部長と私の秘め事
 豪邸に住んでいる事も、毎日美味しいご飯を食べられるのも魅力的だけれど、何より風磨さん自身が素敵だ。

 一般的に言われる男らしさは、あまりない人かもしれない。

 でも決して私を加害せず、権利を尊重してくれるのは重要だ。

 当たり前の事だけれど、今までそうしてくれる人は皆無に近かったため、風磨さんといると心から安らげた。

 それに彼は話していても、揚げ足をとったり、誰かを馬鹿にしたりしない。

 デートしていても店員さんに丁寧な振る舞いをするし、困っている人がいたら自然に助けに行く人だ。

 恩着せがましい態度はとらないし、根っから優しい人だとすぐ分かった。

 だから、もう意地を張るのはやめた。

 ――この人の愛を受け入れよう。

 決意した私は、〝同居〟から〝同棲〟に変える提案をした。





 私は二十二歳の新卒で篠宮ホールディングスに入社し、たまたま総務部秘書課に配属され、四月から六月に研修を受け、役員付き秘書の補佐をして仕事を覚えていった。

 それまでは風磨さんには諸岡さんの他、三十歳前半の女性秘書がいたけれど、夏になって彼女が産休をとった事により欠員が出たのだ。

 諸岡さんは、秘書課の女性たちが虎視眈々と風磨さんを狙っているのを知っていたからか、『他の皆さんはすでに担当している重役がいますし、新しい風を呼びましょう』と私を選んだ。

 それが周囲からの嫉妬を買う結果になったのだけれど、風磨さんがビシッと言ってくれたし、諸岡さんや他のまともな人たちは〝分かって〟くれている。

 そして懇親会の日、諸岡さんは身内の不幸があって参加せず、私と風磨さんが二人で鉄板焼きのお店に行き、『気持ち悪い』発言から今に至る。





 本格的な秋が訪れる前には正式に付き合う事になったけれど、意外なまでに私たちの相性は良かった。

 段階を踏んでキス、服の上から体を触り、愛撫されたけれど、風磨さんは『無理しなくていいからね』と私のコンディションを優先してくれた。

 そうやって丁寧に扱ってくれたからか、クリスマスデートの時に初めてエッチしても、まったく拒否感は出なかった。

 むしろ『こんな幸せな事があるんだ』と、初めて性交について前向きな気持ちを持てたほどだ。

 彼は自分で言ってた通り、性欲が弱いほうらしい。

 だからなのか、行為の最中も自分の欲を優先する事なく、ひたすら私を気持ち良くする事に注力し、信じられない事に一晩の間に数え切れないほど絶頂してしまった。

 あとから聞けば、自分が射精する事についてはそれほど熱意を持ってないけれど、私を気持ち良くさせて達かせると、達成感を得られるそうだ。

 幸いにもそのような形で、私たちの肉体的な相性はぴったり合った。

 けれど私も風磨さんも性的にガツガツしているほうではないので、一般的なカップルよりはエッチをする頻度は低い。

 でも一緒にいて安らげる事が重要なので、大した問題ではなかった。





 俺とエミリが付き合い、同棲している事は、思っていたより早く母に知られた。

 母は経理部長をしていて、当然第二秘書であるエミリの事も認識している。

 家族なので母は俺のマンションの合鍵を持っているが、食べ物のお裾分けをする時は、大抵家政婦さんに任せている。

 だから余程の事がない限り、母が俺のマンションに来る事はないと思っていた。

 だがある日、エミリと一緒にマンションに帰ると、ロビーのソファに母が座って待っていた。

『……お母さん……』

 立ち止まった俺を見て母は立ちあがり、チラッとエミリを一瞥する。

『今までみたいに〝遊び〟なら問題ないけど、結婚相手はお母さんがきちんとした人を用意しますからね』

 それを聞き、怒りがこみ上げた。

『結婚までお母さんの世話になろうとは思っていません。俺はエミリを愛していますし、彼女と結婚します』

 母はエミリを見ずに、彼女を否定する。

『興信所を使って調べさせたけど、母親の再婚相手が不動産会社の社長なのはいいとして、家族仲が良くないみたいじゃない。お盆や正月になっても集まらず、両親から逃げるように点々と引っ越してるんですって? 両親と折り合いが悪いからって風磨を利用し、篠宮家を巻き込むのはやめてほしいわ』

 隣に立っているエミリはスッと息を吸い、俯く。

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