部長と私の秘め事
その後も、関東近郊に住んでいる祖父母の家に、私一人で遊びに行く事はあり、彼らとはいい関係を結べている。
万が一、継父が一線を越えようとしたなら、私一人の責任で警察を呼べばいい。
けれどそうなる前に、両親に知られない場所に引っ越して、自分なりの幸せを掴むべきだ。
そのようにして、今までの住まいよりはずっと狭いけれど、落ち着いて過ごせる城を手に入れた。
勿論、防犯には気をつけているし、一人暮らしの女性が気をつけるべき事は、すべて頭に叩き込んだ。
両親からメッセージがこないよう、アプリのアカウントはブロックし、メールも拒否したし、スマホの電話番号も変えた。
それでも両親に見つかってしまい、住まいを点々として今に至る。
母は『育ててやった恩を忘れたの!?』と言い、父は『女の一人暮らしは危ないから、いざとなったら親が駆けつけられる所にいなさい』ともっともらしい事を言う。
――あんた達に見つかるのが嫌だから、こうやって逃げ回ってるんだろうが!
見つかるたびに地獄を味わい、誰の事も信じられず、出社してはひたすら働き、休日には中古で買った車をかっ飛ばして、思いきり体を動かした。
自分には男性の愛情なんて必要ない。
そう思っていたのに、御曹司のくせにどこか抜けた、それでいて自分と同じ匂いのする風磨さんと出会った。
俺のマンションに着くまで、エミリは酷く震えて何も話さなかった。
家は玄関から入って右手が五十畳近くのリビングダイニングにキッチン、そして広いバルコニーがあり、左手に居住スペースがある。
俺はまずエミリに洗面所や風呂場を案内し、今晩彼女に使ってもらう客間を教えた。
九月に入ったがまだ暑いので、お互い風呂に入ってスッキリしたあとに話し合う事にする。
いつエミリが来てもいいように着替えを買っておいたのが役立ったが、もしも彼女にいつもの元気があったなら、一言チクリと言われていたかもしれない。
俺はマスターベッドルームの近くにあるバスルームで汗を流し、ラフな格好に着替えて、キッチンで飲み物を用意した。
やがてエミリはサラッとしたグレーのスウェット地の、半袖、短パン姿で現れた。
『……なんで女性物の基礎化粧品まで揃ってるの……』
『いつ泊まってくれてもいいように』
ニコッと笑うと、彼女は溜め息をついてソファに腰かけた。
『はい、モクテル』
俺はバルコニーのプランターで育てているミントと、自家製レモネードとで作ったモヒート風レモネードを出す。
『……なんでこんなに無駄にお洒落なの……』
文句を言える程度には元気になったようで、何よりだ。
『話を聞いてもいい?』
尋ねると、エミリはモクテルを飲んでから溜め息をつき、ポツポツと自分の生い立ちを語り始めた。
すべて聞き終えた俺は、エミリの手を握る。
『……俺は君の何を見てきたんだろうな。勝手にエミリは自立した強い女性なんだと思っていた。〝事情〟があると分かっていたのに、表面的な強さを見て〝大丈夫〟だと思っていた。ごめん。……でも今は全部教えてもらえて、覚悟が決まった』
そう言うと、エミリは涙の溜まった目で俺を見つめ、尋ねてきた。
『何を聞いてたの? こんな私を受け入れる? さっきだって面倒臭い母親がいるのを見たでしょう? あんなの、受け入れられる訳がないじゃない! ~~~~っ、あぁ、また引っ越さないと……っ!』
エミリは俺の手を振り払い、両手でギュッと自分を抱き締める。
そんな彼女を見て、『守らないと』と強く思った。
『ねぇ、エミリ。一緒に住まないか?』
問いかけると、途方に暮れた表情の彼女は、涙を流しながら俺を見る。
『同棲して囲い込んでしまおうとかじゃないんだ。今はまず、君の身の安全を確保したい。見ての通り、君が生活するスペースは十分にあるし、バス、トイレ、洗面も完全に分けられる。エミリも言っていたように、引っ越すとなれば、まとまった金額がいる。今後も見つかるたびに物件を探して引っ越して……って繰り返していたら、思うように貯金できないと思うんだ。好きな事に金を使うならともかく、こういう事で金が飛ぶのは本意ではないだろう』
彼女は小さく頷いた。
『同棲……って言ったら恋愛ありきになってしまうから、同居と表現するけど、同居するにあたって、エミリが俺の事を彼氏としてみなさない限り、家で君を性的に見ないと誓う。決まり事は守るし、予定が合えば今まで通りデートに誘いたいけど、家ではオンオフをしっかり守る。エミリには〝家〟でちゃんと寛いでほしいし、話しかけてほしくない時は言ってくれればそうする』
涙を拭った彼女は、少し表情を緩めて笑う。
万が一、継父が一線を越えようとしたなら、私一人の責任で警察を呼べばいい。
けれどそうなる前に、両親に知られない場所に引っ越して、自分なりの幸せを掴むべきだ。
そのようにして、今までの住まいよりはずっと狭いけれど、落ち着いて過ごせる城を手に入れた。
勿論、防犯には気をつけているし、一人暮らしの女性が気をつけるべき事は、すべて頭に叩き込んだ。
両親からメッセージがこないよう、アプリのアカウントはブロックし、メールも拒否したし、スマホの電話番号も変えた。
それでも両親に見つかってしまい、住まいを点々として今に至る。
母は『育ててやった恩を忘れたの!?』と言い、父は『女の一人暮らしは危ないから、いざとなったら親が駆けつけられる所にいなさい』ともっともらしい事を言う。
――あんた達に見つかるのが嫌だから、こうやって逃げ回ってるんだろうが!
見つかるたびに地獄を味わい、誰の事も信じられず、出社してはひたすら働き、休日には中古で買った車をかっ飛ばして、思いきり体を動かした。
自分には男性の愛情なんて必要ない。
そう思っていたのに、御曹司のくせにどこか抜けた、それでいて自分と同じ匂いのする風磨さんと出会った。
俺のマンションに着くまで、エミリは酷く震えて何も話さなかった。
家は玄関から入って右手が五十畳近くのリビングダイニングにキッチン、そして広いバルコニーがあり、左手に居住スペースがある。
俺はまずエミリに洗面所や風呂場を案内し、今晩彼女に使ってもらう客間を教えた。
九月に入ったがまだ暑いので、お互い風呂に入ってスッキリしたあとに話し合う事にする。
いつエミリが来てもいいように着替えを買っておいたのが役立ったが、もしも彼女にいつもの元気があったなら、一言チクリと言われていたかもしれない。
俺はマスターベッドルームの近くにあるバスルームで汗を流し、ラフな格好に着替えて、キッチンで飲み物を用意した。
やがてエミリはサラッとしたグレーのスウェット地の、半袖、短パン姿で現れた。
『……なんで女性物の基礎化粧品まで揃ってるの……』
『いつ泊まってくれてもいいように』
ニコッと笑うと、彼女は溜め息をついてソファに腰かけた。
『はい、モクテル』
俺はバルコニーのプランターで育てているミントと、自家製レモネードとで作ったモヒート風レモネードを出す。
『……なんでこんなに無駄にお洒落なの……』
文句を言える程度には元気になったようで、何よりだ。
『話を聞いてもいい?』
尋ねると、エミリはモクテルを飲んでから溜め息をつき、ポツポツと自分の生い立ちを語り始めた。
すべて聞き終えた俺は、エミリの手を握る。
『……俺は君の何を見てきたんだろうな。勝手にエミリは自立した強い女性なんだと思っていた。〝事情〟があると分かっていたのに、表面的な強さを見て〝大丈夫〟だと思っていた。ごめん。……でも今は全部教えてもらえて、覚悟が決まった』
そう言うと、エミリは涙の溜まった目で俺を見つめ、尋ねてきた。
『何を聞いてたの? こんな私を受け入れる? さっきだって面倒臭い母親がいるのを見たでしょう? あんなの、受け入れられる訳がないじゃない! ~~~~っ、あぁ、また引っ越さないと……っ!』
エミリは俺の手を振り払い、両手でギュッと自分を抱き締める。
そんな彼女を見て、『守らないと』と強く思った。
『ねぇ、エミリ。一緒に住まないか?』
問いかけると、途方に暮れた表情の彼女は、涙を流しながら俺を見る。
『同棲して囲い込んでしまおうとかじゃないんだ。今はまず、君の身の安全を確保したい。見ての通り、君が生活するスペースは十分にあるし、バス、トイレ、洗面も完全に分けられる。エミリも言っていたように、引っ越すとなれば、まとまった金額がいる。今後も見つかるたびに物件を探して引っ越して……って繰り返していたら、思うように貯金できないと思うんだ。好きな事に金を使うならともかく、こういう事で金が飛ぶのは本意ではないだろう』
彼女は小さく頷いた。
『同棲……って言ったら恋愛ありきになってしまうから、同居と表現するけど、同居するにあたって、エミリが俺の事を彼氏としてみなさない限り、家で君を性的に見ないと誓う。決まり事は守るし、予定が合えば今まで通りデートに誘いたいけど、家ではオンオフをしっかり守る。エミリには〝家〟でちゃんと寛いでほしいし、話しかけてほしくない時は言ってくれればそうする』
涙を拭った彼女は、少し表情を緩めて笑う。