部長と私の秘め事
『無理じゃないよ。じゃあ、エミリがデートプランを考えて? 君の事を知る一環として、楽しませてもらうから』
『あー……、そうきましたか。上手いですね……』
エミリはうんうんと頷き、『分かりました』と根を上げた。
『でもまだ、〝お付き合い〟じゃないですからね。〝一緒に遊ぶ〟んだと思ってください』
『分かったよ。エミリのガードは堅いから、少しずつ攻略させてもらう。RPGゲームも好きだから、コツコツ経験値稼ぎとかは好きなんだ』
ニコッと笑うと、彼女は視線を逸らして照れ隠しをしつつ言う。
『……その次は、篠宮さんが立てたプランに付き合ってもいいですけど』
『やった! ……っていうか、エミリってツンデレ属性なんだね。俺、二次元だとおっとりお姉さんタイプが好きなんだけど、やっぱり実際好きになる人は違うなぁ……』
『……篠宮さんって、結構オタクですか?』
『まぁ、幼少期から抑圧された男は、太陽のもとでストレス発散ってならないよね……』
『全員がそうじゃないでしょう』
『オタクは嫌い?』
『付き合った事はないですけど、……まぁ、付き合ってみないと何とも言えませんね。偏見は持っていないつもりです』
『良かった。……確かに俺とエミリは趣味が正反対だけど、お互い強制しないように気をつけつつ、相手が大事にしているものを知っていくのもアリだと思う』
『そうですね。それについては賛成です』
『じゃあ、いつ遊べるかスケジュール立てようか』
『分かりました』
そうやって、幸いにも俺はエミリに一目惚れしたその日に、一回目のデートの約束をとりつける事ができたのだった。
後日、俺は早朝に車でエミリを迎えに行き、そのまま東海道を進み、那須ICを使って那須高原にある屋外アスレチック『OSARU』へ着いた。
本心としては一泊したいところだが、まだ〝一緒に遊びに行く友達〟なので、変な下心を見せてはいけない。
アスレチックとの事で、服装はTシャツに伸縮性のあるパンツ、スニーカー姿で望む。
いつもは女性とデートする時は、清潔感がありながらも高級感やお洒落さを忘れないファッションだったので、初手から変な気持ちだ。
エミリも半袖Tシャツにグレーのスウェットにスニーカー、ヘルメット着用のため、髪は二つ縛りにしていてやる気満々だ。
受付を済ませると、ハーネスやヘルメットを装着し、スタッフから器具の使い方などをしっかりレクチャーされる。
高さ十メートルもある場所で、不安定な足場を渡っていくので、ずっと命綱に守られているとはいえ、万が一の事があっては困る。
自然に囲まれた中、スタッフの説明を受けている俺は、とても懐かしい気持ちになった。
ずっと都会で過ごしていて、こんなデートを求める女性は今までいなかった。
森の中にいるなんて、学生時代の課外授業以来に思える。
飯盒でご飯を炊いて、カレーを作って、キャンプファイアーをして……。
(あの頃はまだ、母が豹変する前だったな)
ぼんやりしていると、バシッとエミリに背中を叩かれた。
『行くわよ! あーっ、ワクワクする!』
会社では決して見せない表情の彼女を見て、自然と俺まで笑顔になっていた。
『ちょっと待って! エミリ! マジで怖い!』
『大丈夫だって! いけるいける!』
俺はロープを掴みながら、地上十メートルの高さで板を渡り、脚をガクガクさせている。
こんな情けない姿を見せているのに、エミリは呆れるどころか、めちゃくちゃ励ましてくれている。
『ほらいけた! ハイタッチ!』
彼女がいる場所にたどり着くと、エミリが笑顔で手を合わせてくる。
普段は絶対こんな所来ないのに、彼女が俺にどんどん新しい世界を教えてくれる。
高い場所を、不安定な足場で歩いていると当然怖いのだが、周りは緑に囲まれ、新鮮な空気を胸一杯に含んでいると、生まれ変わったような心地になる。
いつもマンションの自室に籠もってダラダラと映画を見たり、ピンセットやニッパー片手にチマチマとプラモデルを作っている自分なら、まず身を置かない環境だ。
(外に出るっていいな)
汗を掻くのを嫌って、夏場はなるべくクーラーの効いた室内にいようとしている自分が、木々に囲まれているとはいえ、陽光を浴びて屋外で大きな声を上げている。
ちょっとだけ足を引っかける場所がある棒に捕まって空中移動したり、座る所が極端に細いブランコみたいな足場が、ジグザグに斜めになっている場所を渡り、腕がブルブル震える。
エミリって凄いなと思うのは、アスレチック慣れしているのか、『こわーい!』と言いながらスイスイ進んでいる事だ。
最後はジップラインに乗って空中をブワーッと滑走し、木のチップが敷き詰められたゴールに、尻から着地する。
『お疲れ~!』
先に到着していたエミリが俺に手を差しだし、『格好悪い』と思いながらも、『ありがと』と彼女の手を握って立ちあがった。
『次に来る人の邪魔になるから、移動しましょうか』
彼女は俺の手を握り、先を歩いて行く。
不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。
今までずっと『長男だから』『篠宮ホールディングスの御曹司だから』と自分に言い聞かせ、女性と付き合う時も彼女たちが求める理想を演じ続けてきたし、リードした。
本来の自分はもっと面倒くさがりで、融通の利かない部分もあるし、人の感情の機微に敏感なようでいて、本当はもっと鈍感でいたかった。
『察してほしい』という顔をしている人を見ても、『今の俺には抱えられない』と素通りしたかった。
でも、母を怒らせないように、周りから『さすが風磨くんね』と言われるために、何でも一番でいなければと思って頑張り、格好付けてきた。
なのに今の俺は、好きな女性の前で尻に土を付けて転んでいる。
あまつさえ、エミリに手を引かれて立たされ、グイグイと次の場所へ連れて行かれてる。
(……これでいいのか? 呆れられない?)
不安に思った俺は、歩みを止め、自然とエミリの手を離した。
『ん? どうしたの?』
いつの間にかタメ語になった彼女は、キラキラとした笑顔で俺を振り向く。
サワサワと風が吹いて木々の葉を揺らす中、俺はその場に立ち尽くしてエミリを見つめる。
『俺、格好悪くない?』
『あー……、そうきましたか。上手いですね……』
エミリはうんうんと頷き、『分かりました』と根を上げた。
『でもまだ、〝お付き合い〟じゃないですからね。〝一緒に遊ぶ〟んだと思ってください』
『分かったよ。エミリのガードは堅いから、少しずつ攻略させてもらう。RPGゲームも好きだから、コツコツ経験値稼ぎとかは好きなんだ』
ニコッと笑うと、彼女は視線を逸らして照れ隠しをしつつ言う。
『……その次は、篠宮さんが立てたプランに付き合ってもいいですけど』
『やった! ……っていうか、エミリってツンデレ属性なんだね。俺、二次元だとおっとりお姉さんタイプが好きなんだけど、やっぱり実際好きになる人は違うなぁ……』
『……篠宮さんって、結構オタクですか?』
『まぁ、幼少期から抑圧された男は、太陽のもとでストレス発散ってならないよね……』
『全員がそうじゃないでしょう』
『オタクは嫌い?』
『付き合った事はないですけど、……まぁ、付き合ってみないと何とも言えませんね。偏見は持っていないつもりです』
『良かった。……確かに俺とエミリは趣味が正反対だけど、お互い強制しないように気をつけつつ、相手が大事にしているものを知っていくのもアリだと思う』
『そうですね。それについては賛成です』
『じゃあ、いつ遊べるかスケジュール立てようか』
『分かりました』
そうやって、幸いにも俺はエミリに一目惚れしたその日に、一回目のデートの約束をとりつける事ができたのだった。
後日、俺は早朝に車でエミリを迎えに行き、そのまま東海道を進み、那須ICを使って那須高原にある屋外アスレチック『OSARU』へ着いた。
本心としては一泊したいところだが、まだ〝一緒に遊びに行く友達〟なので、変な下心を見せてはいけない。
アスレチックとの事で、服装はTシャツに伸縮性のあるパンツ、スニーカー姿で望む。
いつもは女性とデートする時は、清潔感がありながらも高級感やお洒落さを忘れないファッションだったので、初手から変な気持ちだ。
エミリも半袖Tシャツにグレーのスウェットにスニーカー、ヘルメット着用のため、髪は二つ縛りにしていてやる気満々だ。
受付を済ませると、ハーネスやヘルメットを装着し、スタッフから器具の使い方などをしっかりレクチャーされる。
高さ十メートルもある場所で、不安定な足場を渡っていくので、ずっと命綱に守られているとはいえ、万が一の事があっては困る。
自然に囲まれた中、スタッフの説明を受けている俺は、とても懐かしい気持ちになった。
ずっと都会で過ごしていて、こんなデートを求める女性は今までいなかった。
森の中にいるなんて、学生時代の課外授業以来に思える。
飯盒でご飯を炊いて、カレーを作って、キャンプファイアーをして……。
(あの頃はまだ、母が豹変する前だったな)
ぼんやりしていると、バシッとエミリに背中を叩かれた。
『行くわよ! あーっ、ワクワクする!』
会社では決して見せない表情の彼女を見て、自然と俺まで笑顔になっていた。
『ちょっと待って! エミリ! マジで怖い!』
『大丈夫だって! いけるいける!』
俺はロープを掴みながら、地上十メートルの高さで板を渡り、脚をガクガクさせている。
こんな情けない姿を見せているのに、エミリは呆れるどころか、めちゃくちゃ励ましてくれている。
『ほらいけた! ハイタッチ!』
彼女がいる場所にたどり着くと、エミリが笑顔で手を合わせてくる。
普段は絶対こんな所来ないのに、彼女が俺にどんどん新しい世界を教えてくれる。
高い場所を、不安定な足場で歩いていると当然怖いのだが、周りは緑に囲まれ、新鮮な空気を胸一杯に含んでいると、生まれ変わったような心地になる。
いつもマンションの自室に籠もってダラダラと映画を見たり、ピンセットやニッパー片手にチマチマとプラモデルを作っている自分なら、まず身を置かない環境だ。
(外に出るっていいな)
汗を掻くのを嫌って、夏場はなるべくクーラーの効いた室内にいようとしている自分が、木々に囲まれているとはいえ、陽光を浴びて屋外で大きな声を上げている。
ちょっとだけ足を引っかける場所がある棒に捕まって空中移動したり、座る所が極端に細いブランコみたいな足場が、ジグザグに斜めになっている場所を渡り、腕がブルブル震える。
エミリって凄いなと思うのは、アスレチック慣れしているのか、『こわーい!』と言いながらスイスイ進んでいる事だ。
最後はジップラインに乗って空中をブワーッと滑走し、木のチップが敷き詰められたゴールに、尻から着地する。
『お疲れ~!』
先に到着していたエミリが俺に手を差しだし、『格好悪い』と思いながらも、『ありがと』と彼女の手を握って立ちあがった。
『次に来る人の邪魔になるから、移動しましょうか』
彼女は俺の手を握り、先を歩いて行く。
不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。
今までずっと『長男だから』『篠宮ホールディングスの御曹司だから』と自分に言い聞かせ、女性と付き合う時も彼女たちが求める理想を演じ続けてきたし、リードした。
本来の自分はもっと面倒くさがりで、融通の利かない部分もあるし、人の感情の機微に敏感なようでいて、本当はもっと鈍感でいたかった。
『察してほしい』という顔をしている人を見ても、『今の俺には抱えられない』と素通りしたかった。
でも、母を怒らせないように、周りから『さすが風磨くんね』と言われるために、何でも一番でいなければと思って頑張り、格好付けてきた。
なのに今の俺は、好きな女性の前で尻に土を付けて転んでいる。
あまつさえ、エミリに手を引かれて立たされ、グイグイと次の場所へ連れて行かれてる。
(……これでいいのか? 呆れられない?)
不安に思った俺は、歩みを止め、自然とエミリの手を離した。
『ん? どうしたの?』
いつの間にかタメ語になった彼女は、キラキラとした笑顔で俺を振り向く。
サワサワと風が吹いて木々の葉を揺らす中、俺はその場に立ち尽くしてエミリを見つめる。
『俺、格好悪くない?』