部長と私の秘め事
――守らないと。
俺も母の前では同じようになって、何も言えなくなる。
でもエミリの母親相手なら問題ない。
『初めまして。篠宮ホールディングスの副社長、篠宮風磨と申します。エミリさんは私の秘書で、清いお付き合いをさせていただいています』
穏やかな笑みを浮かべて挨拶すると、彼女の母は態度を豹変させる。
『まぁ……! 副社長さんなんですか? 娘がお世話になっています。この子、何をやらせても駄目なんですが、ご迷惑をお掛けしていませんか?』
『エミリさんはとても優秀な女性ですよ。むしろ私がお世話になっています』
だが、その言葉が駄目だったようだ。
彼女の母親は瞬時にしていやらしい笑みを浮かべ、納得したという表情で頷く。
『〝そういう意味〟だったんですね。やっぱりこの子は何もできないから、〝そういう事〟でしか価値を示せませんもんねぇ。秘書としては無能かもしれませんが、愛人でもいいので役立ててください』
――不愉快だ。
苛立った俺は、スッと真顔になって言う。
『今の言葉を訂正してください。私とエミリさんは性的な関係にはなっていません。娘をそんな目で見て恥ずかしくないんですか?』
すると母親はカァッと赤面し、ヒステリックに喚いた。
『私が間違えているとでも言うの!? その子は誰とでも付き合う尻軽だし、父親の事も誘惑したわ!』
『やめて!』
瞬間、それまで黙っていたエミリが悲鳴を上げた。
振り向くと、彼女は大粒の涙を流し、クシャリと表情を歪めて言う。
『……お願いだから……、やめて。……彼に聞かせないで……』
『エミリ! 家に帰って来なさい!』
『いや!』
大体の事は見当がついたが、エミリから詳細を聞かないと判断できない。
ただ、今は彼女を毒親から引き離し、安全な場所に連れて行くのが先だ。
『丸木さん、お帰りください。エミリさんは嫌がっています』
『どうして私が帰らないといけないの!? 母親が娘の家に入るのは当然でしょう!?』
埒があかないと思った俺は、エミリの肩を抱いて車に向かう。
『今日は俺の家に泊まって。部屋は沢山あるから心配しなくていい』
『エミリ! 逃げるの!?』
母親はエミリと血が繋がっているだけあって顔が整っているが、内面が滲み出ているせか、ひどく醜く感じられた。
『さぁ、乗って』
俺はエミリを後部座席に押し込み、金切り声を上げる母親を尻目に、自分も車に乗る。
『出してください』
運転手に伝えると、車は滑らかに走り出した。
私――、丸木エミリはごく普通の一般家庭で生まれた。
生まれた時は来栖エミリという名前で、父の真一は凡庸ながらも優しくていい人だった。
けれど父は心臓に疾患を抱えていて、私が十三歳の時に儚い人となってしまった。
父を愛していた母、絵理奈は嘆き悲しみ、家事もまったくできなくなるほどだった。
私を心配した祖父母は、スマホを持たせてくれた。
それで祖父母と連絡をとり、ネットでレシピを検索してご飯を作った。
ようやく立ち直った母は、私に愛情を注ぐより、生活の基盤となるお金を重視した。
そして婚活に明け暮れ、私が十五歳の時に再婚した相手が今の父親――、龍也だ。
母より十歳ほど年上の継父は、不動産会社のボンボンだ。
継父もバツイチらしいが、その性格が原因で離婚されたのだと思っている。
本人は『俺から別れを切りだした』と言い張っているけれど、十中八九、継父が原因だ。
加えて私には異母兄弟がいるらしいけれど、会った事はない。
いつだったか継父が『息子たちは成人してるし、たまに酒を飲み交わす友人みたいな関係だ』と自慢げに言っていたが、離婚された人が誇る事じゃないと思った。
継父は嫌になるほど成金感の強い人で、母に『再婚する事にしたの』と紹介された時は、実父とまったくタイプの異なる男性を見て拒否感を抱いた。
継父は日焼けサロンで色黒になり、いい歳をしたおっさんなのに金髪で、金のアクセサリーをゴテゴテつけている。
見るからに成金感があって凄く嫌だけれど、母が今後の生活のためを思って、お金のある人と結婚すると息巻いていたのは知っていたから、受け入れるしかなかった。
俺も母の前では同じようになって、何も言えなくなる。
でもエミリの母親相手なら問題ない。
『初めまして。篠宮ホールディングスの副社長、篠宮風磨と申します。エミリさんは私の秘書で、清いお付き合いをさせていただいています』
穏やかな笑みを浮かべて挨拶すると、彼女の母は態度を豹変させる。
『まぁ……! 副社長さんなんですか? 娘がお世話になっています。この子、何をやらせても駄目なんですが、ご迷惑をお掛けしていませんか?』
『エミリさんはとても優秀な女性ですよ。むしろ私がお世話になっています』
だが、その言葉が駄目だったようだ。
彼女の母親は瞬時にしていやらしい笑みを浮かべ、納得したという表情で頷く。
『〝そういう意味〟だったんですね。やっぱりこの子は何もできないから、〝そういう事〟でしか価値を示せませんもんねぇ。秘書としては無能かもしれませんが、愛人でもいいので役立ててください』
――不愉快だ。
苛立った俺は、スッと真顔になって言う。
『今の言葉を訂正してください。私とエミリさんは性的な関係にはなっていません。娘をそんな目で見て恥ずかしくないんですか?』
すると母親はカァッと赤面し、ヒステリックに喚いた。
『私が間違えているとでも言うの!? その子は誰とでも付き合う尻軽だし、父親の事も誘惑したわ!』
『やめて!』
瞬間、それまで黙っていたエミリが悲鳴を上げた。
振り向くと、彼女は大粒の涙を流し、クシャリと表情を歪めて言う。
『……お願いだから……、やめて。……彼に聞かせないで……』
『エミリ! 家に帰って来なさい!』
『いや!』
大体の事は見当がついたが、エミリから詳細を聞かないと判断できない。
ただ、今は彼女を毒親から引き離し、安全な場所に連れて行くのが先だ。
『丸木さん、お帰りください。エミリさんは嫌がっています』
『どうして私が帰らないといけないの!? 母親が娘の家に入るのは当然でしょう!?』
埒があかないと思った俺は、エミリの肩を抱いて車に向かう。
『今日は俺の家に泊まって。部屋は沢山あるから心配しなくていい』
『エミリ! 逃げるの!?』
母親はエミリと血が繋がっているだけあって顔が整っているが、内面が滲み出ているせか、ひどく醜く感じられた。
『さぁ、乗って』
俺はエミリを後部座席に押し込み、金切り声を上げる母親を尻目に、自分も車に乗る。
『出してください』
運転手に伝えると、車は滑らかに走り出した。
私――、丸木エミリはごく普通の一般家庭で生まれた。
生まれた時は来栖エミリという名前で、父の真一は凡庸ながらも優しくていい人だった。
けれど父は心臓に疾患を抱えていて、私が十三歳の時に儚い人となってしまった。
父を愛していた母、絵理奈は嘆き悲しみ、家事もまったくできなくなるほどだった。
私を心配した祖父母は、スマホを持たせてくれた。
それで祖父母と連絡をとり、ネットでレシピを検索してご飯を作った。
ようやく立ち直った母は、私に愛情を注ぐより、生活の基盤となるお金を重視した。
そして婚活に明け暮れ、私が十五歳の時に再婚した相手が今の父親――、龍也だ。
母より十歳ほど年上の継父は、不動産会社のボンボンだ。
継父もバツイチらしいが、その性格が原因で離婚されたのだと思っている。
本人は『俺から別れを切りだした』と言い張っているけれど、十中八九、継父が原因だ。
加えて私には異母兄弟がいるらしいけれど、会った事はない。
いつだったか継父が『息子たちは成人してるし、たまに酒を飲み交わす友人みたいな関係だ』と自慢げに言っていたが、離婚された人が誇る事じゃないと思った。
継父は嫌になるほど成金感の強い人で、母に『再婚する事にしたの』と紹介された時は、実父とまったくタイプの異なる男性を見て拒否感を抱いた。
継父は日焼けサロンで色黒になり、いい歳をしたおっさんなのに金髪で、金のアクセサリーをゴテゴテつけている。
見るからに成金感があって凄く嫌だけれど、母が今後の生活のためを思って、お金のある人と結婚すると息巻いていたのは知っていたから、受け入れるしかなかった。