている訳ではありません」
やはりエミリの言う言葉は遠慮がなく、いちいちグサッとくる。
けれど同時に、俺に対してこれだけ素で接してくれる女性とは、なかなか出会えないと感じていた。
エミリの言う『もっと素敵な女性』は、俺の事を『すごーい』と褒めて、全肯定する女性ではないだろうか。
その言葉の裏に『自分は必要以上に相手をおだてる事はできないから、そういう役割を求めるなら他を当たってほしい』という意味が含まれていそうだが、俺はそんな女性を求めていない。
もしも俺がただチヤホヤする女性を求めていたなら、とっくに結婚していただろう。
そしてそういう女性なら、あの強烈な母の事も全肯定して受け入れたと思う。
でも、俺が求めているのは、母の言いなりになる女性ではない。
きちんと自分の意志を持ち、一人の人間としての個を持つ存在だ。
今まで何人かの女性と付き合ったが母の本性を知っているだけに、女性の欲を言葉の端々、態度などから鋭敏に感じ取ってしまい、長続きしなかった。
どれだけ鉄壁の鎧で〝いい女〟を装っていても、欲を持たないなんてあり得ない。
ネットで目にした【デートでファミレスに連れて行ったらどういう態度をとるか】論争の試し行動ではないが、『もしも俺が篠宮家の御曹司でなくなったら、彼女たちは俺のもとに残っていてくれるだろうか?』と頻繁に考えた。
元カノとのデートコースは高級レストランや映画館、美術館に博物館、温泉旅行や海外旅行もしたし、判を押したようなハイスペックデートだ。
それなりに思い出は作れたが、楽しそうにはしゃいでプレゼントを受け取っては『ありがとう』と満面の笑みを浮かべる元カノを見て、『俺に金がなかったら、この娘はどんな反応をするんだろう』と想像した。
元カノは常に俺に対して〝いい女〟であろうとしてくれたから、決して嫌な面を見せなかった。
恋人なのに俺の前で愚痴一つ言わず、常にニコニコしている元カノを思い出すと、まるで人形のように思えた。
相手だっていい結婚相手を必死に捕まえようとしているのに、そんな言い方をするのは失礼だと分かっている。
でも俺は、俺に対してきちんと喜怒哀楽を示してくれる人が良かった。
そのほうが、『ちゃんと人間として接してくれている』と思えるからだ。
『機嫌を損ねたらハイスペック男性を失ってしまう』という思いありきで俺に意見を言えないなら、対等な関係とは言えない。
すぐ側に母という〝外面はいいが敵認定した者には鬼のような振る舞いをする〟女性がいるため、本心を隠していそうな女性を前にすると、心が安らぐどころではなかった。
かといって、本当に信じられる人を見分ける方法なんてない。
けれど少なくとも、自分のいい面しか見せない相手は嫌だと思っていた。
だからエミリに遠慮なくズバッと言われて、強く惹かれたのだ。
『丸木さんにどう言われても、俺は君が好きだよ。もう決めたから』
微笑むと、彼女は『っっはぁー……』と溜め息をついて前髪を掻き上げた。
『他人の想い決める権利はないので、副社長がどう思おうが自由です。でも業務中はそういうの、やめてくださいね。私は会社に働きに行ってるのであって、彼氏を見つけに入社した訳じゃありません。ただでさえ副社長秘書に抜擢されて秘書課での風当たりが強いのに、変な噂が経って迷惑を被るのは避けたいです』
『公私はきちんと区別をつけるよ。……でも、今後もプライベートでならデートに誘ってもいい?』
諦めずにニコッと笑いかけると、エミリは心底嫌そうな顔をした。
『……今、かなり婉曲に断ったんですが、もしかして通じてませんでしたか?』
『通じてるけど、ここで遠慮しても意味がないから』
そう返事をすると、エミリはまた溜め息をついた。
『副社長って温厚そうでいて、結構頑固ですよね』
『自分でもそう思うよ。環境に合わせて柔軟な態度をとってきたけど、譲ってはいけない部分は分かっているつもりなんだ』
彼女は何度目になるか分からない溜め息をつき、頷いた。
『一度断られただけじゃ、諦めきれないのは理解しました。その気持ちは受け取ります』
『ありがとう』
進展があったと思った俺は、ホッとして笑いかける。
『エミリって呼んでもいいかい?』