部長と私の秘め事
食い違う意見
「え、えーと……。去年の年末ぐらいから……」
「副社長って上村さんみたいな女性がタイプなんですね。商品開発部の部長だった頃から、決まった人がいるって話は聞いていなかったので……」
「……あはは……」
彼が恋愛どころじゃなかった事は言うべきじゃないので、私は曖昧に相槌を打つ。
チラッと恵を見ると、モグモグと口を動かしつつ変な顔をしていた。
「副社長とのデートって、やっぱり高級店とか行きますか?」
「あぁー……、うん、まぁ」
「すごーい! 憧れます! 私、そういうレストランにはあまり縁がないので、テーブルマナーとか、ちゃんとできるか不安です。上村さんはそういうの完璧なんですよね? 凄いなぁ……」
「いや、完璧ってほどじゃないんですが……」
私ごときにわかが、テーブルマナー完璧と言ったら、どこぞのマナー講師に袋だたきに遭いそうだ。
「上村さんってスッとした美人と思って、声が掛けづらい高嶺の花みたいな印象があったんですけど、思いの外話しやすくて安心しています。……上村さんに憧れてる男性って、実は多いんじゃないですか? 噂では商品開発部でも、営業部でも、男性に迫られていたとか……」
「いやいや、ないです。全然です」
数名の男性が頭によぎったけれど、全力で否定する。
恵は目を細め、首を傾げていた。
そんな感じで、小鳥遊さんってちょっとミーハーなんだな~、という感想を抱いて社食を出ようとした時、彼女が私の服を褒めてくる。
「今日のワンピース素敵ですね。上村さんだからモデルみたいに着こなせるんですね。私だったら身長が足りないし、体のメリハリもないから駄目だなぁ」
「……ありがとうございます」
今日着ているのは、フレンチスリーブのIラインワンピースで、ウエストの高い位置に切り替えがあるけれど、くるぶしまで丈があるので、確かに着る人を選ぶ服かもしれない。
それに濃い目のグレー一色なので、ちょっと重たい感じに見える可能性もある。
「午後も頑張りましょうね」
小鳥遊さんはそう言って、ぐっと拳を握って笑い、去って行った。
彼女の姿が完全に見えなくなったあと、恵が尋ねてくる。
「あれが歓迎会で友好的に接してきた人?」
「うん。小鳥遊琴音ちゃんって言うの」
名前を教えると、恵はもう一度首を傾げてからボソッと言った。
「あんまり好きじゃないかな」
「え……、そう?」
私は少し驚き、しげしげと親友を見る。
恵は確かに好き嫌いがハッキリしているけれど、人間関係においては余計な軋轢を生まないように、「どうでもいい」と思う人には中庸な態度をとる。
だから彼女がそう言ったなら、「ナシ寄りのナシ」なのだ。
「……でも、凄く良さそうな人だったよ?」
「うーん……」
歩きながら恵は微妙な顔をし、しばらく考え込む。
「恵のセンサーが働いてるの?」
数分経っても何も言わないので、そう尋ねてみると、彼女はようやく口を開いた。
「そうだね。センサーというか、感覚というか、第一印象というか……、天のお告げ?」
「なんじゃそりゃ」
恵の冗談に、私はケラケラ笑う。
「……それは冗談として、んー……、『何となく』の感覚だから、朱里はあまり気にしなくていいよ。ホラ、私、人の好き嫌いがハッキリしてるじゃん。田村にもずっと塩対応だったし。……まぁ、私は朱里の事が好きだったから、ずっとあいつを恋敵として見ていて、嫌いだったっていうのもあるんだけど。その前にあいつの人間性が、やっぱり何となく嫌だったんだよね。初対面の時から『なんかやだ』って思ってた」
「……うん。恵の勘って当たるよね。気をつけてみるね。……一旦受け入れてしまった以上、明確な理由もなく、いきなり拒否するのは良くないから、自分でもちゃんと見極めてみる」
「うっす」
恵は私の背中をポンと叩く。
彼女にそう言われたあと、何となく引っ掛かった事を口にした。
「最後のワンピースのくだり、褒めてくれるのは嬉しいけど、自分と比較して、自分を卑下しなくていいのにな……、とは思った」
「……うん、私もそういう所が引っ掛かった。あと、最初の『沢山食べて可愛いですね』って、『沢山食べて』って余計じゃね? って思った。朱里が沢山食べるのを知っていて、なおかつそれをネタにしていいのって、相当仲が良くないと駄目なんだよ。……いや、もしも朱里が大食いいじりを嫌がってるなら、私も反省すべきだけど」
「ううん、全然。だって事実だし、いじられるほど『よーし、食べるぞー!』ってなる」
私がケロリと返事をすると、恵は横を向いて「ぶふっ」と噴き出す。
そして咳払いをして誤魔化すと、続きを口にした。
「副社長って上村さんみたいな女性がタイプなんですね。商品開発部の部長だった頃から、決まった人がいるって話は聞いていなかったので……」
「……あはは……」
彼が恋愛どころじゃなかった事は言うべきじゃないので、私は曖昧に相槌を打つ。
チラッと恵を見ると、モグモグと口を動かしつつ変な顔をしていた。
「副社長とのデートって、やっぱり高級店とか行きますか?」
「あぁー……、うん、まぁ」
「すごーい! 憧れます! 私、そういうレストランにはあまり縁がないので、テーブルマナーとか、ちゃんとできるか不安です。上村さんはそういうの完璧なんですよね? 凄いなぁ……」
「いや、完璧ってほどじゃないんですが……」
私ごときにわかが、テーブルマナー完璧と言ったら、どこぞのマナー講師に袋だたきに遭いそうだ。
「上村さんってスッとした美人と思って、声が掛けづらい高嶺の花みたいな印象があったんですけど、思いの外話しやすくて安心しています。……上村さんに憧れてる男性って、実は多いんじゃないですか? 噂では商品開発部でも、営業部でも、男性に迫られていたとか……」
「いやいや、ないです。全然です」
数名の男性が頭によぎったけれど、全力で否定する。
恵は目を細め、首を傾げていた。
そんな感じで、小鳥遊さんってちょっとミーハーなんだな~、という感想を抱いて社食を出ようとした時、彼女が私の服を褒めてくる。
「今日のワンピース素敵ですね。上村さんだからモデルみたいに着こなせるんですね。私だったら身長が足りないし、体のメリハリもないから駄目だなぁ」
「……ありがとうございます」
今日着ているのは、フレンチスリーブのIラインワンピースで、ウエストの高い位置に切り替えがあるけれど、くるぶしまで丈があるので、確かに着る人を選ぶ服かもしれない。
それに濃い目のグレー一色なので、ちょっと重たい感じに見える可能性もある。
「午後も頑張りましょうね」
小鳥遊さんはそう言って、ぐっと拳を握って笑い、去って行った。
彼女の姿が完全に見えなくなったあと、恵が尋ねてくる。
「あれが歓迎会で友好的に接してきた人?」
「うん。小鳥遊琴音ちゃんって言うの」
名前を教えると、恵はもう一度首を傾げてからボソッと言った。
「あんまり好きじゃないかな」
「え……、そう?」
私は少し驚き、しげしげと親友を見る。
恵は確かに好き嫌いがハッキリしているけれど、人間関係においては余計な軋轢を生まないように、「どうでもいい」と思う人には中庸な態度をとる。
だから彼女がそう言ったなら、「ナシ寄りのナシ」なのだ。
「……でも、凄く良さそうな人だったよ?」
「うーん……」
歩きながら恵は微妙な顔をし、しばらく考え込む。
「恵のセンサーが働いてるの?」
数分経っても何も言わないので、そう尋ねてみると、彼女はようやく口を開いた。
「そうだね。センサーというか、感覚というか、第一印象というか……、天のお告げ?」
「なんじゃそりゃ」
恵の冗談に、私はケラケラ笑う。
「……それは冗談として、んー……、『何となく』の感覚だから、朱里はあまり気にしなくていいよ。ホラ、私、人の好き嫌いがハッキリしてるじゃん。田村にもずっと塩対応だったし。……まぁ、私は朱里の事が好きだったから、ずっとあいつを恋敵として見ていて、嫌いだったっていうのもあるんだけど。その前にあいつの人間性が、やっぱり何となく嫌だったんだよね。初対面の時から『なんかやだ』って思ってた」
「……うん。恵の勘って当たるよね。気をつけてみるね。……一旦受け入れてしまった以上、明確な理由もなく、いきなり拒否するのは良くないから、自分でもちゃんと見極めてみる」
「うっす」
恵は私の背中をポンと叩く。
彼女にそう言われたあと、何となく引っ掛かった事を口にした。
「最後のワンピースのくだり、褒めてくれるのは嬉しいけど、自分と比較して、自分を卑下しなくていいのにな……、とは思った」
「……うん、私もそういう所が引っ掛かった。あと、最初の『沢山食べて可愛いですね』って、『沢山食べて』って余計じゃね? って思った。朱里が沢山食べるのを知っていて、なおかつそれをネタにしていいのって、相当仲が良くないと駄目なんだよ。……いや、もしも朱里が大食いいじりを嫌がってるなら、私も反省すべきだけど」
「ううん、全然。だって事実だし、いじられるほど『よーし、食べるぞー!』ってなる」
私がケロリと返事をすると、恵は横を向いて「ぶふっ」と噴き出す。
そして咳払いをして誤魔化すと、続きを口にした。